【たかまつなな】池上彰の「ですかね?」話法に注目 聞き手を巻き込む疑問文の使い方

「お笑い界の池上彰になりたい」。時事YouTuberのたかまつななさんにとって、ジャーナリストの池上彰さんは、そんな目標となる存在だそうです。今回のコラムでは、たかまつさんが池上さんの話し方を研究する中で気づいた「疑問文」の使い方について解説しました。

こんにちは、時事YouTuberのたかまつななです。私は「お笑い界の池上彰になりたい」と高校生の頃から思っていました。大学時代には、池上さんが出演する番組の「文字起こし」をしていたことも。お話の「わかりやすさ」を、言語学の観点から研究対象としていました。そんな中で、池上さんの話し方の特徴の中に、私たちもマネできそうなものを見つけました。それが「語尾」です。

「政治番組の高視聴率化」という革命を起こした池上さん。以前、池上さんとの対談で「わかりやすく伝えること」について議論したことがあります。池上さんはその際、「わかりやすさを追求するジャーナリストがいてもいいんじゃないか?」と話していました。そんな池上さんは、語尾を少し変えるだけで説得力を高めていました。

たかまつななさん(左)と池上彰さん=たかまつさん提供

断定よりも疑問文を多用

例えば昨年4月、テレビ番組で池上さんが新型コロナウイルスによる緊急事態宣言の必要性を解説した時のことです。

様々な話が展開されていく中で、ゲストから「緊急事態宣言はずっと伸ばせるんですか?」と問われ、池上さんはこう答えました。

「これはいつまでということは決まっていないもので、伸ばすことは可能になるんですね。ただし、最初はね、東京とかあるいは大阪とか福岡で、その後さらに拡大しましたね?」
さらに疑問文を重ねていきます。
「いわゆる特定都道府県と全国という形になりましたでしょ?」
「例えば岩手県ていうのは感染者0ですよね?」
「こういうところも本当にこういう対策を続ける必要はあるのか?という議論もある」
《テレビ朝日「池上彰のニュースそうだったのか!!」(2020年4月25日放送)より》

「本当にこういう対策を続ける必要はあるのか?」という疑問文は、「こういう対策をする必要はない」という「平叙文」として解釈できます。あえて疑問文にすることにより、都道府県ごとに対策する必要性を強調しています。

この一つのやり取りの中に、多くの疑問文を重ねています。強調という意味合いだけでなく、聞き手に考えさせ、納得しやすいように話していることが分かります。

池上さんのスタイルは、自分の意見を主張するのではなく、あくまで解説するというものです。断定よりも疑問文を多用することで、一方の意見に寄りすぎず、「中立な立場」だと視聴者が感じやすいのではないでしょうか。

形は疑問文で意味は平叙文となる表現法を「修辞的疑問法」と呼びます。平叙文とは「僕は東京都出身です」などのいわゆる普通の文章のこと。

「誰がコロナ禍を予測できただろうか?」という文章は、形は疑問文ですが、意味は「誰もコロナ禍を予測できなかった」という平叙文だと解釈できます。あえて疑問文にすることによって、聞き手も対話に参加できていると感じられます。また文章に変化があるので、印象を強く与え、説得力を増したいときに使うと効果的です。

=たかまつさん提供

「偏差値10ですって?」 お嬢様ネタでも使いました。

実際に、私もネタの中であえて「疑問文」を使うことがあります。中学・高校6年間フェリス女学院に通っていた私は、お嬢様キャラとしてかつてTVに出ていました。自分自身のキャラクターを強調した「お嬢様ことば」というネタをよく披露していました。

芸歴1年目の時、NHKのラジオ番組の出演日がセンター試験の日だったため、「勉強にまつわるお嬢様ことばを作ってください」と言われたことがあります。一生懸命考えた私は「偏差値をお金で買う」というボケを思いつきました。それをそのまま紹介しても面白くありません。ここで私は「疑問系にしたらどうだろう」と思い、こう言いました。

「あと偏差値10ですって?おいくら?」
同じアイデアでも疑問文にするだけで、これだけ印象が違います。スタジオでウケ、そのボケは結局、ABCお笑いグランプリ予選で披露したところ、決勝まで残れました。

場を和ませる、気軽なコミュニケーション

日常生活でも、疑問文にすることで、自然にツッコミをいれることができます。そうすることで、ツッコまれた側の人にも優しい印象を与えることができます。
例えば、飲み会などの場で大事な話をしている時に、グラスを倒し、ビールが机に広がってしまった......なんて時。その場の空気を和ませたいですよね。 「大事な話し中に、ビールこぼさないで下さい」と言うのは少しキツイ印象を与えます。
そこで、「なんで大事な話し中にビールこぼすんですか〜?」 と笑いながら言ってみてはいかがでしょうか。柔らかい印象を与え、場を和ませることができるはずです。語尾を疑問文にするだけなので、使わない手はないですよね?

「安いですよね?」じわじわと買う気にさせる

ビジネスの営業でも疑問文を使えます。例えば、10万円の枕を売るのは、なかなか難しいですよね。枕を使える期間が5年だとしたら、1日当たりの費用は54円になります。デパートでお客様に、このように話すとします。「睡眠に悩んでいる人は多いです。枕を変えると睡眠がよくなります。1日たった 54円でぐっすり眠れます」
これは以下のように言い換えられます。 「睡眠にお悩みはありませんか?なんと枕を変えるだけなんです。1日たった54円 で毎日ぐっすり睡眠できるなら安いですよね?」

いかがでしょうか。疑問文で言われる方が、たしかにそうだなと思いませんか。ただ平叙文で、決めつけられて話されるよりも、圧が少ないですよね。さらに、質問の回答を投げかけられることによって、会話に引き込まれる感じがしますよね。

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時事YouTuberとして、若者に社会問題を身近に伝える。若者と政治をつなぐため、株式会社笑下村塾を設立し、全国の学校へ出張授業を届けている。お笑いを通して社会問題を発信中。社会風刺ネタを寄席でやることも。著書に『政治の絵本』『お笑い芸人と学ぶ13歳からのSDGs』

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