女子アナの立ち位置。

【古谷有美】母の背中が近づいてくる三十代

TBSの朝の顔、古谷有美アナ。またの名を「みんみん画伯」。インスタグラムに投稿される、繊細でスタイリッシュなイラストが人気です。テレビとはひと味違う、本音トークが聞けるかも。

●女子アナの立ち位置。

「おはよう。コラム読んだよ。64歳、初涙」
そんなLINEのメッセージが、日曜の朝、届きました。北海道に住む母からです。

一人暮らしを始めた頃のエピソードを綴った以前のコラムで、私に宛てた手紙を電子レンジに隠すというお茶目な母のことを紹介しましたが(前回のコラム)、それを読んで連絡があったんです。

うちの母は、肝っ玉母ちゃんなところもありつつ、心配性な面もあります。その上、完璧主義なので弱音を吐いたところをあまり見たことがありません。

お母さんにだって弱みがある

だから、あの時、一人暮らしを始める娘に「疲れたとか、辛いとちゃんと言ってね」という手紙を書いたのは、自分自身はなかなかできないけど、娘である私にはきちんと周りの人や家族に、しんどい時には寄りかかれるようになってほしいと願ってのことだったのかなと。
母から送られてきたLINEを見ながら、そんな思いがよぎりました。

私にとっては、いつまでたっても母親。
そんな「お母さん」に、人間としての辛い部分や、悩みがあるのだということを子どもの立場でこれまであまり考えていなかったのかもしれないと気づかされました。

我が家は、両親と姉と妹の私の4人家族で、どちらかというと父親はのんびり屋さん。その分、ここぞというときの家族の決断というか、旗振り役も、母が(たまに姉も)担っています。
とにかく、スーパーウーマンでエネルギッシュ。
フルタイムで働いていたのに、私たち姉妹の習い事のお迎えはもちろん、誰よりも早起きして、お弁当を作って、子どもたちを駅まで送ってとめまぐるしい毎日を過ごしていました。
24歳で結婚して姉が誕生し、私を生んだのが32歳の時のこと。
30代前半には、もう姉は小学生で、二人の女の子のお母さんだったんですよね。

当時は、何でもこなす母親をごく当たり前のように見ていたけれど、自分が働くようになってみて、「私なんて、仕事と自分の身の回りのことだけで手一杯なのに、私と同じくらいの年齢で……」としみじみと最近、感じています。

母譲りなところを探してみると…

小さい頃、よく母は型紙からおこして、洋服を手作りしてくれました。おしゃれが好きで、お金をかけてというわけではなく、好きなものを大切に着るタイプです。

そうそう、母ったら20代の頃に買ったウール素材の緑と赤のタータンチェック柄のスカートもきちんと、かわいい琥珀のピンブローチとセットでちゃんととっていて、小学生のころに譲ってもらった思い出があります。ブローチつける場所も「ここだと可愛いよ」としっかりアドバイスを添えて。

小さいときから、ジーンズをスカートにリメイクしたりと、自分が好きなファッションを追求するのも母の影響なのかもしれません。

もうひとつ、最近「お母さん譲りかも」と気づいた口ぐせがあります。
それは、「ちゃんと」という言葉をつい使ってしまうことです。
私自身はすごく適当で、母みたいに心配性でもないと思っているんですが、無意識のうちに「ちゃんとしたほうがいい」とか「ちゃんとこうなっていなきゃ」とかをよく言うよねと周りの人から言われてハッとしました。

敢えてそっとしておいてくれる優しさ

親元を離れて暮らして12年がたち、じっくり話すことも少なくなりましたが、母も父もよく電話やメールをくれます。
担当している番組を見ては、「きょうの衣装可愛かったね」とか、「昨日、泣いた?それともお酒飲み過ぎた?」という具合に。

2人で食べた料理の写真なども送ってきてくれるのですがフラッシュが効き過ぎて、闇鍋のような「映えない」写真をなのもご愛嬌といったところでしょうか(笑)

最近、ネットなどで身の回りの出来事が取り上げられるということがちょっとだけ続いたのですが、「大丈夫?」とか「どうなっているの?」と両親から聞いてくることはないです。
普段、あれほど連絡をくれるのに、意外と静観してくれる。

そういう時には、私の性格を一番理解しているので、父と晩酌しながら「見守るしかないね」という会話をしたんじゃないかな。

異なるレールを歩み続けても

自分と同じ年だったころの母とその時々の自分の立ち位置を、たまに重ね合わせることがあります。たとえば、24歳、私は大学卒業してアナウンサーになりたてのころ、「うわー、もうパパと出会って結婚して、お姉ちゃんが生まれていたんだ」なんて。

母は高校卒業と同時に働いていたので、私が大学生になって一人暮らしをした時から、母とは異なるレールを歩み出しているわけですが、自分が経験したことのない方向へと進んでいく娘の背中をどう見つめていたのでしょうか。

お互い、毎日、必ず顔を合わせて食卓を囲んでという時間はもう過ごせないし、母にとって未知の世界で自分は生きている。
けれども、教わったことはしっかり根付いていて、これから結婚や出産など同じ経験を重ねるにつれ、再びレールが近づき、「母そっくり」と感じることが増えてくるんじゃないかなと感じています。

続きの記事<知らない人と会うのは面倒なこと?>はこちら

1988年3月23日生まれ。北海道出身。上智大学卒業後、2011年にTBSテレビ入社。報道や情報など多岐にわたる番組に出演中。特技は絵を描くことと、子どもと仲良くなること。両親の遺伝子からかビールとファッションをこよなく愛す。みんみん画伯として、イラストレーターとしての活動も行う。
九州のローカル局で記者・ディレクターとして、 政治家、アーティスト、落語家などの対談番組を約180本制作。その後、週刊誌「AERA」の記者を経て現在は東京・渋谷のスタートアップで働きながらフリーランスでも活動中。
フォトグラファー。北海道中標津出身。自身の作品を制作しながら映画スチール、雑誌、書籍、ブランドルックブック、オウンドメディア、広告など幅広く活動中。

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