telling, Diary ―私たちの心の中。

「離婚する」言わない彼だから信用。交際20年レスにならない理由【第4話】

都内の大手企業に勤める浩子さんは独身バツなしの50代。既婚者のパートナーと30代前半から交際がスタートし、20年が経ちます。現在も精神、肉体ともに関係は良好。セックスレスの夫婦が増える中、どうしてこうした関係が続けられるのか、話してくれました。

●となりのセフレさん

積極的に結婚する気がなかった

20年も続けているなんて、笑っちゃいますよね、私たちの関係。自分たちでも「よくやるよね」なんて話しています。

相手は会社の上司で、同じチームで仕事をしていました。彼は既婚者で子供もいたので、そんな関係になるとは思っていませんでした。長く一緒に仕事をして、嫌な部分もよく見ていたので。

親密な関係になったのは、私が30歳を過ぎた頃。
当時の私は「40歳までに結婚しなきゃ!」なんて焦ることもなく、気が向けば男性とデートをしたり、誰かが世話を焼いてお見合い相手を紹介してくれれば、ありがたく会ってみたり。気楽なものでした。

私たちの時代って、大学を出てせいぜい2年働いたら女性は寿退社をする、それがスタンダードでした。そんな中で、入社した頃から私はそんなつもりがなかったんです。30歳まではとりあえず働きたいなって。振り返るとその頃から、心の奥底では積極的に結婚するつもりがなかったんでしょうね。

仕事のプロジェクトを終えて、何度か2人で飲むうちに距離が縮まって、「うっかり」という感じで関係がスタートしてしまいました。でも実は20代の頃にも既婚者の方とお付き合いをしたことがあったので、きっと彼との関係も、こちらに余裕がなくなったり、重くなったりすればそれっきりの、短期間で終わるものだって思っていました。

「せっかくだから、しよう」で20年

それが、週に1、2回のペースで会い続けて、そのままもう20年。
初めの数年こそ、返事のない夜は落ち込んだり、「こんなプレゼントを渡しても彼は持って帰れないよね」と気を揉むこともあったけれど、今はもう男女っぽさがないんですよ。とにかく気が合う。他愛ない話題で連絡を取り合い、連れ立っていろんな所に出かける。それにしても20年なんて、2人で「よく続いたなぁ」ってしみじみすることもあります。

お恥ずかしい話ですが、今も定期的に肉体関係はあります。とぎれたことはありません。でもね、燃え上がるような、スイートな感じではない。お互いに「ほんと、いい年してよくやるよね」なんて笑いながら。でも「せっかくなので」って感じで。

そう、「せっかく」。この気持ちが大きいです。
私、学生の頃から自分に極端に自信がなかったんです。美人なわけでもスタイルが良いわけでもない。それから、子供の時に手術をして、体に傷があって。それがすごくコンプレックスだった。だから、自分とセックスしてくれる人のことを「良い人だなぁ」って思ってたんですよね。自分を良いと思ってくれる人とは「せっかくだから」付き合ってみよう、関係を持ってみようって、思っていたような気がします。

セックスは「良いもの」じゃなくていい

私の周りで、結婚していたり恋人がいる人たちは、ことごとく「レス」な人が多いですね。そういう人たちの前で「私には長年の愛人がいて、今も関係は良好で」なんて言うことはありません。誰にもこの関係は話したことがない。

しいてあげるなら、人よりもセックスというものに期待していないのは大きいと思います。
女性誌を開けば「もっと上手くなるには!」とか「How to企画」もよく見かけるし、女だけの飲み会で「どうすれば良くなるの?」なんて議題は私たちの世代でもやっぱり話題に上がる。

でも私は「そんなに良くなくたっていい」って思っているんです。みんな「セックスは良いものだ」って思いすぎなんじゃないかって。私はたまたまこうしてこの歳でも相手と関係は続いているけど、いつだって「素晴らしい時間を過ごそう」なんて思って、あれこれ工夫をして、手を尽くしているわけじゃないんです。

気が向かない夜には「後でね〜」なんてかわしたり、体調が優れない時はそう伝えたり。もはや肉体関係のために会っているわけではないですから、そこは気兼ねなく、気持ちを伝えます。

だから、セックスのことで悩むことはない。それがもしかすると、結果的に長く続いている秘訣なのかもしれないです。

「離婚する」と言わないから信用できた

寂しくて苦しくて不安、ということはほとんどないですね。むしろ、彼がいることでこの20年は本当に安定して過ごせたと思っていて、感謝しています。

交際当初から一度でも「奥さんと別れる」というようなことを彼が言ったことはありませんでした。私にとってはそれこそが、彼を信頼できる一番の要因でした。

どういうことかと言うと、「離婚する」って不倫相手の機嫌をとる一番簡単な言葉じゃないですか。でも、そういう嘘はつかなかった。彼なりに筋を通していると思えて、そこが逆に信頼できたんですよね。変な話だけど。

せっかくだから、とか、やめる理由がないので、なんて図々しいことを言いながらここまできてしまったけど、もちろん人に勧められるような関係ではないです。
特に、精神が安定していない人にはおすすめできない。

仕事があって、友達がいて、好きな場所に住んで。彼がいることで、よりその安定感が補強された、という感じ。彼によって何かを安定させようと考えたことはないです。「絶対に彼と幸せになってやる!」と思うくらいならさっさとやめていたと思います。

もちろん、自分でもこんなことを続けていてやばいなって思うことはあります。いつか大きなしっぺ返しがくるんじゃないかっていう罪悪感はずっとある。

でも、この20年は楽しくて、それに嘘はないから。これから何かあっても、今まで楽しかった分でおつりがくる人生だとは思っています。

取材後記:
恋人や結婚相手と「レス」になっている人たちを取材する中で出会った浩子さん。幸せになるために人と付き合うのではないという考え方が印象的で、「不倫だからうまくいく」なんていう簡単な結論では片付けられないと感じました。恋愛やセックスが自分にとってどんな存在か、取材が終わった後、ふとまじめに考え込んでしまいました。

20~30代の女性の多様な生き方、価値観を伝え、これからの生き方をともに考えるメディアを目指しています。
となりのセフレさん

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