石田ひかりさん、Audibleで小説の朗読に挑戦。「難しく奥深いからこそ『もっと』と燃える」
激動の百年の物語。「声だけで表現」
――本作は、書籍で出版されるより先に「音声で楽しむ」物語として配信される、「オーディオファースト作品」です。声によって小説の世界に聞き手を導く役割ですが、オファーを受けたときはどんな感想を抱きましたか?
石田ひかりさん(以下、石田): 嬉(うれ)しかったです。ぜひ挑戦したいと思いました。もともと「声で作品のすべてを表現する」朗読のお仕事には興味があって、何年も前からやってみたいと話していたんです。Audibleも以前から利用していたので、念願が叶(かな)った気持ちです。
これまでも声で伝えるお仕事の経験はありますが、ここまでの長編は初めて。ページ数にして360ページ。おそらく11時間くらいの作品になるそうです。すべて録(と)り終えたときには達成感がありましたね。
――俳優として数多くのドラマや舞台に出演されていますが、朗読ならではの難しさはありましたか?
石田: 登場人物の台詞(せりふ)だけでなく小説の地の文も読みあげていくので、ドラマなどのお芝居における表現方法とはやっぱり違いますよね。あまりに感情移入しすぎてしまうと、聴いている方が疲れてしまうかもしれないし。俯瞰(ふかん)的なトーンで小説の情景を表現していく部分と、登場人物を演じていく部分のバランスが難しかったです。
レコーディングも、初日は戸惑いました。最近のマイクは性能が高くて、ほんの少し体を動かす程度でも、その音を拾ってしまうんです。おなかが鳴るときの音まで(笑)。だから、体はなるべく動かさずに、声だけで表現しなければいけませんでした。
レコーディングを進めていくうちに、徐々に慣れてきた気がします。身体による表現を使わず、じっと集中して声だけで物語を進めていくというのは、なかなかない経験でした。朗読の表現は奥が深くて、難しいけれど、その分「もっと、もっと」と挑戦したくなりますね。私、難しいことほど燃えるんです。本当に勉強になりました。
作中に流れる時間に、人生が重なった
――『百年の子』は百年にわたる学年誌の歴史を追いながら、昭和から令和の日本を生きた女性たちの姿が描かれた小説です。作品を読んで、どのように感じましたか?
石田: 戦後、高度経済成長期、現代と、時代を行ったり来たりしながら物語が進んでいくのですが、物語の終盤、それまで「点」と「点」だと思っていたものが動き出し、つながっていく感覚に痺(しび)れました。ストーリーが躍動していくのを感じて、読んでいてとても惹き込まれましたね。
作中では戦後の日本の様子が描かれているのですが、当時は私の両親が子どもだった時代なんです。読みながら、改めて「戦後のこういう時代を、子どもの頃の両親は生きてきたのだ」と気づかせてもらったような気がします。そして物語は、私が生まれた頃の昭和の勢いある時代から、平成、令和……と時代を超えて進んでいきます。作品に流れる百年という時間に、両親や私が生きてきた日々を重ねながら、読んでいきました。
――女性の生き方は、この百年で大きく変わりました。現代の女性は選択肢が広がった一方で、仕事か子育てか、どんなバランスで両立させるかなど、悩みも複雑になっているように思います。
石田: 女性の人生にはいくつもの分岐点がありますよね。結婚、出産、仕事など、人によってその内容は本当にさまざまだけれど、誰もが何かしらの分岐点を前にして、迷ったり不安になったりした経験を持っているんじゃないかな。どんな分岐点にさしかかっても後悔しない選択をしてほしい。「自分の選択が間違っているかもしれない」なんて悲観しないで、未来を想像してなるべく楽しめる選択をしてほしいです。たとえば誰かの言葉をきっかけに、道を選んでもいいんです。最終的に自分が納得して選んだのなら、思うようにならないことがあったとしても、きっと大丈夫。そう信じて、希望を持って前に進んでいってほしいですね。
●石田ひかり(いしだ・ひかり)さんのプロフィール
1972年東京都生まれ。1986年に俳優デビュー。映画『ふたり』や、NHK連続テレビ小説『ひらり』、フジテレビ系ドラマ『あすなろ白書』などで主演を務める。近年の主な出演作に、映画『わたし達はおとな』、Amazon Original映画『HOMESTAY(ホームステイ)』、ドラマ『きょうの猫村さん』(テレビ東京系)『警視庁アウトサイダー』(テレビ朝日系)、ドラマ『悪女 (わる)~働くのがカッコ悪いなんて誰が言った?~』(日本テレビ系)など。2023年夏に舞台asatte produce『ピエタ』に出演する。