相手に求めるのは「外見」か「中身」か。恋愛と結婚の尺度は違う? 『婚活1000本ノック』2話
「ペアシート」にみる婚活事情
あらためて、このドラマの「婚活」に対する解像度の高さに驚く。友人・鳥羽(中越典子)の勧めで「ペアシート婚活」に参加した綾子は、心のなかでハートパイとあだ名をつけた編集者の男性(竹財輝之助)に出会う。綾子と彼とのやりとりには「婚活あるある」が詰め込まれていた。
ちなみにここでのペアシート婚活とは、全員と一斉に顔を合わせるのではなく、3分ごとに男性が女性の座る席をまわって1対1で話をし、最終的にお互いが「良い!」と思った相手とマッチングすれば、連絡先を交換できるスタイルを指す。
お互いのプロフィールを見せ合うとはいえ、たった3分で自身のことを開示し切れるわけもなく、ほぼ第一印象で「好感触かも」と思えた相手と連絡先を交換しておき、後日あらためて二人で会う流れが定番だろう。個人的な経験から言うと、短い時間で多い時は10人以上と一気に会って話すため、初回はとても疲れる。そして、慣れてくると、まるで就活の面接のように思えてくるのだ。
参加者に職業の縛りや年齢制限があることも。その場にどんな人物がやってくるかは、行ってみないとわからない。綾子の場合、ハートパイのように、穏やかで話しやすいけれども妙に引っかかる外見をしている相手もいれば、彼の後輩・マスクマン(ゆうたろう)のように、スマートフォンのゲームに夢中で会話する気ゼロの相手もいた。
こちらが質問する前から相手の自分語りが始まり、貴重な3分が終わってしまうパターンもあれば、反対に、こちらからの質問なしでは一言も話せない相手と遭遇することもあるだろう。ペアシート婚活は、半個室で一人ひとりと話せるのがメリットだ。しかし、短時間で自分をアピールし、相手に理解してもらう「エレベーターピッチ」的コミュニケーション力がないと、撃沈する率も高い。
山田のようなイケメンに騙され、トラウマ級の捨てられ方をした綾子。もう外見に惑わされて失敗するのは避けたい。「外見に惹かれるのはやめにする」「次に私を気に入ってくれた真面目な人と付き合うの」と宣言した綾子は、本音で話せるハートパイのことも、なんとか好きになろうと努力するのだが……。
相手が「生理的に無理」という違和感
綾子とマッチングした、出版社でビジネス書の編集をしているハートパイは、誠実そうな男性だ。しかし、なぜか綾子にとっては違和感がある。それは、彼の独特な髪型のせいなのか、濃いひげそり跡のせいなのか、癖のある引き笑いのせいなのか。外見よりも中身を重視する、と決めたにも関わらず、綾子はどうしてもハートパイの見た目が気になって仕方がない。
せっかくハートパイから電話がかかってきても、綾子の心はときめかず。ペアシート婚活の場にいた山田は、一番人気はハートパイだったことを報告しつつ「お互い中身で選ぶなんて最高じゃん!」と綾子を鼓舞しようとする。綾子自身も、彼にときめくポイントを見出そうとするが、上手くいかない。
「何かときめかないんだよね、あれかな、生理的なもんなのかな」「理屈じゃないんだよ!」と綾子が言うように、女性にとってのいわゆる「生理的に無理」というアラートは、一度でも引っかかるとそう簡単には解除されないように思う。
良い人なのはわかる、話も盛り上がる、それに自分のことを好いてくれている。結婚相手に求める理想の条件に当てはまっているはずなのに、綾子はなぜか、目の前の相手との「未来」が想像できないのだ。
ハートパイの惜しいところは、綾子と二人のデートにおいて、身だしなみをおろそかにしてしまったこと。会って二度目の相手に、鼻毛が出ていることをスマートに伝えるのは難しい。ましてや、食事中に差し歯が取れてしまっては、まさに絶句もの。自分と会う前に、最低限、鏡を見てチェックしてよ……と“残念ゲージ”がたまってしまう。綾子にとって、蓄積していた違和感が限界突破してしまった瞬間だ。
「したい!」と思える結婚のカタチ
綾子が抱える違和感や葛藤の源は、「恋愛に求めるもの」と「結婚に求めるもの」の違いなのかもしれない。
綾子が開いた婚活指南本には「婚活のお相手を、恋愛の物差しで見ていませんか?」「あなたのこれまでの恋愛の物差しで、すぐに判断を下すことはやめましょう」と書かれていた。恋愛と結婚は、違う尺度ではかるべし、という教えだろう。つまり、恋愛相手を探す延長線上で結婚相手を探してはいけない、ということだ。
それでは人は、恋愛には何を求めるのだろう。ときめき? ステータス?
結婚には何を求めるのだろう。安心? 信頼?
それぞれに何を求めているのかがわからなければ、恋愛も上手くいかないし、婚活へのスタートダッシュもできないということか。
山田が綾子に言った「妥協するくらいなら、結婚なんてしなくてもいいって思うけどね」というセリフが、真理を突いていると思えてならない。何のために結婚するのか、どうして結婚したいと思うのか。孤独に過ごす老後が不安、というだけの話なら、結婚以外にも解決策はある。そもそも、結婚したからといって孤独が癒やされるとは限らない。
結婚以外の幸せのカタチを模索したうえで、それでも「したい!」と思える結婚が、妥協のない結婚なのかもしれない。
フジ系水曜22時~
出演:福田麻貴(3時のヒロイン)、八木勇征、関水渚、野村周平、白河れい、橋本マナミ、中越典子ほか
原作:南綾子
脚本:ニシオカ・ト・ニール、松本美弥子、山岡潤平、藤平久子
主題歌:水曜日のカンパネラ『幽霊と作家』
プロデュース:羽鳥健一、矢ノ口真実、髙石明彦
演出:田中亮、西岡和宏、 吉野主
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