スープ、おかゆ、ファスティング 吉田羊さん、食へのこだわりをエッセイ『ヒツジメシ』に

俳優の吉田羊さんがこのほど、自身初の著書となるエッセイ本『ヒツジメシ』(講談社)を出版しました。故郷・福岡の食や思い出の母の味、そして今気になる街や味など、吉田さんの日々の食体験を通して、下積み時代から現在までを振り返った一冊です。食への興味・好奇心が人一倍旺盛な吉田さんに、食との上手な付き合い方や、舞台中ほぼ毎日作って食べているという「ヒツジメシ」も教えていただきました。
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「食い意地」は幼稚園児の頃から

――本書は、雑誌「おとなの週末」(講談社)に連載した8年分の「美味しい」をもとにエッセイをまとめた一冊ですね。これまで出会った食やお店を振り返ってみて、何か発見や気づきはありましたか?

吉田羊さん(以下、吉田): 「感動があるところには人がいる」ということを改めて感じました。食材1つとっても、それを育てる農家の方、届ける流通の方がいて、初めて食卓に並んでいるんですよね。原稿を読み返してみて、自分で「筆が乗っているな」と思った回は、作った方の思いや温もりを感じたものでした。

――食への興味や好奇心があることを自覚されたのはいつ頃からですか?

吉田: 多分、幼稚園の時くらいですかね。私は5人兄弟の末っ子なんですけど、「あなたはまだ小さいからご飯は半分ね」って半人前扱いされるのがいつも嫌で(笑)。「私だってお兄ちゃんたちと同じくらい食べられるもん!」とわがままを言って同じ量をよそってもらって、結局食べられずに残すというような子どもだったんです。食い意地だけは張っていた。その記憶があるせいか、好きなご飯を好きなだけ食べられることへの執着が生まれたんじゃないかなという気がします。

――本書では、ステイホーム期間中にハマったという米粉や、お取り寄せなども紹介されています。コロナ下の吉田さんの食事情を教えてください。

吉田: 工夫次第で、好きな食材を使って美味しいものが食べられるんだなということをあの時期に実感しましたね。初めての緊急事態宣言が出された時、お店に食べに行けないから最初はどうしようかなと思ったんです。でも「外出できないなら家で作ればいいんじゃない」って、すぐに頭を切り替えました。
探求心って時間があるとくすぐられるもので、どうせ時間があるんだから時間のかかるお料理に挑戦しようと、自家製パンやギョウザを作ったりしていました。

――コロナ禍で自炊する機会が増えましたよね。

吉田: そうですね。ただ、初めてパンを作った時はカチカチになって大失敗したので、結局パン粉にして使いました。お料理の得意な方のインスタを見ていると簡単にできそうだなと思って、その方と同じように作っているはずなのに、私が作るとなぜかうまく出来ない。圧倒的に経験値が足りないことにも気づかされるという。

文章のイメージは村上春樹で

――お芝居の表現とはまた違って、文章で思いを表すという作業はいかがでしたか。

吉田: お芝居だと、言葉を発さずとも表情ひとつで美味しいかどうか表現できるんですけど、文章は全部言葉にしないと伝わらないんです。しかも「美味しい」って言ってしまうとその一言で終わってしまうから、毎月のノルマである1700文字が一向に埋まらない。

いかに「美味しい」に代わる表現を探し、「美味しい」という結論にたどり着くか。私が感じた感覚にぴったりの言葉は何かと考えるのは、面白くもあり難しくもありました。食べに行った時のことを思い出して、その時の自分を頭の中で再現すると、不思議とピタっとはまる言葉が降ってくるんです。そうやって書き続けてきた8年でした。

――文章を書く時、参考にしたことはありましたか。

吉田: 5年前に亡くなった兄が、ずっとブログを書いていたんです。それが面白くていつも読んでいたので、語りかけるような軽い口調の雰囲気はそこからですね。 劇団を一緒にやっていた女友達の話し方がちょっと江戸っ子気質なので、そこにも影響されている部分はあるなと思います。彼女とは昔よく落語を聞きに行っていたんですよ。なので、初期の頃の『ヒツジメシ』の締めが落語に出てくるような言葉が多いのは、彼女の影響が多分に入っていますね。

一方で、ちょっとシリアスだったり、ロマンティックだったり、ドラマティックな文章で書きたい気分の時は、私が好きな作家の村上春樹さんをイメージしています。

――和洋中に留まらず、甘いものも辛いものもお酒も、どれも楽しんで召し上がっていらっしゃいますが、「舞台の時はこれを食べる!」と決めている食べ物はありますか?

