桜は綺麗に見えますか?グレーな気持ちは消さなくてもいいよ。
●telling,編集部コラム
桜なんて見たくなかった
「何が桜だ、バカヤロー!」
自分がロックバンドのボーカルなら、ステージ上からそう叫びたい。
「みんながみんな、桜を好きだと思ってんじゃねぇ!」
と、マイクを投げ捨て客席にダイブしたい。
以前の自分はそう思っていた。皆さんにもないだろうか?あの季節のあの景色を見たら、瞬時に切なさが蘇ってしまうことが。月日がたっても、離れていても、無意識に記憶が呼び起こされる人っていませんか。
彼とは10数年以上前、知人の飲み会で知り合った。桜が舞う季節だった。自分が微妙に人見知りだからか、相手が人見知りなのもすぐに察した。同族は同族を見つけやすい。気を遣いながらも、一生懸命場を盛り上げようとしていることは何となくわかった。
人間としては相性が合うのだが
当時お互いの家が近所だったこともあり、よく二人で飲んで語って喧嘩した。喧嘩と言ってもたいがい私が怒って相手がしょげているパターンだったけれど。
それでもやっぱり気が合って、春には決まって「綺麗な桜を見つけたから」と写真を撮って携帯で送ってくれたり、皆で桜の木の下でお花見をしたり、春の陽気は気持ちを弾ませた。
数年間、たくさんの時間を彼と共有したが、結局付き合うには至らなかった。
一緒にいる時間は楽しい。しかし、つかず離れずの関係は意外としんどい。恋人関係に発展しなかったのは、なにより私が彼にとって、そこまで魅力が足りなかったのだろうし、仮に付き合って結婚したとしても、すぐに破綻した気がしてしまう。彼とは人間としての相性こそ良かったが、人生を共に歩むパートナーとしては相性が合わなかったと今ならわかる。
彼の理想の人にはなれなかった
彼が求める女性像は、女性は3歩下がって控えめな人、うがった見方をすれば、女性が自分より前に出ることをあまり好まないようだった。
自分はと言えば、3歩下がらず同列に、相手が家事や育児は女性の仕事だとか言い始めたら、その瞬間に実家に帰りそう。え、可愛くないですか……?
彼がたまにボソッと話す。「怜さんは僕が考えてること、何でも分かるんでしょ」と。いやいや、それが分かったら苦労しないわい!と思ったが、彼的にはどこか見透かされる感じがすると言っていた。また、たまたま大手企業の人と知り合いだという会話になったときも、少し面白くない顔をしていたっけ。
数年間同じ時を過ごしたが、別れは唐突にやってきた。
一方的に距離を置かれたので、正直未だに理由が分からない。お前のここが嫌いなんだよ!と言ってほしい。いや、言われてもトラウマになりそう。理由が分からないので、何で?何で?をひたすら脳裏でループする……。
季節は春だった。辛い状況にあったのに、ベンチに座り公園の桜は綺麗だなと思った。ブルーシートを引いてお弁当食べて、誰もが笑顔に見える。花びらが風になびいている。
しかしそれ以降、すっかり桜が苦手になった。
グレーな気持ちは消さなくてもいい
今、もし彼に会う機会があったら、「あの時はありがとう!」と心から言えるだろうか。未練ともまた違う。感謝もしているし、普通に世間話はしたいと思う。ただ、彼に対する心のくすぶりは小さくなっても消えていない。普段はたいして思い出さないが、桜と共に毎年フワッと記憶が蘇る。
世の中の人、教えて。時間が解決するなんて言うけれどホント?いや、そもそも解決なんてしないと最近は思う。ずっとずっとくすぶった思いを抱えたまま、これからも人生は続く。でもね、それでもいいじゃないか。最後にお別れの挨拶も感謝も文句も述べることが出来なかったけれど、モヤっと終わりがくることも受け止めよう。そもそも答えなんて出ないんだ。
今年は例年より桜の開花が早かった。忙しさにかまけ、つぼみから満開になった桜を見ても、はい、咲いたのね、としか感じなかった。桜を見て、今の自分のメンタル具合が分かるものだなと思った。
それでも、「なにが桜だ!バカヤロー!」はもう無くて、道行く人の穏やかな表情と共に、自分の気持ちも穏やかになれるまでに変化した。うん、桜ってはかなくて綺麗だ。グレーな気持ちを抱える今の自分も悪くない。少しだけ人に優しくなった気がする。今年も来年も、皆さんにとって美しい桜が見られますように。
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