ペンギンがカモメを追いかける?南極に上陸した気分を味わえる写真集
●ヒマでヒマでしかたがないあなたへ
南極で出会った空の探検家・武田康男さん
世界中を回ったビジネスマンや旅行上級者でも、南極に行ったことがある人は多くないかもしれません。そもそも南極はどこの国の領土でもないので、行ったところで訪問国にカウントできませんが……。
今回私が紹介したいのは、そんな南極の風景が自宅にいながらにして存分に楽しめる写真集『世界一空が美しい大陸 南極の図鑑』。著者でカメラマンの武田康男さんは高校教師をしながら気象予報士の資格を取得し、極地研究所職員として南極地域観測に参加したという珍しい経歴をお持ちの方です。
武田さんと出会ったのは、私が海上自衛隊のカメラマンとして南極地域観測協力行動の任務で南極を訪れたときのことです。大気の研究員として南極を訪れていた武田さんの口から語られる珍しい気象現象や、映像に関する熱い情熱と知識の量に圧倒されたことを、今でもはっきりと覚えています。ここからは『世界一空が美しい大陸 南極の図鑑』に収録された美しい写真とともに、当時の思い出を振り返っていきたいと思います。
迫力ある氷床、地を這う太陽、緑に光る太陽
私が南極で目にしてまず最初に驚いたのが、棚氷と呼ばれる氷山の断面です。何万年も降り積もった雪が大陸から押し出されて海にせり出した状態のことをいい、海面からの高さは約20~30m。迫りくる氷床の迫力に圧倒されました。
私が南極に到着したのは12月。南半球にある南極は白夜の時期で、夜になっても太陽が沈みません。5月からは逆に、日の昇らない夜の世界、極夜になります。極夜前の太陽は地平線ギリギリに顔を出してからわずか1時間程度で沈んで行きます。そんな太陽の様子をとらえた写真は「這う太陽」という名前がつけられています。
太陽が沈み切る瞬間に、一瞬だけ緑色の閃光を放つことがあります。これを「グリーンフラッシュ」と呼びます。南極では、水蒸気が極端に少なく、ほこりや排気ガスなど人間がつくり出す汚染物質がほとんどないため、このようなとても美しい写真が撮れます。私もカメラマンとして数多くの気象現象を撮ってきましたが、これを目撃した時は特に印象に残るシーンでした。上は、武田さんがとらえた美しい「グリーンフラッシュ」の輝きです。
木や草がまったくなく、一見すると生き物なんて存在しないかのように思える南極ですが、実際はたくさんの動植物が暮らしています。有名なのはペンギンやアザラシ、カモメでしょうか。よちよち歩く姿がかわいいペンギンですが、実は近くに行くと臭い!
といっても、南極条約で半径5m以内は近づいてはいけないのですが、匂いは風にのって漂ってきますからね。ペンギンたちは常に生きるために戦っています。ほんの少し目を離すと、温めている卵を狙ってくる捕食者・トウゾクカモメが近づいてきます。普段は温厚なペンギンも、このときは怒ってトウゾクカモメを追い返していました。また、巣をつくるために集めた小石をほかのペンギンに盗まれケンカになることも。「小石ごときでケンカするなんて!」と思うかもしれませんが、せっかく集めたものを取られたらペンギンだって怒りますよね(笑)。
彼らは、お腹がすくと何十キロも氷の上を歩いて海に向かいます。海の中には主食であるオキアミがたくさんいるのですが、ペンギンはなかなか飛び込みません。捕食動物であるアザラシが彼らを狙っているかもしれないからです。そんななか、一番初めに飛び込む勇気あるペンギンは「ファーストペンギン」と呼ばれています。勇気あるペンギンの姿は、とても勇敢に見えました。
海の中では、太陽光の差し込む氷の裏にはアイスアルジーと言われる藻がビッシリと生えています。この藻をオキアミが食べ大量に発生することで、それを食べる魚やペンギン、クジラが寄ってきて豊かな生態系が形成されているのです。
まるで南極を訪れているかのような感覚が味わえる
言葉を失うほど美しく輝く星空、圧倒されるようなオーロラ、信じられない景色をつくり出す蜃気楼、あまりにも鮮やかな朝焼け夕焼け、美しすぎる七色の雲など……。
武田先生の『世界一空が美しい大陸 南極の図鑑』を見るたびに、南極の希少な自然現象を写真で楽しめます。さらに映像に収めるまで試行錯誤した撮影秘話などもおもしろく、豆知識がつきますよ。南極に行って見たい人も、行く予定はないけど南極に興味が出てきたという人も、この一冊で、まるで今まさに南極を旅しているかのような気分を味わうことができるんじゃないかと思います。
私は、南極を訪れたおかげで、多くの学者や技術者と知り合うことができました。また、その経験をいかして、今は南極講演家として講演活動をしています。この写真集をキッカケに、少しでも南極の自然に興味を持っていただけたら嬉しいです。
※画像の無断転載・複製を固く禁じます。
武田康男
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