女子アナの立ち位置。

【古谷有美】古谷有美「五月病を吹き飛ばす!?とてもシンプルな処方せんを考えました」

TBSの朝の顔、古谷有美アナ。またの名を「みんみん画伯」。インスタグラムに投稿される、繊細でスタイリッシュなイラストが人気です。テレビとはひと味違う、本音トークが聞けるかも。

●女子アナの立ち位置。

「来年のゴールデンウィークは10連休だって!」
そんな風にザワついていたのが去年とは思えないくらい、あっという間にその10連休に突入し、そしていよいよ新しい元号を迎え……。毎日、生放送でニュースを伝えている身とはいえ、時の移ろいの早さについていけないこともしばしばです。

張り詰めた緊張感や慣れない新生活が始まって一カ月後にやってくる大型連休って、「ようやく一息つける」ような安堵できる期間でもあり。一方で「五月病」なんて言葉もあるくらい、連休明けの会社や学校にいくのがしんどくなってしまうという人も多いと聞きます。

一人暮らしに関しては、毎日がスキップ!みたいな状態でスタートさせた私でしたが(前回のコラム参照)、実際の学校生活は、それとは真逆で、どちらかというと不安いっぱいの船出でした。

東京の私立大学に入学し、周りに高校時代からの知り合いは一人もいない。生まれた時からずっと東京という友だちも多いなか、私は田舎から出てきたばかり。
環境に慣れたり、周囲についていったりするのにとにかく必死でした。

入試なのか入学後のテストの結果がよかったのか、英語の授業をレベル別でクラス分けする際に、どういうわけか上のクラスに入ったのです。
ところが、蓋を開けると周りはものすごいハイレベルの人ばかり。海外生活が長かったり、
ほぼネイティブ並みに読み書きできる人だらけの中で、私は完全に萎縮してしまいました。

ランチタイムやお手洗いなど普段の場面でも、クラスメートは英語と日本語半々で、ごちゃ混ぜにして会話している。だけど、まるで海外の大学にいるようなのは自分だけで、その人たちにとってはそれが自然で当たり前。
そんな光景を目のあたりにして、「えらいところに来ちゃったなぁ」とため息しか出てきません。

クラス替えを直訴

すっかり自信を喪失してしまった私は、先生のところに行って、クラス替えを申し出ました。

「自分よりもうんと英語が読めて話せる人たちに囲まれたクラスにいたら、きっと単位なんてもらえない」

それまで経験してきた世間が狭かったゆえに引き起こした小さなパニックだったのかもしれません。ですが、どちらかというと、「優等生」で過ごしてきた私にとって、こんな環境でずっと勉強するのは不安でしかなかったのです。

教授の部屋のドアの前に立ち、恐る恐るノックした時のことが鮮明に思い浮かびます。

「君がここにいるのは必然で選ばれているんだよ。大丈夫だから自信を持って、もうちょっと頑張ってみなさい」

厳しい口調でも呆れた様子でもなく、口元に笑みを浮かべて誠実に、優しく声をかけてくれたその言葉に背中を押されるように、なんとか踏みとどまったという感じでした。

それから、その授業には毎回みっちり準備をして臨み、ある授業ではまさかまさかの成績1番をとることもできました。

「君がここにいるのは必然」というのが、19歳の私にとってはちょっとした魔法の言葉で、「じゃあできるかも」って思ったんでしょうね。

あまりに環境が違いすぎて遠い存在と気後れしていた周りの同級生も、話してみると普通の18、19の女の子。
私が彼女たちに英語で圧倒されているのとは別に、彼女たちは彼女たちで、日本語が苦手だったり、日本に関する知識などへのコンプレックスがあって。そして、長い海外生活の中では、アジア人として味わった苦い経験なども話してくれた。

そうした様々なバックボーンを持つ同級生に囲まれ、「広い海に出たんだな」と実感しました。

なーんにもしたくない。誰にもおこられないもの。

たまには、あえて先輩ヅラしてみる

何も知らない世界に飛び込む。いままで出会ったことのない人と一緒に何かに取り組む。
慣れ親しんだそれまでの環境とは大きく違うし、打ちのめされて後戻りしたくなる気持ちは
とてもよくわかります。

30代に突入し、何年も社会人を経験すると、そんなフレッシュなシチュエーションに身を置くこともそうそうないのですが、逆にそうした状況に飛び込んできた人には出会います。

その時、私がかけてもらったような「魔法の言葉」を振りかけたくなるんです。気持ちを少しでも楽にして、前向きに仕事に取り組んでもらえるといいなと。

たとえば、担当番組に加わったADになりたての男の子に話しかける。
せっかく好きで飛び込んだテレビ業界。できれば、ずっと仕事を続けてもらいたいから。

「今はできないって思うことの方が多いと思うけど、決してだめなわけじゃないよ。できることがえらいっていうわけでもないからね」

私が話しかけたことなんて、忘れてもらっても構わない。だけど、何も知らない世界に入ったときの私が魔法の言葉で支えられたように、パニックになったり焦ったり、自信を失ったりしないよう、「きみはきみでいいのだ」と声をかけたいなと思っています。

小さい成功体験が自信につながる

魔法の言葉とはもう一つ、周囲に馴染めず落ち込みそうな時に試してほしいことがあります。
それは、新しい環境に入ったときに、小さいことでもいいから「なにができることないかな」とまず、考えてみること。

ごく普通の当たり前のような目標でいいんです。「週に三回は自炊する」とか「毎日、朝一番に出社してみる」とか決めたことを着実にやって、ちゃんとできてることを確認し、自信につなげる。自分が楽しくて心地よくて気持ちいいことが大切。

他の人と比較して、「◯◯さんがこうだから、私はこれをやる」でももちろんいいのでしょうけど、できれば、自分が達成できたら気持ちいいだろうなと思えることをノルマに設定するのをお勧めします。

志はあえて低く、端から見て変な目標でも問題なし。
あれもできない、これもできないってくよくよと悩む時間よりも、毎日できそうなことに取り組む。

え、私ですか?「毎日、英会話のレッスンを続ける!」と胸を張りたいところですが、お恥ずかしいくらいハードルが低いのが現実……。
なにかと物を無くしてしまうことに一念発起して、家のカギだけはここに置くという場所をバシッと決めて毎日それを守ることが今の目標です。

そして、決まった場所にカギを置く習慣を続けている自分をすごいと褒めてます(笑)。

続きの記事<母の背中が近づいてくる三十代>はこちら

1988年3月23日生まれ。北海道出身。上智大学卒業後、2011年にTBSテレビ入社。報道や情報など多岐にわたる番組に出演中。特技は絵を描くことと、子どもと仲良くなること。両親の遺伝子からかビールとファッションをこよなく愛す。みんみん画伯として、イラストレーターとしての活動も行う。
九州のローカル局で記者・ディレクターとして、 政治家、アーティスト、落語家などの対談番組を約180本制作。その後、週刊誌「AERA」の記者を経て現在は東京・渋谷のスタートアップで働きながらフリーランスでも活動中。
フォトグラファー。北海道中標津出身。自身の作品を制作しながら映画スチール、雑誌、書籍、ブランドルックブック、オウンドメディア、広告など幅広く活動中。