教えて!弁護士センセイ telling,の「法律未満の何でも相談」20

ネットオークションの評価欄に辛口コメントを書いたら「名誉毀損」で裁判に!?

そのモヤモヤ、法律を味方にすれば少しだけ生きやすくできるかも!日々の困りごとを弁護士の澤井康生先生が、ミレニアル女子目線で易しく解説します。今回のテーマは、ネットのオークションサイトで辛口のコメントを書いたら、相手から訴えられたという事件について。最近の裁判例をもとに考えます。 A子:MM商事経理部主任 B子:法務部主任

●教えて!弁護士センセイ telling,の「法律未満の何でも相談」20

B子:A子、お疲れ様。

A子:あ、B子さん、お疲れ様、実はまた相談したいことがあって。

B子:今度はどうしたの?

A子:実はネットオークションで洋服を買ったんだけど、評価欄にちょっと悪口っぽいことを書いてしまったのよ。そしたらその出品者の人から名誉棄損だと言われて、損害賠償請求されちゃったのよ。

B子:あらあら。それは大変ね。まずは順を追って説明してちょうだい。

A子:ネットオークションで気に入った洋服が出品されていて入札したのよ。でも、私が入札した直後に別の人から少し高めの入札があって、落札できなかったの。そしたらその直後に同じ出品者から同じ洋服が出品されて、もう一度私が入札して最後は落札したのよ。

B子:うん、それで何が問題なの?

A子:同じ人から同じ物が立て続けに出品されてしかもオークション1回目は私の入札直後に金額が引き上げられたのよ。だから私、この出品者の人が裏で入札価格の引き上げをしているんじゃないかと疑ってしまったのよ。

B子:それで評価欄には何て書きこんだのかしら?

A子: 「入札すると金額が上がりました。引き上げ行為をなさっているのでは……」と書き込んだのよ。

B子:そしたら出品者の人が文句を言ってきたのね?

A子:私の書き込みを見て、出品者の人が事情を説明する書き込みをしてきて、それを読むと金額の引き上げ行為というのは私の勘違いだったのよ。だから私は評価欄のコメントで、私の勘違いで迷惑をかけたことを謝ったのよ。

B子:それでも許してくれなかったのね?

A子:その人、弁護士さんをつけて、私の書き込みが名誉棄損とか業務妨害にあたると、損害賠償を請求してきたのよ。確かに勘違いした私も悪いけど、悪気はなかったし謝罪もしているのに、損害賠償請求に応じる必要あるのかしらと思って。

B子:なるほど。A子の場合、損害賠償請求に応じる必要はないわよ。

A子:本当に?

B子:実は以前、同じような事件があって、その事件では「評価欄への書き込みは断定的・糾弾(きゅうだん)的ではなく、意見表明による疑問提起であって、意図的な業務妨害とは認められない」とされたのよ(東京地裁平成23年2月16日判決を簡略化しています)。出品者の反論に対して率直に謝罪していたことも、判決では書き込んだ側に有利に評価されたわ。

A子:よかった~。でないとネットオークションの評価欄に書き込みなんて怖くてできなくなっちゃうわよね。

B子:そうね。その判決ではさらに評価欄について「社会通念上相当とみなされる書き込みが許されないとすると、ネットオークションに不可欠とされる評価制度の存在意義を没却することになりかねない」とも言っているのよ(東京地裁平成23年2月16日判決を簡略化しています)。

A子:私の場合は社会通念上相当といえるわよね?

B子:勘違いで悪気はなかったし、書き込みも断定的・糾弾的ではないし、率直に謝罪もしているから、この判決に照らしてもセーフだと思うわよ。

A子:よかった。これで安心してネットオークションで買い物できるわ。
B子:でも、社会通念上相当かどうかって、なかなか判断できないこともあるから、評価欄に悪口っぽいコメントを書き込むときは、慎重になったほうがいいわよ。

A子:そうね、これからはそうするわ。逆に自分が出品者の立場になって悪口を書かれても、何でもかんでも損害賠償請求できるわけじゃないってことよね。ありがとう、B子。今回は助かったわ。

B子:今回はじゃなくて、今回もでしょ?たまにはスイーツぐらいごちそうしなさいよ。

A子:今月はお小遣い不足しているから無理よ。

B子:A子ったらケチね……。

A子:それって断定的・糾弾的な評価になるんじゃ?名誉棄損よ^^。
B子:こらこらこら^^。

■澤井康生先生のプロフィールはこちら
元警察官僚、警視庁刑事を経て旧司法試験合格。弁護士でありながらMBAも取得し現在は企業法務、一般民事事件、家事事件、刑事事件などを手がける傍ら東京簡易裁判所非常勤裁判官、東京税理士会インハウスロイヤー(非常勤)も歴任。公認不正検査士の資格も有し企業不祥事が起きた場合の第三者委員会の経験も豊富、その他テレビ・ラジオ等の出演も多く幅広い分野で活躍。東京、大阪に拠点を有する弁護士法人海星事務所のパートナー。代表著書『捜査本部というすごい仕組み』(マイナビ新書)など。

元警察官僚、警視庁刑事を経て旧司法試験合格。MBAも取得し現在は企業法務、一般民事事件、家事事件、刑事事件などを手がける傍ら東京簡易裁判所非常勤裁判官、東京税理士会インハウスロイヤー(非常勤)も歴任。
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