女子アナの立ち位置。

【古谷有美】自分だけのものさし、持っていますか?

TBSの朝の顔、古谷有美アナ。またの名を「みんみん画伯」。インスタグラムに投稿される、繊細でスタイリッシュなイラストが人気です。テレビとはひと味違う、本音トークが聞けるかも。

●女子アナの立ち位置。

アナウンサーのことが記事で取り上げられるとき、タイトルでよく使われる言葉があります。「ランキング」「通知表」「視聴率」……。常に、テレビを通して見てくださっている視聴者の皆さんからの「評価」にさらされていることを意識せざるを得ません。

もちろん、そうした緊張感を大切にする一方で、ほどよく距離をおくようにもしています。周りの評価に振り回されると、つい疲れてしまいそうにもなるからです。

それでも、私も、20代に比べると、一喜一憂することはがたいぶ少なくなってきました。
仕事や周囲との比較でモヤモヤすることなく、毎日を穏やかに、豊かに過ごすためには、「こうやったら/こう考えたら、いいんじゃないのかな?」と自分なりの考え方がつかめている気がします。今回のコラムではそうしたコツを2つ紹介したいと思います。

ナレーションの仕事が自信を与えてくれた

たとえば、落ち込んだときや、心が折れそうなとき。
「これだけはちゃんと頑張っている」と胸を張れることが過去の仕事の中に一つでもあると、自分を奮い立たせられるのではないかなと思います。

私の場合は、ナレーションです。
他の人と比べて自分のナレーション力はここが優れている、上手いなんて自信があるわけではありません。
尊敬している先輩のスキルを研究をしたり、自分なりにコツコツと勉強してきたりしたという自負が支えです。

ナレーションの仕事は奥が深いです。
技を磨けば磨くほど、年齢を重ねれば重ねるほど、艶も低音も出せるようになり、幅が広がっていく。思わず唸るようなナレーションの名手の皆さんは、聞かせたいところを声を張り上げたり強調するのではなく、敢えて低いトーンで伝えることで惹きつけたり。
あるいは、声の抑揚はをほとんど変えずに、緩急やリズムで違和感を作ってみせるなんて職人芸の持ち主も。

そんな人たちに近づきたくて、「ナレーションをやらせてください。」とことある毎に伝える努力もしました。短い一言でもいいから、ひたすらやろうと決めて回数を重ねていくと、いろんな現場から声をかけてもらうことも増えて、徐々にできるんだということを知ってくれて…。それが次のモチベーションにつながります。
好きなことに熱中して自信も芽生えてくると、思いがけない方角や人から、「おや?」と落ち込んでしまいそうな評価を受けた時も、「私はこれ(=ナレーション)を頑張っている」と、あまり気持ちが揺れなくなってきました。
好きなことが自分を支える基盤となってくれるのです。

スイカが嫌いってあなたは言うけれど

自分のものさしを意識する

ともすると、外からの評価にも晒されることの多いこの仕事。そんな中、人と比べる「相対評価」ばかりではなく、自身のスキルがどれだけあがっているかを、自分だけの「絶対評価」の軸で見ようと意識して努めていることも、コツの一つです。

絶対評価は、仕事の業務に限らなくてもいいと思いまです。「何が何でも好きなこと」や「時間をかけてじっくりと取り組んでいること」だと思えば、見つかる気がしませんか?
その進ちょくやレベルアップ具合を時折、確認してみて、「よし大丈夫!」と自分で自分の肩をポンポンと叩くように労えるものが一つでもあると、幸せなんじゃないかな、と思います。

「絶対評価」に対して、「相対評価」は、他人の「ものさし」を使って、自分の現状を測るのと同じことです。そんなものさしと真っ向から向き合うと、とても疲れてしまいます。

10代、20代の頃は、皆と同じ「他人のものさし」を使っていました。「あーだこーだ」と測っては、「見返してやる」とか、「追いついてやる」とか思いがちでした。でも、それで自信が無くなってしまう。

人に勝ったり負けたりで落ち込むのではなく、30代って、「私の幸せや満足度を測るものって何だったっけ?」と一度、ものさしをリニューアルしてみてもいい時期だなと思います。

私の場合、過去のものさしをリニューアルしてみて、私が取り戻した本来の自分らしい「ものさし」、があります。それは、旅行する時間を作ることです。

休みを返上してでも、仕事に打ち込むことが正しい、というものさしを手にしていたときは、大好きな旅行にも行かず、ただひたすら職場の往復をするしかなかった。でも、「幸せじゃないし、誰に勝ちたかったのかな」と思い切ってそのものさしを手放したんです。

「あの人は働かなくなった」と周りに見られないか不安にもなりましたが、今では、月に一回くらいのペースで旅をする時間が生まれました。
心が豊かに、逆に仕事にも前向きに取り組めるようになった気がします。

就職氷河期からの就職、そして30代

同じ30代の仲間を見渡すと、自分を見つめ直している人が多い。「本当にこの仕事でいいのかな」と考える時期にさしかかっているように感じます。

私たちの世代は、就職氷河期時代に内定をもらって、「振られた仕事は絶対やる。休むのが怖い」と仕事に打ち込んだ20代を過ごす人が周りにもたくさんいました。
そして、あっという間に30代を迎え、ライフスタイルを見直したい、効率よく働ける職場に転職したいと、行動に移している人も、もしかしたらいるかもしれません。

私もたまに考え込むことがあります。もちろん、仕事は好きですし、誇りもあります。ただ、好きなことを深掘りするには、体力があるうちに挑戦しないと難しいのも事実です。
でも、そこで再び立ち止まります。
いろんなジャンルの人に会えるアナウンサーという仕事に恵まれていて、その中で、「満点」を取ったという感覚ってまだまだ来てないよね?と。

①人に負けたくないという思いより、自分に与えられた仕事のクオリティを一つ一つ上げていく。
②他人との比較では無く、自分だけの評価軸を持つ。

この二つを意識することで、年を重ねる毎にアナウンサーとしての楽しみがどんどん増えていっているのです。

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1988年3月23日生まれ。北海道出身。上智大学卒業後、2011年にTBSテレビ入社。報道や情報など多岐にわたる番組に出演中。特技は絵を描くことと、子どもと仲良くなること。両親の遺伝子からかビールとファッションをこよなく愛す。みんみん画伯として、イラストレーターとしての活動も行う。
九州のローカル局で記者・ディレクターとして、 政治家、アーティスト、落語家などの対談番組を約180本制作。その後、週刊誌「AERA」の記者を経て現在は東京・渋谷のスタートアップで働きながらフリーランスでも活動中。
フォトグラファー。北海道中標津出身。自身の作品を制作しながら映画スチール、雑誌、書籍、ブランドルックブック、オウンドメディア、広告など幅広く活動中。