産まない人生を考える 07

子供を産まないことについての、気持ちの変遷について考える

「産まない」「子どもはいらない」と意思表明するのって勇気がいる。自分で決めていいことのはずなのに……。ライターの河辺さや香さんが自身の経験やミレニアル女子へのインタビューを通して、様々な「産まない人生」を考えてきたシリーズ。最終回となる今回は、河辺さんが人生の中で経験した、子どもを産まないことについての気持ちの変化について考えます。

産まない人生を考える 07

一度も気持ちは変わらなかったのか

私が自分よりも若い世代の方たちによく聞かれるのは、気持ちが変わらなかったのか、ということだ。つまり、ずっと前から子どもは産まないと決めていて、それを貫き通したのか否か。

答えはYes,である。でも、これは結果論にすぎない。

結局、今まで一度も子どもを産みたいと思わなかった。繰り返しになるが、理由は自分でもわからない。

欲しいと思う気持ちを押し殺してがまんした、とか、“私は産まないって決めたから!”と、無理に感情を仕向けたり……そういうこともない。

ただ、前にも書いたけれど、周りからのプレッシャーによって、出産について真剣に考えなければいけないのだろうかと思ったことはあるし、ものすごく尊敬している女性が「子どもを産んだら、そこから新しい人生のステージが始まるの!」と、すごく楽しそうに話しているのを聞いて、“そういう道もあるのか、素敵だな”と思ったことはある。

でも、それは本格的な気持ちの変化には至らなかった。自分はきっと産まないだろうと最初に思ったのは、20代前半の頃だ。20代前半といえば、まだ自分が何者か全く定まっていない時期。やりたいことが山ほどあったし、希望に満ち溢れていたから、考えられなかったという方が正しい。結婚願望だって、これっぽっちもなかった。

20代後半になるにつれ、友人たちの「将来何人欲しい?」という会話に、全く乗れない自分に気づいた。やっぱり自分は子どもを考えられないのか、と不思議に思った。でも、結婚願望がこれっぽちもなかった自分がまさかの結婚に至ったのだ。だから子供のことも、もう少し自分が大人になったら変わるのかもしれない、と思ったこともあった。

これも初回に書いたのだが、のちに夫となった彼にはその時の気持ちを伝えなければマズイだろうと思ったので、正直に言った。ただし「多分ね、多分よ。多分私は産まないと思う」と、可能性を秘めた言い方をしていた。

「会社やめて子育てとかしたらどうですか?」

確信めいたものに変わったのは、30代前半の頃だ。

今から10年ほど前、少しだけ在籍していた会社で、ある日突然携わっていた事業が閉鎖になった。メンバー全員がやりがいを感じ、「さぁこれから!」というタイミングでの通告だったので、当然皆、失意に暮れていた。「この先どうするつもり?」という会話の中で、3つほど年下の男性が私になにげなくこんな言葉を発したのだ。

「河辺さん、結婚してるんですから、ほら、会社やめて子育てとかしたらどうですか?」

これを聞いていた年上の女性がすかさず、

「それ、一歩間違えるとセクハラよ。そういう発言は控えたほうがいいよ」

と、彼を責めてくれた。ありがたかったのだが、当の自分はぽかーんとしていた。彼もまた、何が悪かったのだろうかとぽかーんとしていた。もちろん、私と彼の“ぽかーん”は、意味が違う。

彼はきっと、「30代前半、しかも会社の都合で退職、出産するのに絶好のタイミングじゃん!」
と、至って自然にそう思ったのだろう。多分、世の常識に近いのだと思う。

もしくは、“あなたはそういう道もあっていいよね”、的な、ちょっとした皮肉が込められていたかもしれない。

一方、私がなぜ“ぽかーん”としていたのかというと、「なぜ、自分はそこに1ミリも考えが及ばないんだろう……」

という気づきだった。ああ、やっぱり私はそうなんだ、子どものことは考えられない人なんだと確信したのだ。

その後、甥や姪が生まれて気が変わるわけでもなく、30代後半になるともうすっかり自分のスタイルが出来上がっていて、さらに考えられなくなった。夫婦2人、いやそれよりも自由な自分の人生が、やめられないほど楽しくなっていたのだ。

大事なのは自分の心持ち

こんなふうに、たまたま私は気持ちが変わることなく、結果的に貫き通した形になった。けれど、子どもがいない人生を推奨したいわけではない。自然な形で考え方が変化するなら素敵なことだし、そうやって出産に至った友達もたくさんいる。彼女たちの幸せそうな顔を見て、本当に良かった!と思うのだ。

でも、どちらが幸せとか、こうだから不幸せとか、比較してしまうのはやっぱりナンセンス。重要なのは、自分がどう考えてどう生きるかだと思う。実は20代後半の頃、母に「自分は子どもを産まないかもしれない」と伝えた時、「これから逆風を浴びるかもしれないけれど、自分はコレでいいんだと自信を持って生きなさい」と諭された。

30代の私はもろく、案の定、逆風になぎ倒されそうになったのだけど、今ようやくそういう生き方ができてきた。私がこのコラムを書こうと思ったのは、最終的に自分の心持ち次第だということを伝えたかったから。産まない同盟を作りたいわけでもないし、産まない人生が幸せと豪語したいわけではない。ただ、このことだけが人の幸せを決める問題ではない、ということだ。

さて、自分のことはもう、さんざん書かせていただいたので、今後は私以外のストーリーをシェアできる機会をいただけたタイミングで、また再開したいと思います。「勇気を持てた」「自分はこれでいいのだと思えました」など、いろんなメッセージをくださった読者のみなさん、本当にありがとうございました。この場を借りてお礼を申し上げます。

フリーランス・ライター、エディター、インタビュアー。出版社勤務後、北京・上海・シンガポールでの生活を経て東京をベースにフリーランサーとして活動中。
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