小島藤子さん・尼神インター誠子さん、舞台『明けない夜明け』で姉妹に。「自分で自分を縛っていた過去がある」
出会ってすぐに「三姉妹」になれた
――妻が夫を殺害。その三人の子どもたちが、大人になってからの物語です。脚本を読んだときの感想をお聞かせください。
尼神インター誠子さん(以下、誠子): 重いテーマですよね。でも読み進めていくうちに、自分の中にはない感情を感じたり、想像できる範囲が一気に広がったりするような感覚がありました。私は、本格的な演劇の舞台に挑戦するのも初めてです。「これは頑張らな」と思いましたね。しかも、私が演じる役はいっさい笑うことがなくて、ずっと妹たちを罵倒しているんです。自分にはない、激しい一面を、この舞台で初めて出します。
小島藤子さん(以下、小島): 脚本を読み終えて「姉妹がいるというのは、心強いことなんだな」と思いました。私はひとりっ子なので、羨(うらや)ましく感じる部分もあった。もちろん、仲の良い姉妹ばかりではないですよね。この舞台に出てくる三姉妹も、すごくギスギスしている。それでも最後には「一人ではない」と希望を感じさせてくれる舞台になるのではと予感して、演じるのが楽しみでした。
――特殊な状況におかれた三姉妹を演じます。ひとりっ子の小島さんは、どのように作品の中の姉妹像を創り上げていかれたのですか。
小島: 誠子さんと(三女役の、吉本)実憂ちゃんと、三人でいると、すぐに「三姉妹ってこういうことなんだな」とわかるような気がしました。もう本読みのときから、本当の姉妹のような雰囲気なんですよ。それぞれが、長女らしい、次女らしい、三女らしい役割に自然となっている。
誠子さんは、稽古場ではまさに“長女”。私、何か気になることを思いつくと、そのことを考えずにいられなくなってしまうんですね。「今、頭の中にあることを話したい!」と衝動的に口を開いてしまうこともある。それがたとえ、この舞台の演出を担当されている小野健太郎さんが、真剣に話している最中であっても(笑)。誠子さんは、そんな私にすぐに気づいて「今、小野さんの話の腰を折ったらあかん。あとでちゃんと話を聞くから」と言ってくれるんです(笑)。で、本当にちゃんと聞いてくれる。そういうところが、たぶん“お姉ちゃんっぽい”んだろうなと思いますね。
誠子: でも、それは(小島)藤子の話が面白いからですよ。この子、何考えているんだろうって、つい気になるし、話を聞きたい。会うまでは洗練された、凛(りん)とした俳優さんのイメージを持っていたのですが、実際はめちゃくちゃ砕けてて、ほんといい子なんです。会って一日目に好きになったもん。
小島: ほんとに?
誠子: ……一日目は嘘やな(笑)。二日目の顔合わせのときには、不思議と「三姉妹になれる」と思いましたね。
小島: 私も。実憂は一番年下だけど、冷静で、実は一番しっかりしている。そういうところが“末っ子”っぽいですね。
――誠子さんは、実生活でも三姉妹の長女ですよね。
誠子: そうなんです。だからこの作品の三姉妹の、ギスギスした空気感にめっちゃ共感できる。うちも、思春期のときには、お互いのことが本当に嫌いな時期がありました。私は「妹たちのほうが美人だ」と思っていたし、妹たちは、私のほうが勉強ができる、と思っていたみたいで、お互いに嫉妬があったんでしょうね。今はもうそんな気持ちはなくなりましたが、当時の自分の感情は、今回のお芝居にも生きるかもしれませんね。
「『諦めていた幸せ』がたくさんあった」(誠子)
――加害者家族であり被害者家族、という宿命を背負わされた三姉妹は「自分たちが幸せになれるわけがない」と信じ込んでいるようにも思えます。境遇や程度は違っても、この舞台の登場人物たちのように「私なんかが幸せになってはいけない」「幸せになれるわけがない」といった思いを抱えている人は多いのではないでしょうか。お二人はいかがですか?
誠子: 私も最近まで「諦めていた幸せ」がたくさんあったんですよ。小さなことで言うと、撮影現場にアクセサリーをつけたり、ネイルをしたりして行くことができなかった。女芸人が「女」を出したら毛嫌いされるんじゃないか。いじりにくいんじゃないか。誰かに言われたわけでもないのに、勝手にそう思い込んでいて。自分はメイクやネイルが本当はすごく好きなのに「女を捨てて芸人をやっていくのだから、“そっちの幸せ”を望んではいけない」と思っていました。
――今日の誠子さんは、素敵なアクセサリーをされています。何かきっかけがあって、ご自身が変化されたのですか。
誠子: えっ。そうやな。いつ変わったんやろ……。あ、そういえば、このお芝居がきっかけですね。「お笑いの撮影現場ではないから、いいかな」と思って、思い切ってアクセサリーをつけて、ネイルをして、このお芝居の稽古に行ってみたんですよ。
そうしたら藤子と実憂が「めっちゃかわいいですね」と言ってくれたんです。三人で、ネイルを見せ合ったりした。そのときにふっと力が抜けて。あー、もういっか。いろいろ気にするより、自分が楽しいほうがいいやん、と思った。それ以降は、お笑いの撮影現場にもつけていくようになりました。きっと、これまでは自分で自分自身を縛っていたのでしょうね。
「自分自身が見た目に縛られていた」(小島)
――誠子さんと境遇は違っても「私なんかが、アクセサリーをしてはいけない」と思うような気持ちには、共感する女性が多いような気がします。小島さんはいかがですか?
