横浜で地産地消を発信。「TSUBAKI食堂」が考える食のこれから
●わたしと未来のつなぎ方 25
横浜の地場野菜を味わえるレストラン
横浜といえば、みなとみらいや横浜中華街など観光地のイメージが強く、また近年は関東の「住みたい街ランキング」でトップにランクインするほど、居住地としても人気のエリア。その印象からするとちょっと意外に感じるかもしれないけれど、横浜は実は農業も盛ん。キャベツ、大根、小松菜などさまざまな品目が栽培されているほか、畜産業も営まれており、「はまポーク」「横濱ビーフ」などのブランドもある。
そんな横浜の食材を一年中楽しめるのが、横浜市役所新庁舎2階の商業施設にあるレストラン「TSUBAKI食堂」。メニューの野菜の9割は横浜産で、店内には生産者のポートレートと名前のパネルがずらり。味の濃い生の小松菜にじゃこなどを効かせた「小松菜丼」やマイルドな辛さの「横浜グリーンカレー」など、“横浜野菜”をふんだんに使用した料理を昼も夜も楽しめる。また、「二十四節気」をテーマに、横浜のリアルタイムの旬を味わえるメニューも。
横浜野菜との衝撃の出会い
「横浜を地産地消の代表都市にしたい」という熱い思いのもと、横浜野菜の魅力や地産地消の必要性を伝え、また食育にも関わってきたオーナーの椿直樹さんが、地場野菜に出会ったのは今から20年前のこと。当時シェフを務めていた横浜のスペイン料理店で初めて地元の野菜を使ってみたところ、そのあまりの美味しさに衝撃を受けたのだそう。
「とれたての野菜は、市場からやってくる野菜とは香りも味も別物。幼少のころに食べた野菜と同じ味がして、これはすごい!とひっくり返りました(笑)」
「この野菜を作った人はどんな人なんだろう? 実際にお会いしてみたいし、この野菜を今後も使わせてもらいたい」。そんな思いから生産者を訪ねた椿さん。職人気質の農家さんでなかなか相手にしてもらえなかったけれど、半年通い続けた結果、信頼してもらえるように。
「その農家さんの野菜で料理を作ったら、お客さまから大人気で。でも『横浜の野菜なんですよ』と言っても、ほとんどの方が『え、横浜に畑なんてあるの?』という反応だったんです。これはもっと広めていかなくては、と決意しました」
地元の魅力を再発見できる「横浜18区丼」
さっそく「横浜野菜推進委員会」を立ち上げ、さらに、横浜の地産地消に取り組む料理人や生産者などが集まり活動する「濱の料理人」プロジェクトを発足させるなど、積極的に活動をスタート。2011年に独立してからはオーナーシェフとして地産地消を目指す飲食店を運営し、「TSUBAKI食堂」は起業後3店目のレストランとなる。ようやく理想の店のかたちに近づくことができた、と椿さんは笑顔で語る。
「フードマイレージやCO2の削減といった数字は、結果としてついてくるもの。それよりも、地元の食材のおいしさを感じることで、地域の人とのつながりを感じていただきたいんです。地元への愛着やプライドが深まれば、おのずと人も町も社会も温かくなる。そう思っています」
2021年3月からは、横浜市内の全18区の食材にフォーカスした「横浜18区丼」なる新メニューが登場。1カ月ごとに1区をイメージし、その区の食材を用いた個性豊かな丼を販売するというもので、丼といっても毎回どんぶりめしに具材を載せたものとは限らず、ときには定食だったりパフェだったりとユニークだ。畑が少ない区でも、例えば、西区ならニュウマン横浜の「2416MARKET」から仕入れた味噌や、区内の小学校の生徒たちが育てた野菜を使用するなど、柔軟な発想と地域とのつながりを生かしてメニューを考案。「今まで知らなかった地元の魅力を発見できた」「自分の地元が取り上げられてうれしい」など、評判も上々だ。
横浜野菜で地元の人と人とをつなげる
椿さんは「TSUBAKI食堂」を通して地産地消の大切さを発信するほか、小学校や中学高校と共同で食にまつわるプロジェクトを行ったり、大学で講演したりと、食育にも注力。その背景には、「次世代を担う子どもたちに、地域のつながりを感じてほしい」という思いがある。
「今の世の中、人間関係が希薄になっているけれど、生きていくにはやっぱり仲間が必要。『遠くの親類より近くの他人』ということわざがあるように、地域の人たちとのつながりを大切にして、困ったときは協力し合いながら、一人ひとりが自立した人生を送っていくようなあり方が、これからさらに重要になっていく気がするんです。横浜は、身近なところで地場野菜を栽培しているエリア。横浜野菜をきっかけに地元の人どうしがつながっていく、そんな未来を目指しています」
少し先の話になるけれど、来年には、横浜市内の18区を3区ずつに分けて、それぞれの地域を巡るバスツアーを実施したいと考えているそう。現地では収穫体験や料理教室、商店街歩きなど、横浜の魅力に楽しく触れられるプランをあれこれ準備しているとか。自ら地域の人々をどんどん巻き込み、つながりの輪を広げ続けている椿さん。「横浜を地産地消の代表都市にしたい」という夢がかなう日は、きっと遠くない。
“いま”という時代を生きる女性の思いに応えるため
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Text: Kaori Shimura, Photograph: Ittetsu Matsuoka, Edit: Sayuri Kobayashi
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