吉田: 今まさに舞台公演中でして(取材は12月中旬)、ここ最近よく食べているのは、れんこんまんじゅうのスープです。舞台で共演している笠松(はる)さんに、「れんこんのムチンが喉にいい、声が出やすくなるらしいですよ」と教えていただいて、元々れんこんスープはレパートリーに入っていたのですが、そう聞いてより積極的に食べるようになりました。

すりおろしたれんこんと鶏ひき肉を混ぜて、そこにざく切りにしたれんこんとショウガも入れておだんごにします。それを和風だしのスープに料理酒とめんつゆをちょっと入れて、味付けをして完成です。その時の気分でおだんごに刻んだインゲンやネギを入れてアレンジしたものを、ほぼ毎日食べています。

根菜を使ったスープなので体もあったまるし、声も出やすいので舞台中には特にいいんですよ。今はネットで茨城県や千葉県などの農家さんから無農薬れんこんを取り寄せて、 色々と試しています。

昨年、長いドラマの撮影に入ったときに実践していたのが、消化に良いものを食べるようにすること。消化は体に負担がかかって疲れてしまうので、ハードな現場のときほど食事の量を抑えるようにしています。消化に良いおかゆや、胃腸を整える発酵食品を多く摂ることで、体の負担を減らして疲れさせないようにして。そうしていたら、実際体が軽かったのでおススメです。

体づくり、まずは1週間やってみて

――美味しいものを楽しみつつも、健康や体調に気を配る吉田さん。ほどよい「食」との向き合い方を教えてください。

吉田: 食べるって一生のことじゃないですか。だったら美味しいものだけを食べて生きたいと私は思うし、美味しいものを美味しく食べられる体でいられるって、奇跡だと思うんです。だから、美味しいものを食べられる健康体づくりもやっぱり大事ですよね。一方で職業柄美容面を疎かにできない部分があるのも現実で、私の場合は食べることも食べないことも仕事に繋がっていくんです。なので、ちょこちょこっと目標を設定することが多いです。「次の作品までに何キロ落とす」とか、「今度CM撮影があるからお肌のためにファスティングをする」とか。まず身近なゴールを決めれば、この我慢が永遠に続くわけじゃないと思えるし、 その我慢が結果を生めば、回り回って自分を助けることになりますよね?

自分に無理のない範囲で、まずは1週間やってみる。そのうちに、自分の体に合ったやり方が見つかっていくんじゃないかな。私も自分の体と相談しながら、自分の体の声を聞いていくことは意識していきたいです。

――最後に、これから出会ってみたい「食」とは。

吉田: 食の好みが大体決まっているので、「食べたい」と思うものも割と固定されているんです。なので「それは一体どんなお料理なの?」っていう食べものには積極的にトライして行きたいかな。例えば、一生行くことはないであろう国の、料理名を聞いてもどんな料理か分からない未知の食べものと出会う機会があったら面白そうですね。そういう食べものと出会った時に、私はどんな言葉を選び、それを表現するのかなって考えています。

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●吉田羊(よしだ・よう)さんのプロフィール

福岡県出身。小劇場を中心に活動後、TV・映画などの映像へと活動の幅を広げる。2015年映画「ビリギャル」では第39回日本アカデミー賞優秀助演女優賞を、21年には舞台「ジュリアス・シーザー」で第56回紀伊国屋演劇賞個人賞を受賞した。俳優歴25周年を迎えた今年は、映画・ドラマ・舞台はもちろんオリジナル楽曲「colorful」の配信や初のコンサートも開催した。23年1月には、映画「イチケイのカラス」、3月には映画「Winny」の公開を控えている。

■「ヒツジメシ」

著者:吉田羊
出版社:講談社
定価:1,760円(税込)

ライター。雑誌編集部のアシスタントや新聞記事の編集・執筆を経て、フリーランスに。学生時代、入院中に読んだインタビュー記事に胸が震え、ライターを志す。幼いころから美味しそうな食べものの本を読んでは「これはどんな味がするんだろう?」と想像するのが好き。
カメラマン。1981年新潟生まれ。大学で社会学を学んだのち、写真の道へ。出版社の写真部勤務を経て2009年からフリーランス活動開始。