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FP fumicoの“Live colorfully”#29 広がる社会保険 扶養の対象外はホントに“損”?

「マネー」に関するインスタグラムへの投稿で、20~30代の女性から支持を集めるFP(ファイナンシャルプランナー)のfumicoさん。お金に対する苦手意識を克服する方法や、ちょっとした工夫などをfumicoさんのインスタでお馴染みの手書きのノートでお届けする、29回目です。今回は社会保険の適用範囲の拡大について解説します。
FP fumicoの“Live colorfully”#28 “扶養”の知識で広がる「選択」

現役世代の支払いが…

社会保険の適用範囲拡大には国として、働く人に保障が手厚い社会保険に加入してもらいたいという側面もあります。ですが、支え手を増やしたいとの思惑もあるようです。

高齢化が進み、年金も健康保険についても、財政状況が厳しい中で、国としては社会保険料を払う人を増やしたいと考えていると思うんですね。それも現役世代で給与天引きだったら徴収しやすい。だから、その方々に負担してもらうことで「制度を維持したい」というのが本音では、と個人的には思っています。

現役世代が支払った年金保険料が、高齢者の年金になっていることは知られていますが、健康保険料も現役世代の払った約4割が、高齢者医療に使われている現実があります。

外的要因での“壁”超えも

自分は壁を超えたくないと思っていても、制度の適用拡大などで“壁”の方が下がってきたり、賃金アップで超えてしまったりする可能性もあります。

たとえば2016年の9月までは、短時間労働者は社会保険が適用されませんでしたが、10月からは短時間労働者でも要件を満たせば、社会保険に加入することになりました。
そして22年10月と24年10月の二段階で“壁”はさらに下がり、社会保険が適用される人が増えることになっています。これまで対象外だった弁護士事務所など士業事務所に勤めている人も、この10月から対象になります。

これらの動向を踏まえると、“適用拡大”で短時間労働者であっても、社会保険に入らざるを得なくかったり、“壁”を越えたくないと思っていても、適用範囲自体が大きく変わったりするといった可能性が考えられます。

賃金の上昇という要因も。

以前にパートなどで勤務していた時には、収入が“壁”の88,000円以上ではなかったのに、復帰したら賃金がアップしていて、同じ仕事内容なのに意図せず“壁”を超えることも起こり得ます。
ただ賃金は労働の対価で、賃金アップは多くの場合、プラスに捉えるべきこと。評価が上がったりなどしているためですので、“壁”を超えないために、「時給などの賃金は低くていい」と自らお願いするのは悲しいことだと私は思います。労働の頑張りに報いるのは金銭的対価ですからね。

現状変更を望まない理由は?

“壁を超えたくない”つまりは“現状変更を望まない”理由は人それぞれだと思います。
私が考えるに、知識が無くて社会保険に加入すると損だと思っている▽なんとなく現状維持したい▽育児や介護などご家庭の事情で責任を担えないなどの場合があると思います。

確かに最後のご家庭の事情の場合はご自身の努力だけでは、変えにくい。しかし、知識が不足しているケースや、なんとなく現状維持をしたいといった場合は、この連載を読むことで、“壁”を超えて働くことのメリットを知っていただきたい。ご自身の行動を変えるきっかけにはなるかな、と思います。

“壁”が下がったり、社会保険に加入しようとしたりした場合に、大きな影響を受ける典型的なパターンは、「夫が会社員、妻が夫の扶養範囲内のパート・アルバイト勤務」です。この場合の妻は、年金はこれまで、年金保険料を負担せず、基礎年金をもらえる第3号被保険者。健康保険は保険料を負担せず、夫が加入する健康保険の給付を受けられる被扶養者。このため、社会保険に入ると、負担が大きく感じます。
該当される方は、「現在の家計や働き方、将来の年金」「家事や育児の分担」などをご家族で考えるきっかけにしてほしいですね。

ちなみに、第3号被保険者という制度自体については、「昭和的家族観に基づく仕組みだ」などの批判もあります。このことも付言しておきます。

実は手厚くて割安な「社会保険」

日本人は概して民間の保険に入りがちです。
「基礎年金しかないから」などと民間の年金保険などに加入したり、「サービスが充実しているから」と医療保険に入ったりするケースは多いですよね。

ですが、社会保険はそもそも手厚くて割安です。基本的に年金も健康保険も終身などと手厚いですし、保険料はお勤め先が半分払ってくれます。
この機会に一度、ご加入の民間保険と社会保険の内容を見比べてみると、家計の固定費の見直しにつながるかもしれません。

最後に扶養全般の話になりますが、被扶養者でご自身が、保険料を負担していないと、どうしても他人事になりがちで制度や仕組みに無関心になりがち。
給与天引きでは自動的に引かれるので、関心が低くはなりがちですが、支払っている自覚があれば、金額や制度、仕組みそのものへ意識が少なからず向きます。

だから私は社会保険のあり方としては本来、主体的に自分事として捉えられる形式がいいのではないかと思うのですが……。

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FP fumicoの“Live colorfully”は、第2・第4金曜に公開の予定です。

FP fumicoの“Live colorfully”#28 “扶養”の知識で広がる「選択」
CFPⓇ保有のファイナンシャルプランナー。 大学卒業後、生命保険会社や市役所での勤務を経て、2017年12月より「お金」に関するInstagramへの投稿を始める。社会保険や税金・資産運用といった学ぶ機会がなく、話題にも上りづらいコトを身近に感じてもらえるよう、解説の投稿は手書き。趣味は起床後すぐの15分ヨガと、株式投資。
ハイボールと阪神タイガースを愛するアラフォーおひとりさま。神戸で生まれ育ち、学生時代は高知、千葉、名古屋と国内を転々……。雑誌で週刊朝日とAERA、新聞では文化部と社会部などを経験し、現在telling,編集部。20年以上の1人暮らしを経て、そろそろ限界を感じています。