小島: 「まあ、私の人生なんて、こんなもんかな」と諦めるような気持ちが、いつも、どこかにあったような気がします。私は、プライベートで泣くことがあまりないんですよ。嫌なことがあっても「私がどう思おうが、誰も気にしないし」とか「私よりもつらい境遇に置かれている人だっている。私は幸せなほうなんだろうから」なんて、つい自分に言い聞かせてしまって。
でも、そんなふうに考えるのは良くないと、最近考えるようになりました。自分で、自分の感情の行き場を塞いでいるようなものですから。悔しかったことも、辛かったことも、友達に打ち明けるようになってから「自分の中に湧き上がる感情は、人と比べるものじゃない。自分が悲しいと思えば、悲しい、でいいんだ」と思えるようになりました。
――小島さんは10代の頃から俳優として活躍されていますが、お芝居でも「自分なんて、こんなものだ」と諦めてしまうことはありましたか。
小島: ありました。一時期、おとなしくて、頭の良さそうな役をいただくことが続いたんですね。すると私も「そういう役で私を求めていただけるのなら、髪の毛も染めずに、黒髪をキープしたほうがいいかな」と思い始めて。自分自身が見た目に縛られるようになったんです。
でも、あるとき「自分がやりたいから、やろう」と髪を染めてみたら、それまでとはまったく異なるイメージの役で「その色、良いね」と言っていただいたんです。勝手に萎縮しないで自分を表現すれば、ちゃんとその姿を見てくれている人がいるんですよね。
誠子: 本当にそうやな。だから私は、ありたい自分を解放したときに「いいね」と言ってくれたり、共感してくれたりした人が、自分にとって本当に大切な存在になっていくんだと思うんですよ。
「私たちは、一人ではない」と思ってもらえたら
――公演に向けて、意気込みをお聞かせください。
小島: 人生には、どう頑張っても変えられないことがあると思うんです。誰しもが一度は「自分なんて」と諦めることもあると思う。あとで「あのとき、こうしておけばよかったな」と振り返っても、今は、どうすることもできない。この舞台ではそんな、見つめるのに躊躇(ちゅうちょ)するような感情を描いています。ご覧になっている最中は、ひょっとしたら辛い気持ちを思い出すことがあるかもしれないけれど、観終えたあと「私たちは、一人ではない」と、少し軽くなった心で劇場を出てもらえたら、この舞台をやってよかったなと思う。一人でも多くの方にご覧いただけたら嬉(うれ)しいです。
誠子: 「この劇団のみんなと出会えたことは、自分にとって大きな経験になる」と、今からわかるくらい、稽古が楽しいです。だから多くの人にこの作品を観ていただいて、いろんな感情を抱いてほしい。とにもかくにも「誠子の女優デビュー」ですので、大注目してください。
●小島藤子(こじま・ふじこ)さんのプロフィール
1993年、東京都出身。2006年からモデルとしてファッション誌「ニコ☆プチ」などで活躍。2008年、ドラマ『キミ犯人じゃないよね?』で俳優デビュー。近年の主な出演作に、NHK連続テレビ小説『ひよっこ』、ABCテレビ『ガチ恋粘着獣』、東海テレビ『グランマの憂鬱』、映画『馬の骨』など。
●尼神インター・誠子(せいこ)さんのプロフィール
1988年、兵庫県出身。2007年、相方の渚と「尼神インター」を結成。2011年「第32回ABCお笑い新人グランプリ」新人賞。2017年に活動の拠点を東京に移す。エッセイ本『B あなたのおかげで今の私があります』(KADOKAWA刊)の執筆など幅広く活躍。
■演劇企画集団Jr.5(ジュニアファイブ) 第15回公演「明けない夜明け」
2023年7月14日(金)~20日(木)
東京都 東京芸術劇場 シアターウエスト
作・演出:小野健太郎
出演:小島藤子、吉本実憂、誠子(尼神インター)、鈴木勝大、成田沙織、岩瀬亮、石森咲妃、鷲見友希、井筒しま、赤松真治、佐藤達、宮田早苗、小野健太郎、奥田努
※石森咲妃、鷲見友希、井筒しま、赤松真治はWキャストでの出演。小野健太郎は7月16日14:00開演回と19日14:00開演回のみ出演。