廃校をおしゃれな複合施設に。「KITO forest market shimoichi」を手がけるアパレル企業
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●わたしと未来のつなぎ方 57
週末には県外からわざわざ来訪するほどの人気ぶり
奈良県のほぼ中央に位置する吉野郡下市町は、美しい山々に囲まれた自然豊かな土地。古くは平安時代から市場町として栄えた歴史あるエリアでもある。ただ近年は日本のほかの農山村と同様に、過疎化や少子高齢化が進んでいる。駅前の商店街はシャッター通りと化し、かつてのにぎわいはすっかり消え失せてしまった。しかし、そんな町にひと筋の光が差した。2024年7月、廃校となった小学校を再利用して誕生した「KITO forest market shimoichi」だ。
ショップやレストラン&カフェ、マルシェ、ブルワリー、ギャラリー、キッズスペースなどが揃うスタイリッシュな複合施設で、幅広い年齢層が楽しめる。ショップに並ぶ商品はほとんどが奈良で生まれたもので、レストランの食材もできるだけ地元や近郊の旬の素材を使用。ギャラリーでは奈良の木工芸の作家などの作品が展示販売され、キッズスペースでは地元の名産品である割りばしや蚊帳の端材が遊具に使われている。そんな「ここにしかないもの」「ここだからこそ楽しめるもの」を求めて、県内はもちろん、週末には県外からもファミリーやカップルが多数来訪。わざわざここに来るためだけに車を数時間走らせる人も少なくない。
運営しているのは、「GALLARDAGALANTE(ガリャルダガランテ)」「Whim Gazette(ウィム ガゼット)」などのアパレルブランドのほか「3COINS(スリーコインズ)」でも知られるパルグループホールディングス(以下、パルグループ)。下市町は創業者である井上英隆氏の故郷ということだが、なぜ、アパレルを中心とした企業がこうしたライフスタイル系の複合施設を立ち上げたのか。そこには、創業者の孫であり、パルグループの経営企画室に所属する井上真央(まなか)さんの強い思いがあった。
社会貢献とビジネスをどう両立させるか
パルグループが創業したのは1973年。昔も今も家族経営で、真央さんも子どもの頃からファッションには親しんできたそう。幼い頃からアメリカで育ち、多種多様な文化に触れながら、スイスの高校、アメリカの大学では発展途上国を支援するプロジェクトに参加。大学卒業後は「社会貢献やサステナビリティとビジネスをいかにして両立させるか」という視点のもと、いろいろな業種の現状を見てみたいという思いから、日本に戻り、コンサルティング会社に就職した。
「いずれはパルグループに入るつもりでいましたが、その頃には私自身のファッションや消費に対する価値観が昔とは変わってきていました。10代の頃はシーズンごとに新作を買うのが楽しみだったけれど、どちらかというと本当にいいものを長く着たいと思うようになっていたし、お金の使いみち自体、モノよりコトへの比重が大きくなっていました」(真央さん)
パルグループには「常に新しいファッションライフの提案を通して社会に貢献する」という社是がある。自分ならそれをどう実現するだろうか、と真央さんが考えていた頃、転機が訪れた。パルグループには障がい者を雇用する特例子会社があり、同社は2011年から和歌山県の南紀白浜でホテルを経営していたが、新型コロナウイルスの影響で2020年秋に休業してしまったのだ。
真央さんはそのホテルを「リブランドして再オープンしたい」と2021年1月にパルグループに入社し、6月にはホテルを運営する子会社の社長に就任。ホテルをほぼDIYでリフォームし、カフェやコワーキングスペースとしても利用できるおしゃれなホステル「ASA VILLAGE(アサ ヴィレッジ)」に生まれ変わらせた(現在は改装のため休業中)。さらには、姉妹旅館を全面リニューアルし、新たな温泉宿「くろしお想」として2023年夏にオープン。いずれも好調な滑り出しを見せた。
「異業種への取り組みでここまで大規模なものは初めてでしたが、だからこそ、創業者の孫という立場の私が責任をもって先陣を切るべきだ、と。ホテルがあるのは祖母の出身地で、私も小さい頃からよく遊びに行っていたところ。恩返ししたい気持ちもありました」
町に移住する人が増えるきっかけづくりを
そんなチャレンジのさなか、並行して進めてきたのが、祖父の出身地である下市町の地方創生に関するプロジェクトだった。所用で出かけた下市町で小学校の建物をたまたま見かけた真央さんは、校舎の可愛らしいたたずまいに一目ぼれ。気になって調べてみると、まさに今この校舎を活用してくれる民間事業者を募集しているという情報を見つけた。さっそく下市町にプレゼンを行い、優先交渉権を獲得。その後、町民に「町にどんな施設が必要か」「これからどんな町にしたいか」をリサーチし、地元の魅力をさまざまなかたちで発信する複合施設を立ち上げるという案に至った。
「下市町のみなさんが求めていたのは、飲食店や書店に加え、地元の特産品や木工作家の作品を扱う店がほしいということと、町にかつてのにぎわいを取り戻したいということでした。下市町は江戸時代初期に日本初の商業手形が発行されたほど商工業都市として栄えていた場所で、現在も三宝(献上物や供物を運ぶ台)や割りばしなどの木工業、フルーツを生産する農業が特に盛んですが、その魅力はあまり知られていません。ですから、地元の人に喜んでもらえるのはもちろん、来訪者や移住者が増えるきっかけになるような施設をつくりたいと思いました。それには、私たちが長年培ってきた小売業のノウハウも生かせるな、と」
地方創生のヒントを学んでは教える循環づくり
KITOという名前に込められているのは、「木と共に、きっと出会える」というメッセージ。山や森に囲まれた下市町で古くから続く「木と共にある暮らし」を発信することで、それを受け取った人が何かに出会える、そんな場所を目指している。施設内には奈良の木材がふんだんに使用され、それがもともとの校舎のもつ木目の味わいと響き合い、洗練されたデザインでありながら温かみを感じられるムード。体験型施設とあって、午前中から夕方までさまざまに楽しめる。
「例えば、小さなお子さんのいるファミリーなら、朝9時に到着して、まずはキッズスペースへ。たっぷり遊んだあとは、レストラン&カフェ『WOOD FIRE DINING』で地産地消のピザや奈良の旬のフルーツパフェなどをどうぞ。午後はワークショップに参加して、おやつタイムにはテイクアウトスタンド『KITO STAND』でジェラートや季節のスープを。夕方にマルシェで地元の野菜やフルーツ、オリジナルのクラフトビール、スイーツなどを買って帰る。こんなふうに、丸一日家族みんなで楽しんでいただけます」
真央さんがこの先目指しているのは、KITO forest market shimoichiが地元の人たちが中心となって企画運営できる施設になること。現在も地元の人々を積極的に雇用しているが、この場所が地域の若者たちにとって憧れの職場になること、そして、自ら地元を盛り上げていけるように彼らを育てていくことが大切だと考えている。
「若い世代には地元を離れる人もいる一方で、地元に残りたい人もいます。彼らの地元に貢献したいという思いを大切にして、ここで地方創生のヒントを学び、やがて次の世代にそれを教えていく、そんな循環を作っていきたいですね。また会社としては、持続可能な事業であることも重要です。旅の目的地となる場所であり続けられるように、魅力的なコンテンツを増やしていきたいと考えています」
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KITO forest market shimoichi
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Text: Kaori Shimura, Photograph: Ikuko Hirose, Edit: Sayuri Kobayashi
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