教えて!弁護士センセイ telling,の「法律未満の何でも相談」21

ネットオークションで落札したのは偽ブランド品だった!そんな時、どうする?

そのモヤモヤ、法律を味方にすれば少しだけ生きやすくできるかも!日々の困りごとを弁護士の澤井康生先生が、ミレニアル女子目線で易しく解説します。今回のテーマは、前回に引き続きネットオークション。落札した商品が偽物だった場合の対処法について。最近の裁判例をもとに考えます。 A子:MM商事経理部主任 B子:法務部主任

●教えて!弁護士センセイ telling,の「法律未満の何でも相談」21

B子:A子、お疲れ様。

A子:あ、B子さん、ちょうどよかったわ。実はまた相談したいことがあって。

B子:今度はどうしたの?

A子:この間、インターネットのオークションで高級ブランドのD社のブレスレッドを7万円で落札して買ったのよ。その後、現物が送られて来たんだけど、正規のブランド物と微妙に違うと感じて、知り合いの業者さんに鑑定してもらったの。そしたらなんと、偽物だったのよ!

B子:えええ~、偽物をつかまされちゃったってこと?

A子:そうなのよ。代金7万円はもちろん払ってしまった後だったので、出品者に連絡してキャンセルするからお金を返して欲しいと言ったのよ。

B子:そしたら出品者の人は何て言ってきたの?

A子:もともと出品したときにオークションサイトに注意書きをしてあって、それを前提に私が落札したんだから万が一、偽物だったとしても自己責任でお願いしますって言ってきたのよ。ひどいでしょ?

B子:そのオークションサイトの注意書きには何て書いてあったのかしら?

A子:「中古の委託品で証明書等はありませんので詳細はわかりません。真贋について不安な方は入札をお控え下さい。写真で判断して下さい。落札後の返品はお受けしませんのでご確認の上、入札して下さい」と書いてあったのよ。

B子:なるほど、だから自己責任だと言ってきたのね。

A子:でも、こっちは外観とか値段とかで当然本物だって前提で落札しているのよ。もし偽物だってわかっていたら落札なんてしないわよ。

B子:A子が本物だと思った根拠をもう少し詳しく教えて。

A子:オークションの検索画面で、高級ブランドメーカーの「D社製」と検索して出てきたのよ。それから写真ではD社のロゴマークの上にその商品が乗せてあって、しかもその商品に刻印されているD社マークがしっかり写る角度で撮影されていたの。あとは価格ね、その商品は定価だと10万円くらいするものなのよ。それが7万円前後だから本物だと思うでしょ。

B子:なるほど、確かにそういう状況なら本物だと思うわよね。

A子:でしょ、でしょ。許せないから詐欺で訴えてやろうかと思って。

B子:確かに詐欺で損害賠償請求する方法もあるけど、その場合は出品者の人が偽物だと知っていたことをこっちで立証しないといけないわよ。
こういう場合は詐欺のほかに錯誤無効(民法95条)で返金請求する方法もあるわよ。

A子:錯誤無効って何かしら?

B子:簡単に言うと「重大な勘違いをしていたからその品物を買う意思はありませんでした。だから契約は無効だったのでお金を返して」と主張する方法よ。

A子:勘違いで契約を無効にすることなんてできるの?

B子:もちろん、なんでもかんでもできるわけじゃないわよ。勘違いが契約内容の重要な部分にわたること、一般人を基準としても勘違いがなければ契約しなかったといえること、買主側に重大な過失がないことなどの条件を満たすことが必要よ。

A子:難しいことはよくわからないけど、私のケースではその錯誤無効は認められそうかしら?

B子:実はA子のケースと同じような事件があって、その裁判の判決では「商品が本物であるか偽物であるかは売買契約の内容になっており、買主は商品を本物であると信じて買い受けたのであり、その代金額は売買契約における重要部分であるから、買主の買い受けの意思表示には要素の錯誤があったと認めるのが相当である」ということで、錯誤無効にあたるとして返金が認められているわよ(東京簡裁平成17年6月16日判決を簡略化しています)。

A子:よかった~、私のケースは錯誤無効が認められそうなのね。とりあえずその方法を主張してみるわね。B子ありがとう。

B子:どういたしまして。

A子:ちなみに錯誤無効なんだけど、時間を勘違いして会社に遅刻してきたときに「時間を勘違いしたので遅刻してきたのは無効です」ってドヤ顔で言ったら許されるかしら?

B子:そんな屁理屈が認められるわけないでしょ、白い目で見られるわよ(笑)。

A子:やっぱりそうよね。錯誤無効の使い方ってなかなか難しいわね……。

■澤井康生先生のプロフィールはこちら
元警察官僚、警視庁刑事を経て旧司法試験合格。弁護士でありながらMBAも取得し現在は企業法務、一般民事事件、家事事件、刑事事件などを手がける傍ら東京簡易裁判所非常勤裁判官、東京税理士会インハウスロイヤー(非常勤)も歴任。公認不正検査士の資格も有し企業不祥事が起きた場合の第三者委員会の経験も豊富、その他テレビ・ラジオ等の出演も多く幅広い分野で活躍。東京、大阪に拠点を有する弁護士法人海星事務所のパートナー。代表著書『捜査本部というすごい仕組み』(マイナビ新書)など。

元警察官僚、警視庁刑事を経て旧司法試験合格。MBAも取得し現在は企業法務、一般民事事件、家事事件、刑事事件などを手がける傍ら東京簡易裁判所非常勤裁判官、東京税理士会インハウスロイヤー(非常勤)も歴任。
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