教えて!弁護士センセイ telling,の「法律未満の何でも相談」 32

ダブル不倫の末の婚姻が破綻…そんな時、慰謝料って請求できるの?

そのモヤモヤ、法律を味方にすれば少しだけ生きやすくできるかも!日々の困りごとを弁護士の澤井康生先生が、ミレニアル女子目線で易しく解説します。今回のテーマは、ダブル不倫で婚約した後に婚約破棄された場合に慰謝料を請求できるかについて。最近の裁判例をもとに考えます。 A子:MM商事経理部主任 B子:法務部主任

●教えて!弁護士センセイ telling,の「法律未満の何でも相談」 32

B子:A子、お疲れ様。

A子:B子さん、お疲れ様、実はちょっと相談したいことがあって。

B子:その顔はまたまた恋愛トラブルね? 今度はどうしたの?

A子:今回も私じゃなくて私の同僚のG子ちゃんのことなのよ。

B子:あれ? G子ちゃんって結婚していたわよね?

A子:実はここだけの話なんだけどG子ちゃん、不倫していてね。相手の男性X君も既婚者なのよ。

B子:それってダブル不倫っていうことよね?

A子:そういうことなんだけど。G子ちゃんとX君がお互い本気になってしまって婚約までしちゃったのよ。

B子:お互いダブル不倫の状態と知っていて婚約までしちゃったのね。重婚的婚姻予約という状態ね。

A子:そうなのよ。でもその後、X君の考えが変わったみたいでX君の方から婚約を破棄してきたそうなのよ。

B子:うんうん、それで?

A子:それで、G子ちゃんとしては納得できないから、不当に婚約を破棄されたということで慰謝料を請求できないかって相談されたんだけど……。

B子:ちなみにG子ちゃんとその夫、それからX君とその妻とはそれぞれ離婚の目途は立っていたのかしら?

A子:いいえ、G子ちゃんも夫とは財産分与などの離婚の条件でもめていて、すぐには離婚できない状況だったらしいの。それからX君も妻との間に小さいお子さんがいて、妻が離婚を拒否しているのですぐには離婚できない状態だったらしいのよ。

B子:なるほど……。残念だけど、その状態だと婚約破棄による慰謝料請求は難しいわね。

A子:どうしてダメなのよ?

B子:実は以前、同じような事件があったの。裁判所の判決では、「重婚的婚姻予約が実現されるためには原告及び被告がいずれも従来の配偶者と離婚することが前提となる」という判断が示されたの。

A子:ふむふむ。となると、G子ちゃんとX君のカップルは2人とも今の配偶者と離婚できる状態じゃなかったわけだから、この前提を満たしていなかったってこと?

B子:そういうこと。裁判所の判断はこう続くのよ。「(婚約したカップルの)どちらか一方でも離婚の実現可能性が低い場合には、例え婚約が破棄されたとしても、もともと実現可能性が低い約束が破棄されたにすぎないのであるから、損害賠償を認めることはできない」(東京地裁平成19年5月16日判決を簡略化しています)。

A子:つまり、たとえ婚約をしてもどちらか一方でも今の配偶者と離婚できない限りは新しい相手とは結婚できないわけだから、その婚約は「実現可能性が低い約束」で、法的には保護に値しない。だから、慰謝料ももらえないってことね?

B子:そのとおり。

A子:ありがとう、とても参考になったわ。G子ちゃんにも教えてあげるわ。

B子:ところで私来月からニューヨーク支店に栄転になったから、A子の相談に乗るのは今回で最後になっちゃうのよ。

A子:え~!そうなの……。じゃあ、またこっちに戻ってきたら相談に乗ってね。

B子:今まで教えてあげたことを参考にして自分でリサーチしてみなさいよ。A子ならできるわよ。

A子:ありがとう。じゃあしばらくお別れね^^

B子:ということでバイバイ~^^

(教えて!弁護士センセイ telling,の「法律未満の何でも相談」は今回で終了します。ご愛読、ありがとうございました。)

■澤井康生先生のプロフィールはこちら
元警察官僚、警視庁刑事を経て旧司法試験合格。弁護士でありながらMBAも取得し現在は企業法務、一般民事事件、家事事件、刑事事件などを手がける傍ら東京簡易裁判所非常勤裁判官、東京税理士会インハウスロイヤー(非常勤)も歴任。公認不正検査士の資格も有し企業不祥事が起きた場合の第三者委員会の経験も豊富、その他テレビ・ラジオ等の出演も多く幅広い分野で活躍。東京、大阪に拠点を有する弁護士法人海星事務所のパートナー。代表著書『捜査本部というすごい仕組み』(マイナビ新書)など。

元警察官僚、警視庁刑事を経て旧司法試験合格。MBAも取得し現在は企業法務、一般民事事件、家事事件、刑事事件などを手がける傍ら東京簡易裁判所非常勤裁判官、東京税理士会インハウスロイヤー(非常勤)も歴任。
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