女子アナの立ち位置。

【古谷有美】古谷有美「浪人時代の経験が三十代の今、力を与えてくれること」

TBSの朝の顔、古谷有美アナ。またの名を「みんみん画伯」。インスタグラムに投稿される、繊細でスタイリッシュなイラストが人気です。テレビとはひと味違う、本音トークが聞けるかも。

●女子アナの立ち位置。

「あの頃に戻りたいなぁ」ってたまに思うことありませんか。私にとっては、いまから12年前、予備校生だった頃は、まさにそんな風に思える懐かしい時代です。

そういえば、まわりの女子アナの友人・知人を見渡しても、浪人を経験している人って、あまり出会ったことがないな…。
社会人になると年齢の差なんて全く関係ないので、ピンとこないのですが、たまに年配の上司とかに「へー浪人してたんだ。えらいねー」なんて声をかけられます。
そういうときは、心の中で「いや、えらくないから浪人したんですけどね」って呟きつつ、ネタとして、あっけらかんと話します。

カラオケ、大学キャンパスでのデート

欧米にはギャップイヤー制度というのがあって、進学や就職など次のステップに進む前に、好きなことに打ち込める期間があると聞いたことがあります。毎日、写真を取り続けるなんていうのもありだとか。私にとって浪人生活は、その「ギャップイヤー」という言葉がぴったりくる一年だったように思います。

志望校に手が届かなくて、高校卒業後、迷うこと無く選んだ浪人という選択肢。
「女の子が浪人してまで……」という周囲の視線も感じながら、でもガンコな私は、第一志望にどうしても行きたくて、自宅近くの予備校に入りました。

浪人生というと、一足先に自由な大学生生活を楽しんでいる同級生を横目に、暗くてしんどい勉強漬けの日々を過ごす……ついそんなイメージを思い浮かべますが、やせ我慢や誇張でも何でもなく本当に楽しかったな。

仲良しの友だち4人組のうち、私を含めて3人が同じ予備校に通うことになり、休憩時間は、みんなで自習室で一緒に勉強して、励まし合うことができました。たまにはみんなでカラオケボックスに出かけて、息抜きも……。
同じ予備校の男の子と、二人で予備校の近くにあった北海道大学の大きなキャンパスをデートした、なんて思い出もあります。

頭が潤っていく感覚

ただそうしたほんわかとした記憶だけではなく、本質的に浪人時代を楽しめたと言えるのは、受験勉強を通して、純粋に知識が増えていく、頭が潤っていくのが実感できたからなのだと思います。
テストのためとかではなく、(長い目で見たら、受験がゴールではあるんですけど)自分の知識として、自分の中にちゃんと入れていく作業にひたすら没頭していました。

小学校とか中学校の時の「新しいことを学ぶワクワク感」を取り戻したというか、やっていること、覚えていることが自分の糧となっている感覚がずっと続く。
浪人していなかったら、きっと「学ぶ楽しさ」に気づかず、ただ漫然と大学時代を過ごしていたと思います。いまだに自分で何かを取得する時間が好きで、知識の蓄えを感じる状況がとても気持ちよかったりします。

「浪人は挫折」と深刻に捉えていなかったというのも、”楽しい浪人時代”の大きな支えだったのかもしれません。
こうやって勉強に打ち込んでいても、次は合格するなんて保証はない。やっていることがどうつながるかわからない。そんな風にどんどんダメな方に考えてしまう人もいるけど、私は、失敗には原因があるし、その原因から学べばいいと常に受験勉強をポジティブに進めていたんですね。

こう書いてしまうと、そこまでポジティブだったなんてあり得ないと思われるかもしれませんが、2度目の受験は、落ちるという心配はしていませんでした。
勉強すればするほど感じる手応えを「いま、自分史上、最高に頭良いはず」という自信に変える。
結果をみるときはドキドキでしたが、ちゃんと楽しくゴールを迎えることができました。

つい隣の芝生ばかりに目がいく30代

もちろん、あの一年を振り返ると、「はい!前向きに勉強に打ち込めました!」という明るい話ばかりではありません。だけど、いまだに浪人時代が楽しくて、大人になってから、ふと戻りたくなる時があるのはなぜなのか。最近、さらに気づいたことがあります。 
それは、どこにも属していない「何者でもない自分」という経験です。

30代になると、結婚したり、母になったりする人も増えてきます。仕事でも、それなりのポジションを確立する年代だったりもします。
妻や母親…華々しい役職。まわりの”所属先”が次々と決まる中、私だけ宙ぶらりんなままでいいんだろうかと焦ることもしばしばあります。
隣の芝生のように青くなるには、何者になればいいんだろう。

そう不安になったとき、浪人時代の自分を思い出します。

「今、何しているの?」と聞かれて、一瞬、言葉に詰まったあの頃の私。だけど、先が見えない中でも、一年間、一生懸命、耕して栄養いっぱいの土を作り、ちゃんと種を蒔くことができた。
すると、何カ月も思い通りの仕事ができていないとか、好きな人ができていないなんていう状況でも、不安より、そんな風にニュートラルでいる時を楽しもうという気持ちになれるんです。
「何者でもないあの一年、気持ちも頭もすごく豊かにできたんだから、焦らなくていいんじゃない」って。

続きの記事<「大人の女子旅は何かと大変?」>はこちら

1988年3月23日生まれ。北海道出身。上智大学卒業後、2011年にTBSテレビ入社。報道や情報など多岐にわたる番組に出演中。特技は絵を描くことと、子どもと仲良くなること。両親の遺伝子からかビールとファッションをこよなく愛す。みんみん画伯として、イラストレーターとしての活動も行う。
九州のローカル局で記者・ディレクターとして、 政治家、アーティスト、落語家などの対談番組を約180本制作。その後、週刊誌「AERA」の記者を経て現在は東京・渋谷のスタートアップで働きながらフリーランスでも活動中。
フォトグラファー。北海道中標津出身。自身の作品を制作しながら映画スチール、雑誌、書籍、ブランドルックブック、オウンドメディア、広告など幅広く活動中。

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