社内一斉メールで上司の悪口を言ったら名誉棄損で訴えられる?
●教えて!弁護士センセイ telling,の「法律未満の何でも相談」26
B子:A子、お疲れ様。
A子:B子さん、実はまた相談があるんだけど。
B子:A子、今度は何があったのかしら?
A子:実はうちの取締役営業本部長のXさんのことなんだけど、部下への態度が傲慢で横暴だから、戒めるために社内一斉メールでいろいろ悪口を流してやろうかと思っているのよ。
B子:確かに、あのX部長は部下にはきつくあたるって評判よね。それで、具体的にどういう悪口を流そうと考えているの?
A子:X部長が飲酒して幹部会議に2時間も遅刻してきたこととか、部下を恫喝して退職に追い込んだこととか、女性の部下にセクハラしたこととか、そういうことよ。
B子:社内一斉メールで公然と人の悪口を流すと名誉棄損になる可能性があるわよ。ちなみに本当にそんなことがあったの?
A子:遅刻したっていうのは一部では有名な話よ。2時間かどうかはウワサ話だから確かじゃないけど。
B子:2時間というのは曖昧なウワサ話なのね。部下を退職に追い込んだっていうのは?
A子:被害者のことは直接知らないけど、誰かがそう言っているのを聞いたことがあるのよ。
B子:セクハラの件は?
A子:セクハラの件も被害者が誰とか詳しいことはよくわからないけど、誰かがそういう話をしているのを聞いたことがあるのよ。
B子:要するに曖昧なウワサ話とか、誰かからの又聞き(伝聞情報)が根拠っていうことね。しかも誰から聞いたのかもよくわからない情報っていうことよね。
A子:まあ、突き詰めて整理するとそういうことになるわね。
B子: A子、もし社内一斉メールでこれを流してX部長に名誉棄損で訴えられたら、あなたが敗けるわよ。やめたほうがいいわ。
A子:でも、私の目的は横暴で傲慢なX部長に反省してもらうことで、別に悪意はないのよ。それでも訴えられたら敗けちゃうの?
B子:確かに、嫌がらせ目的でなくみんなのためにやったということならば(法律用語で「事実の公共性」及び「目的の公益性」)、流した事実が真実であると証明できれば、勝てる場合もあるわよ。
A子:難しいことはよくわからないけど、こういう場合はとにかく流した事実が真実であって、その情報を流すことがみんなのためになると証明できれば勝てるってことなのね?
B子:簡単に言うとそういうことね。実は以前、似たようなケースがあって、メールを流したほうが敗けて損害賠償責任が認められた事件があるのよ。
A子:裁判所はどういう判断をしたのかしら?
B子:曖昧なウワサ話を前提にしていたり、又聞き(伝聞情報)を根拠としていたりするものの具体的に誰が発言したのか明らかにできず、裏付ける証拠もない場合にはそれらの事実を真実と認めることはできない。仮に、メールを流した本人が真実であると誤信していたとしても、そのように信じることについて相当な理由も認められない。と、こう判断したのよ(東京地裁平成29年2月13日判決を簡略化しています)。
A子:社内でそういうウワサ話がよく流れているっていうだけじゃダメなのね。
B子:そうなのよ。真実であることの証明ができなければ名誉棄損で敗けちゃうのよ。ちなみに、その事件ではA子の話よりもっとひどい内容をメールで流していて、80万円の損害賠償請求が認められたのよ。
A子:は、は、はちじゅうまんえん……。
B子:A子、もし敗けたら払えるかしら?
A子:無理無理無理、フラット35ならなんとか(-_-;)。
B子:A子ったら、住宅ローンじゃないんだから^^。
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■澤井康生先生のプロフィールはこちら
元警察官僚、警視庁刑事を経て旧司法試験合格。弁護士でありながらMBAも取得し現在は企業法務、一般民事事件、家事事件、刑事事件などを手がける傍ら東京簡易裁判所非常勤裁判官、東京税理士会インハウスロイヤー(非常勤)も歴任。公認不正検査士の資格も有し企業不祥事が起きた場合の第三者委員会の経験も豊富、その他テレビ・ラジオ等の出演も多く幅広い分野で活躍。東京、大阪に拠点を有する弁護士法人海星事務所のパートナー。代表著書『捜査本部というすごい仕組み』(マイナビ新書)など。