教えて!弁護士センセイ telling,の「法律未満の何でも相談」25

性転換した元男性がゴルフクラブへの入会を拒否された!法律はどう答える?

そのモヤモヤ、法律を味方にすれば少しだけ生きやすくできるかも!日々の困りごとを弁護士の澤井康生先生が、ミレニアル女子目線で易しく解説します。今回のテーマは、トランスジェンダーで性転換した元男性がゴルフクラブへの入会を拒否された事例について。最近の裁判例をもとに考えます。 A子:MM商事経理部主任 B子:法務部主任

●教えて!弁護士センセイ telling,の「法律未満の何でも相談」25

B子:A子、お疲れ様。

A子:あ、B子さん、ちょうどよかったわ。実はまた相談したいことがあって。

B子:今度はどうしたの?

A子:私のいとこのことなんだけど。実は、いとこはもともと性同一性障害の診断を受けていて、ホルモン治療と性別適合手術も行って、肉体的には完全な女性になったの。それから、家庭裁判所の許可も得て氏名や性別も女性に変更したのよ。


B子:つまり、性同一性障害特例法の要件を満たして男性から女性に性別を変更したってことね?

A子:そうそう、難しいことはよくわからないんだけど、そういう名前の法律の適用を受けたって聞いたわ。要はもともとは男性なんだけど、ホルモン治療や手術で肉体的には完全に女性になって、戸籍上も女性になったのよ。

B子:それで、そのいとこがどうしたのかしら?

A子:いとこはもともとゴルフが好きで、あるゴルフクラブでビジターとして何回かプレイしていたのよ。もちろん女性としてね。

B子:ということは、つまりロッカールームとか入浴施設とかトイレもすべて女性用を使用していたってことよね?

A子:そうよ、だって肉体的には完全に女性なんだから、男性用を使用するわけにはいかないでしょ。

B子:それはそうよね。

A子:それで、いとこはそのゴルフクラブが気に入って入会申し込みをしたの。そしたら、クラブから入会を断られてしまったのよ。

B子:クラブはなぜ入会を断ってきたのかしら?

A子:入会申し込みのときに戸籍を提出することになっていて、ゴルフクラブは戸籍を見ていとこが性転換したことを知ったのね。それで、いとこに女性用のロッカールーム、入浴施設、トイレを利用させると他の女性会員が困惑するとか混乱が生じる恐れがあるとか言って、入会を断ってきたのよ。

B子:なるほど、わかったわ。今回の質問はゴルフクラブが性同一性障害で性転換した人の入会を拒否してもいいのかってことね。

A子:そのとおり、教えてB子。

B子:実は、最近A子のいとこと同じような事件があったのよ(東京高等裁判所平成27年7月1日判決を簡略化しています)。

A子:え、本当に?裁判所は何て判断したの?

B子:まず、性同一性障害者に対する差別について「私人同士でも、疾病を理由に不合理な取扱いをすることが許されるものではない。性同一性障害及びその治療を理由とする不合理な取扱いをすることは許されない」としたの。

A子:そうよね。性同一性障害は趣味や嗜好じゃなくて立派な疾患だものね。

B子:これに対して、ゴルフクラブ側は性転換した者が女性用の施設を利用することで混乱が生じる恐れがあると主張したんだけど、裁判所は「戸籍のみならず外見も女性となった者が女性用の施設を使用した際、特段の混乱は生じていない」と判断したのよ。

A子:うんうん、ということは……。

B子:最終的に、裁判所は性転換した者が入会拒否によって「性同一性障害の治療により性別に関する自己意識を身体的にも社会的にも実現してきたことを否定されたものと受け止め、人格の根幹部分に関する精神的苦痛を受けた」と判断したのよ。要はゴルフクラブ側の入会拒否によってその人の人格が否定されたとして、慰謝料の請求を認めたのよ。

A子:B子、ありがとう。裁判所もちゃんとLGBTに配慮してくれているのね。そういう裁判例もあるっていとこに教えてあげるわ。

B子:ということで次の週末は久しぶりにゴルフ行っちゃう?

A子:最近、ご無沙汰だったから、まずは打ちっ放しでリハビリしなきゃだわ。いいえ、まずは打ちっぱなしの前にゴルフバーでリハビリしなきゃだわ。

B子:A子ったら、どんだけ……。

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■澤井康生先生のプロフィールはこちら
元警察官僚、警視庁刑事を経て旧司法試験合格。弁護士でありながらMBAも取得し現在は企業法務、一般民事事件、家事事件、刑事事件などを手がける傍ら東京簡易裁判所非常勤裁判官、東京税理士会インハウスロイヤー(非常勤)も歴任。公認不正検査士の資格も有し企業不祥事が起きた場合の第三者委員会の経験も豊富、その他テレビ・ラジオ等の出演も多く幅広い分野で活躍。東京、大阪に拠点を有する弁護士法人海星事務所のパートナー。代表著書『捜査本部というすごい仕組み』(マイナビ新書)など。

元警察官僚、警視庁刑事を経て旧司法試験合格。MBAも取得し現在は企業法務、一般民事事件、家事事件、刑事事件などを手がける傍ら東京簡易裁判所非常勤裁判官、東京税理士会インハウスロイヤー(非常勤)も歴任。
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