ミュージカル俳優・昆夏美さん、力強いヒロイン役から、感情を出せず悩む役ヘ
英国発のミュージカルを初演
――ミュージカル『マチルダ』は、映画『チャーリーとチョコレート工場』の原作者でもある英国児童文学者ロアルド・ダールの小説が原作です。今回、日本初演ということで、海外クリエイティブスタッフが直接稽古を進めているようですね。
昆夏美さん(以下、昆): この作品は2010年にロンドンのウェストエンドで世界初演された後、長く愛されて再演を繰り返し、米ニューヨークのブロードウェイや、オーストラリア、韓国とさまざまな国で上演されてきました。海外スタッフとのお稽古は進行がスムーズで、まったく無駄がないんです。作品を進めるうえでの手順や基礎もしっかりしています。
今はお稽古が始まって、ちょうど1ヵ月が経ったところです。これまではシーンごとにグループに分かれてお稽古が行われていたのですが、ようやく自分が関わらないシーンのお稽古も観られるようになりました。
――これまではヒロイン役が多かったですが、今回は子どもたちの主張を受け止める先生役です。演出のスタッフからは、どのようなアドバイスを受けていますか?
昆: 今までは自分で未来を切り開くエネルギーの強い役が多かったのですが、今回のミス・ハニー役は自分ではなかなか前に一歩進めない役なんです。それまで「私はこうよ!」と主張する役ばかり演じてきたので、自分の感情を出せない女性はほぼ初めての体験で……。演出の方からは「今回は感情を出しすぎないこと」と言われていますね。
ミス・ハニーはなんとも不思議な役で、マチルダたちの担任の先生として生徒を見守る大人でありながら、どちらかというと子どものマチルダに引っ張ってもらっているんです。ハニーは自分を前面に押し出す勇気が持てず、自分から未来を切り開くことができない。そんなハニー先生を子どものマチルダがそっと後押ししたり、むしろ引っ張っていったりする。
この見た目と中身のギャップが、ミス・ハニーとマチルダの面白い関係性だと思います。大人が、ギフテッドの子どもに引っ張っていってもらう様が見どころでもあります。
心に蓋をしてしまいがちな大人たち
――ミス・ハニーは、telling,の読者の皆さんと重なる部分も多いように感じます。一歩踏み出したいけど、なかなか踏み出せない、自分を前に押し出したくても、その勇気がない。そういった読者に、メッセージをいただけますか?
昆: 大人になればなるほど、心にブレーキがかかって、新しいことに一歩踏み出すのが年々難しくなりますよね。それは私自身も本当にそうだなと思います。
今回の『マチルダ』に絡めてお話しすると、子どものマチルダはいろんな大人に核心を突く疑問をどんどん投げかけていきます。子どもの目線からズバッと言われると、大人にはすごく刺さります。
マチルダの言っていることは、よく理解できる。わかっていても、それでも心に蓋をしてしまうのが大人なんだよねというジレンマは、舞台を観ていただくとすごく共感してもらえると思います。
ジレンマにさいなまれるだけだと、人生は変わらないですよね。自分が変わっていかないと、人生は前に進まない。その自分が変わるための出来事や人との出会いを、ほんの小さなところからでも見つけていくことが大事なんだろうと思います。
大人が勇気を出して一歩踏み出せる解決策を、私もわかっているわけではありません。1人ではなかなか解決できない場合、周りの人に相談してみる。それこそ女子会でもいいと思います。不安に思っていることを吐き出して、一緒に「こうじゃない、ああじゃない」と意見を出し合う。人に話すだけでも頭は整理できるので、それが解決への一歩になるのかもしれません。
●昆夏美(こん・なつみ)さんのプロフィール
1991年生まれ、東京都出身。洗足学園音楽大学在学中の2011年、ミュージカル『ロミオ&ジュリエット』のジュリエット役でデビュー。以来『レ・ミゼラブル』のエポニーヌ役、『ミス・サイゴン』のキム役など、グランドミュージカルで重要な役どころを務めてきた。演劇やテレビドラマへの出演も多い。
◆ヘアメイク:米尾太一
◆スタイリスト:下平純子
■Daiwa House presentsミュージカル『マチルダ』
東京公演:《プレビュー公演》2023年3月22日(水)〜24日(金) 東急シアターオーブ
2023年3月25日(土)〜5月6日(土) 東急シアターオーブ
大阪公演:2023年5月28日(日)〜6月4日(日) 梅田芸術劇場メインホール
脚本:デニス・ケリー
音楽・歌詞:ティム・ミンチン
脚色・演出:マシュー・ウォーチャス
振付:ピーター・ダーリング
翻訳:常田景子
訳詞:高橋亜子
出演:嘉村咲良、熊野みのり、寺田美蘭、三上野乃花/大貫勇輔、小野田龍之介、木村達成/咲妃みゆ、昆夏美/霧矢大夢、大塚千弘/田代万里生、斎藤司/他