単細胞的幸福論のすゝめ 10

会えないきみに会いたくなるとき

3年前の3月、私はきみを失った。大好きな友だちの一人だった。大きな手で私の頭をなでてくれたり、同じコンビニでバイトをしたり、眠れない夏の夜を河川敷で過ごしたり。きみを亡くしてからまる3年経ったけれど、きみと過ごした場所のなかで、きみの姿を探してしまう私がいるよ。

●単細胞的幸福論のすゝめ 10

神様に感謝するほど最高のきみ

人生ではじめて失った友達は、高校時代に通った予備校の友だちだった。身長は小さいけどがっしりとした体格をしていて、坊主頭。

いつも角ばったイヤフォンを耳にはめて、NEW ERAのキャップをかぶって自習室でむすっとした表情で座ってた。

角ばったイヤフォンが気になって「ねえ、それどこで売ってるの」と声をかけたのがはじまりだった。「これ?すぐ近くのヴィレヴァンで売ってるよ」と、見た目からは想像できないような優しい話し方で教えてくれた。それから自然と仲良くなった。

高校を卒業後、体調を崩し救急搬送された先の病院で婦人科系の病気が見つかり「あなたは子どもができない」と言われた。当時、大学の教育学部で幼稚園教諭免許と保育士免許の取得を目指し、1ヶ月後に保育園実習を控えていたころだった。

「自分の子どもを抱けないのに、なんで他人の子どもを可愛がらなきゃいけないんだ」。そんな気持ちから逃げるように、お酒を飲んでタバコを吸ってふてくされる日々。

そんな私を見かねて「納得できないことをやろうとしてるからそうなるんだろ」「気持ちが落ち着いてから実習すればいいじゃん。みんなと一緒に同じこと終わらせることなんてどうでもいいよ。ていうか『みんなと一緒』が嫌いなくせに何ふてくされてんだよ」と笑う。

別れ際に「いいか、これは俺が預かるっていうか、禁煙したけど俺が全部吸う」と、私のカバンからストックしてたタバコ3箱を全部もってどこかへ消えた。

友だちにタバコを没収されても、自分で買えばいい。でも、それがきっかけでタバコを吸う量が一気に減った。そして、大学に事情を話して、実習の日程を半年遅らせてもらえることになった。

卒業後、それぞれ就職して結婚し、彼には子どもができて、たまに電話したりメッセージを送り合うぐらいの付き合いになった。

「近々、久しぶりにあの店いこうよ」
「そうしよ。最近ゆっくり会えてないもんな」

そんなやり取りをした1ヶ月後、仕事帰りにタクシーにはねられ彼は死んだ。

SNSがきみに会いたくさせる

FacebookとInstagramが丁寧にお知らせしてくれる、「○年前の今日は……」って。

この3年間、数ヶ月に1回、いや、多いときには2週間に1回、SNS上での彼と私の楽しそうな写真ややりとりを見ていた。そんなとき、偶然一緒に過ごした場所を通り掛かることがある。

そのたび私は人混みの中からきみの姿を探してしまう。頭のなかからそのときの会話を探してしまうんだ。

女同士の人間関係に悩んだ日に一緒にみた夕焼け。ふたりで並んでレジを打ってたコンビニ。一緒に行ったスタバ。スケボーの練習した公園。

ぼーっと歩いていると目の前を通り過ぎていったような気がする。似た体型を見つけると追いかけてしまう。3年経ってもそんなことしている。

亡くなって1年が経ったころ、必死に彼の死を納得させようとたどり着いたのが「絶対数からあぶれた」という考え方だった。

地球は有限なものだから、どこかで人口が増えたら、どこかでその分減らなくちゃいけない。きっとそうじゃないと世界のバランスが取れないんだ。

私だってきっといつかあぶれる。今日か明日か明後日か、数年後なのか何十年後なのか。そう納得させたはずだけど、そう簡単にはいかないんだ。

良し悪しではなく「素直」に生きる

デジタルタトゥーが当たり前になった時代を生きていることで、良いことも悪いこともある。というか「良い」、「悪い」という表現はなんか違う。

素直な気持ちをそのまま表現すると「嬉しいこと」も「寂しいこと」も。そんな風に良し悪しでは判断できないことが文明とともに1つ増えた。

きっとこれから先こういうことはもっと増えるに違いない。もしかしたら私も誰かにとって「嬉しいこと」と「寂しいこと」のどちらかになってるかもしれない。

もういないきみに会いたい。

「会いたい」と思う気持ちを悪としてきた。だってもういないから。私なんかより辛い思いをしているのは、残されたご家族だから。

でも、会いたくなっちゃうよね。最高にいいやつだったんだから。もっと色んなこと話したかったんだよね。もっと同じ時間を過ごしたかったんだよね。

結婚式もきてほしかった。妊娠がわかったときは、まずきみに報告したかった。子どもが生まれたときは、すぐに抱っこしにきてほしかった。

私はきみにしてあげたいことよりも、きみにしてほしいことしかでてこない。笑っちゃうよね。でも、きみが私のわがままを「しゃーねえな」って笑って受け止めてくれたせいだよ。

絶対数から溢れるとか、そんなカッコつけたこと言うのはやめて、こんな風に素直な言葉や態度で私は生きようと思う。

1990年生まれ。保育士、BuzzFeed Japanを経てフリーランスへ。あんぱんと羊羹が好きです。
単細胞的幸福論のすゝめ