独身女性の友人事情「独身おじさん友達いない問題」は、女性にも?

注目を集めた「独身おじさん友達いない問題」。独身の中年男性が家庭を持った友人と疎遠になり、話し相手は会社の人だけとなりかねないのに、友だちの作り方がわからず、悩むといった問題だ。それでは、独身女性の場合はどうなのか。2人の女性に話を聞いてみた。

友だちと会いたくても、連絡をとるのが面倒

現在はアジア太平洋の社会起業家を支援する一般社団法人Earth Companyで働いている樋口実沙さん(37)は広島県出身。大学卒業後に上京し、都内の企業に就職した。
忙しい毎日を送っていた当時の実沙さんは、仕事上の付き合いは希薄ではなかったが、同僚とは仕事帰りに飲みに行く程度。地方出身なので東京の友人は少なく、社会人になってからも積極的に友だちを増やそうとしてこなかった。それでも「特に困ったことはありませんでした」。
土日にも仕事があったことで、平日勤務の知り合いと予定が合わせづらかったことも、友人が少ない理由の一つだった。今のようにLINEなどが普及しておらず、連絡はメール。それも少し面倒に感じていた。

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大きな自然災害が起こった後には「困ったときに頼れる友だちが、私にいるだろうか」と考え、仕事以外での友人を増やそうとしたこともあった。でも、漠然とした不安を理由に友人づくりをすることに違和感を覚えてもいた。

そうこうするうちに連絡をとる手間をかけて知人や友人と会うよりも、美術館や映画館に1人で行く機会が多くなり、休日も1人で過ごすことが増えた。20代後半に入ると、ライフステージが変わった同年代の友人たちとも、ますます会いづらくなった。

カレーとの出会いがすべてを変えた

そんな生活に変化が訪れたのは29歳のとき。
一冊の本との出会いがきっかけだった。インド旅行の紀行本で、現地のカレーについて詳説されていた。その本に影響を受けてインドを旅したことで、カレーにハマった。帰国してからはカレーの食べ歩きを始め、やがてはイベントの企画までするようにまでなった。Earth Companyへの転職を機に、カレーを通じて社会課題を身近に感じてもらう活動をはじめ、SNSで発信することで、この3年でどんどん友人が増え、Facebookのつながりだけでも、以前の倍になった。「こんなにつながりが増えたのは、カレーだからかもしれません」と話す実沙さん。カレー好きの人が多い日本。おうちカレーの話から、スパイスや調理の仕方といったディープな内容まで、カレーの話題は尽きない。
だから、初めて会った人との自己紹介のときに「カレーが好きなんです」と伝えると、「私も」と話が広がりやすい。実沙さんのカレー好きを知った人からは「おいしいカレー屋さんを教えてください」と連絡が来ることもあるという。

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自然と増えていったカレーつながりの友人たち。実沙さんは、以前の勤務先でもCSR活動として「カレーを販売した売り上げを寄付する」といった企画を立てるなどした。結果として、それは転職のきっかけにもなった。「カレーとの出会いはエポックメーキング。人生ががらりと変わり、そこに友人関係がついてきました」

1人で過ごすのは、むしろ楽しい

千葉出身の入江里依子さん(37)は、保険のコンサルタントなどを行うアイリックコーポレーションで広報を担当している。
1人で生きていくことに不安を感じ、婚活をしていたころもあったが、30代になり、仕事にも1人で過ごすことにも慣れた。以来、婚活をやめて、おひとりさま生活を続けている。

「もともと1人で過ごすのが苦じゃなくて、むしろ楽しめるほう」
休みの日に誰かとの予定を積極的には入れない。高校時代の友だち数人との交流は続いているが、それ以外の人付き合いはあまりない。社会人になり、結婚・出産と友人や知人のライフステージが変化していったことも、人付き合いが減った要因だ。「それも嫌ではないんです。この状況を変えたいとも思ったこともないし、焦りもありませんでした」

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推し活の延長線上に共有する相手が…

ある時、たまたま見かけたYouTubeでアイドルグループにどハマり。アイドルの情報探しのために始めたTwitterで、投稿内容を追っていると、推しスタイルが自分と同じ人や、推しに対する考えが似ている人たちと出会った。
アイドルグループのファンになると、価値観が自分と合うかが、わかる場面があるという。たとえばグッズの販売会。たくさんの人が注文したためにファンが買えない場合に、ファンクラブ限定販売にしなかったことに、“文句を言う人”と“ファン層が広がるといって喜ぶ人”がいる。里依子さんはファンが増えれば嬉しいと自然に思うタイプだ。「会社の同僚や身近な人たちと一緒に推していたら、こんなときに考え方が違えば仕事や人間関係もギクシャクしそうですよね……。だから私はSNSで推し活をしているんです」。
コンサート会場であいさつをしあうだけではなく、聖地巡りやDVD鑑賞会など、一緒に時間を過ごす相手ができることで、推し活はさらに充実していく。

もともとは1人で過ごすことが好きだった里依子さんだったが、推し活の友人と過ごす時間は1人での推し活の延長と感じるので、苦にはならない。一緒に時間を過ごすというより、自分が好きなものを全力で追いかけている感じがするからだ。「誰かと一緒なのが重要なのではなくて、やりたいことをやっている」と話す。

年齢を重ねるにつれて、友だちが作りにくい、とりえこさんは痛感している。音楽の社会人サークルやボランティアに参加したことはあるが、どこかしっくりこなくて、足が遠のいた経験がある。

現在は結婚する予定も、そのつもりもない里依子さん。
「もしアイドルと出会っていなかったら、10年後は不安だらけかもしれません」
将来も、なにかしらの「推し」を持ち、充実した時間を過ごす自分を想像できているという。

翻訳者、編集者。不登校しながらバイトとライブには出かける、元・明るい引きこもり。のちに日本の教育は無理とあきらめ、渡米。英語講師、広告制作ディレクター、雑誌や書籍の編集を経て、朝日新聞社へ入社。好きなものは小説とマンガ。1万冊の蔵書に囲まれて生活している。