教えて!弁護士センセイ telling,の「法律未満の何でも相談」23

会社に払ってもらった留学の費用、転職したら返さなきゃダメですか?

そのモヤモヤ、法律を味方にすれば少しだけ生きやすくできるかも!日々の困りごとを弁護士の澤井康生先生が、ミレニアル女子目線で易しく解説します。今回のテーマは、会社のお金で留学した後に退職したらお金を返さなければいけないのか、について。最近の裁判例をもとに考えます。 A子:MM商事経理部主任 B子:法務部主任

●教えて!弁護士センセイ telling,の「法律未満の何でも相談」23

B子:A子、お疲れ様。

A子:あ、B子さん、ちょうどよかったわ。実はまた相談したいことがあって。

B子:今度はどうしたの?

A子:実はうちの会社に社費留学制度があるの、知ってる?

B子:会社に留学費用を負担してもらって、海外の大学院に留学してMBAとかを取得できるっていう制度ね。

A子:実は私、あれに応募しようかなと思っているのよ。

B子:A子、急にどうしたのよ、熱でもあるんじゃないの?

A子:将来のキャリアアップのことをいろいろ考えて真面目に悩んでいるのよ。

B子:それで具体的には何を悩んでいるのよ?

A子:うちの会社の留学制度の案内を読んだんだけど、留学して会社に戻ってきてから最低でも5年間は勤務を継続しないといけないのよ。もし途中で転職とか退職とかしたら、会社が負担した留学費用を返さなければいけない決まりになっているらしいのよ。

B子:A子はMBAを取得したら転職するつもりなの?

A子:それはキャリアアップのために留学するわけだから、もっと条件が良い会社からスカウトされたら転職するかもしれないでしょ。

B子:つまりB子が聞きたいのは、もし留学後5年以内に転職して会社から留学費用の返還を求められたら、応じなければいけないかってことね。

A子:そうそうそこなのよ、そこが知りたかったのよ。

B子:過去の裁判例では留学が実質的に会社の業務といえるかどうかで判断されているわね。

A子:どういうこと?

B子:たとえば業務命令として海外留学に行かせていて、会社の仕事に関連がある学科を専攻するように会社から指示されている場合。こういう留学は「業務」とみなされるから、留学費用は本来、会社が負担すべきなのよ。だから、こういう場合には退職したら留学費用を返還させる約束は労働基準法16条(賠償予定の禁止)に違反するので無効とされているわ(東京地裁平成10年9月25日判決を簡略化しています)。

A子:今言った労働基準法16条って、確か社員が転職や退職をすることに対し違約金や賠償額を定めることを禁止することで、退職の自由が制限されないようにする趣旨だったわよね。

B子:そのとおり。じゃあ今の例とは反対に、留学へ行くのが業務命令ではなく社員本人の意思で、学ぶ内容も本人が決めて、学位の取得が担当業務に直接役立つわけではない場合はどうだと思う?

A子:その留学は、業務ではない・・?

B子:そう。この場合、留学の業務性は否定されるのよ。つまり会社の業務とは関係なく本人の自由意思で留学するんだから、留学費用は本来、本人が負担すべきなのよ(東京地裁平成16年1月26日判決を簡略化しています)。

A子:え~と、
どういうこと?

B子:本人が負担すべき留学費用を会社が負担するということは、会社が社員に留学費用を貸し付けているのと同じということなのよ。だから本来は会社に留学費用を返還する義務があるんだけど、うちの会社の社費留学制度では5年間勤務継続したらそれを免除してあげるっていう特約が付いている、と解釈できるわけ。

A子:え~と、そういう特約が付いていると、さっきの労働基準法16条との関係はどうなるのかしら。私の退職の自由はどうなるの?

B子:留学が会社の業務ではない場合には、会社側が本人に留学費用の返還を求めたとしても、もともと本人が自分で負担しなければならない費用だったんだから、退職の自由を不当に制限することにはならないのよ。

A子:だから労働基準法16条には違反せず、そういう約束は有効ということね? つまり、私が留学から5年以内に退職したらお金を返還しないといけないのね。

B子:そういうこと。うちの会社の留学制度は自由度が高いのが売りだからきっと、業務としては認められないわよ。

A子:わかった、留学はやめるわ。

B子:即決ね(-_-;)

A子:だって、転職した場合に留学費用何百万円も払えないから破産しちゃうわよ。

B子:最後はやっぱりお金の問題なのね(-_-;) 

■澤井康生先生のプロフィールはこちら
元警察官僚、警視庁刑事を経て旧司法試験合格。弁護士でありながらMBAも取得し現在は企業法務、一般民事事件、家事事件、刑事事件などを手がける傍ら東京簡易裁判所非常勤裁判官、東京税理士会インハウスロイヤー(非常勤)も歴任。公認不正検査士の資格も有し企業不祥事が起きた場合の第三者委員会の経験も豊富、その他テレビ・ラジオ等の出演も多く幅広い分野で活躍。東京、大阪に拠点を有する弁護士法人海星事務所のパートナー。代表著書『捜査本部というすごい仕組み』(マイナビ新書)など。

 

元警察官僚、警視庁刑事を経て旧司法試験合格。MBAも取得し現在は企業法務、一般民事事件、家事事件、刑事事件などを手がける傍ら東京簡易裁判所非常勤裁判官、東京税理士会インハウスロイヤー(非常勤)も歴任。
法律未満の何でも相談