文筆家・岡田育さん(39歳)

文筆家・岡田育さん「子どもがほしいフリをするの、やめました」

文筆家・岡田育さん(39歳) 『ハジの多い人生』『嫁へ行くつもりじゃなかった』など、女性の素直な心を綴ったエッセイが共感を呼んでいる文筆家の岡田育さん。会社員生活を経て、エッセイストとして独立。著作を多数発表したり、テレビでのコメンテーターを務めたりと多彩な活躍をされ、2015年よりニューヨークに移住。今回は、『40歳までにコレをやめる』を上梓した岡田さんに、書籍のテーマである「やめる」に沿いながら、結婚のこと、子どもを持つということについて伺いました。

交際ゼロ日での結婚

夫とは結婚……何年目だったかなぁ。まさに本書『40歳までにコレをやめる』の中の「年齢を数えるのをやめる」という項目で書いたのですが、パッと思い出せない(笑)。6周年の、7年目かな? 長いですね!
もともと結婚願望はありませんでした、というか、自分が恋愛結婚できるわけがないと思っていましたね。うちの両親が70近くなった今でも、ラブラブの夫婦で、幼い頃から毎日それを間近で見て過ごしてきたことが影響しています。もしも恋愛結婚なるものがこれほどドラマチックなものならば、私にはこんな風に想い合える相手はまず見つからないだろう、と諦めていました。

社会人になってからお付き合いしていた人もいなくはないのですが、ことごとくうまくいかなかったんですよね。当時自分の生き様を「人生ソロ活動」と公言していました。今の夫から「バンド組もうぜ(結婚しようぜ)」と言われなかったら、結婚はしなかったと思います。全然ロマンチックな話じゃなくて、一緒に歩いているとき道端でいきなり「結婚しませんか?」と言われたんですよ。おかげで、ああ、人って別に恋愛感情で結婚しなくたっていいんだな、と思えたんですよね。

夫婦の将来について、企画会議のように話し合った

そうして結婚にあたり、将来の話をする中で、子どもを作るかどうかという話にもなりました。こうした話題についてもドライに話し合える、企画会議のように揉んでいけるのは、交際ゼロ日婚のすごくいいところですよ(笑)。その時に膝を詰めて話したイメージ通りの生活を、今は送れているんじゃないかと思います。

「子ども早く作りなよ!」に対する答え方

もう少し具体的に言うと、「子どもが欲しいフリをするのをやめた」というような感じでしょうか。私自身は子どもが大好きで、年の離れた弟が成長するのを見てきたし、甥っ子や姪っ子と遊ぶのもすごく楽しいですけど、「血を分けた子供に自分の何かを継承させる」といった営みには、まるで興味がないんだな、と気づいたんです。

「子どもはすごくいいよ!岡田さんも早く産むといいよ!」なんて言われることもありますけど……「子どもはすごくいい」というのはわかるけれど、「早く産むとよい」というのは何なんだ?と思いながらスルーしています。

その場限りの雑談を盛り上げるためだけにあれこれ言うのをやめる

私はたまたま、自分の意思で産まない人生を歩んでいるわけですが、妊活しても授からなかったというカップルも勿論いますよね。「作れ作れ」という人たち、どうしてそれぞれの事情に想像力が及ばないんでしょう。その手の無神経な言葉に調子を合わせて、今すぐ産む気はないのに「ですよね〜」と子供を欲しがるフリをしてみたり、あるいは、子の無い人生のほうがハッピーだ、なんて謎の派閥を作って反論したり、その場限りの雑談を盛り上げるためだけにあれこれ言うの、やめにしたいでしょ。

というか、こんな調子の質問がずーっと飛んでくるの、日本くらいじゃないですかね? ニューヨークに住むようになり4年が経ちましたが、アメリカで人と話していて「ウチは子どもはいない」と答えたら「ああ、そう」で、それ以上干渉されたことないですよ。「この話題は広がりがないんだな」と判断したらそこでスパッとその話は終わり、別の話題に移る。何でもかんでも「欧米は素晴らしい」と言うつもりはありませんが、あのからっとした雰囲気はアジア圏とはちょっと違うんでしょう、私はとても気持ちが良いです。

え、そんなに話をブツッと「やめる」のもアリなんだ、って驚くくらい。つまり「私って今まで日本社会の中で、けっこう人の顔色をうかがいながら、会話をつなげるために自分のリアクションを曲げたりしていたんだな」と気づかされますよね。もっと若いときは私も、適齢期に子どもを産みたかったら誰かと結婚しなきゃいけないんだろうし、そのためには恋愛か婚活を……なんてスケジュール表ばかり気になっていましたけど。番狂わせが続いた30代、「常識」とされているものを一つ一つ手放していけたのが、今はよかったんじゃないかと思っています。

【編集後記】
「産む人生・産まない人生」というデリケートな話題。海外ではこうしたことを延々取材で聞くこと自体が稀であるという意見に、思わずインタビュアーとしてハッとさせられるものがありました。誰かの話を聞いて安心したり、逆に不安になったり。そういうことも「辞めて」いけたらと思いました。
後編では、人間関係の交通整理についてお話を伺いました。