スタートアップ勤務「デンマークで学んだ、自由の恐怖。その先に、自分らしい生き方を見つけられた」

デンマーク・スタートアップ勤務(27歳) デンマーク・コペンハーゲンに住む27歳の日本人女性。デンマークに渡るまでの道のりをキラキラとした瞳で語る様子から、デンマークへの愛が痛いくらいに伝わってきました。
  • 記事末尾でコメント欄オープン中です!

日本の大企業からデンマークのスタートアップへ

私はデンマークのファッション系スタートアップでPRを担当しています。日本に向けた広報やカスタマーサービス、webマーケティングを担当していて、お客様や媒体とのコミュニケーションが守備範囲です。

日本にいる時はアパレルメーカーの営業として働いていました。営業といっても、販売員と一緒に考えて実行に移したり、売り場の声を生かして主力の商品展開を考えたり、百貨店の売り場と本社とをつなぐ「なんでもやさん」。どちらもファッション関係という共通点はありますが、業務内容や会社の規模は全く違います。

働き方の面でも、日本の会社とデンマークの会社とでは大きな違いがあります。デンマークでは、ワークとライフとの境界線がはっきりしているなと感じます。自分のやるべきことをやっていれば、あとは本当に自由。ミーティングがない日は遅めに出社する人もいれば、お昼過ぎに退社することも可能です。基本的に17時を過ぎると、オフィスにはほとんど誰もいません。みんな個人の自由を尊重していて、そのフラットさがいいなと思います。

好きだったデンマーク人男性を追いかけて

デンマークへの思いが強くなったのは、大学卒業を控えた頃でした。もともと大学生のうちに海外留学をしたかったのですが、タイミングを逃して叶わず……。後悔していたところ、知人が交換留学生と住める国際寮を紹介してくれて、大学卒業まで住むことにしたんです。そこで出会ったデンマーク人の男性と仲良くなり、彼を好きになってしまって(笑)。

彼がデンマークに帰るタイミングで、卒業旅行をかねて一緒にデンマークを周ることになりました。その旅行で感じた日常が私にとってとても魅力的だったんです。広い家をルームシェアしてみんなでごはんを作って、親しい友だちを呼んでホームパーティーを開いて。デンマークでは友だちや家族と過ごす居心地いい時間を「ヒュッゲ」というのですが、まさにそれを味わえたんです。

もう一つ、デンマークの旅行で印象に残ったのは会話。デンマーク人は意見をはっきり言ってくれる人が多いんです。当時私はほとんど英語が話せなくて、外国人といるとうまく話せず気まずい思いをすることが多くありました。でも彼だけは「なんで間違えるのが怖いの?外国語を話すためにはトレーニングが必要だよ」と言っくれました。ストレートだけど意見を押しつける感じでもなく、「最終的に決めるのはあなた」という前提がある。そこに居心地のよさを感じました。

結局、好きだったデンマーク人には振られてしまったのですが……。失恋が悔しかったのと、旅を通してデンマークへの興味が膨らんだことで「絶対デンマークに住んでやる!」と(笑)。そこからデンマーク移住計画を立てて、3年後に仕事を辞めてデンマークに移り住みました。

フォルケホイスコーレで味わった「自由」の恐怖

デンマークについて調べる中で、デンマーク発祥の成人教育機関である「フォルケホイスコーレ」を見つけました。いくつかのビジネススクールを検討していたのですが、デンマークの日常をじっくり味わいたかったので、1年かけて2つのフォルケホイスコーレに滞在することに決めました。

フォルケホイスコーレは18歳以上であれば国籍・年齢関係なく入学可能で、試験や成績もありません。「人生の学校」とも呼ばれ、大人になってから一度立ち止まって進路を考え直す場として機能しています。ひと言でいうと、自由な学校。授業以外の時間は何をするのも個人の自由で、友人とじっくり話したり自分と向き合う時間はとても貴重でした。一方で、「何をしてもいい時間」に困惑もしていました。日本で忙しく働いていた私にとって、自由すぎる空間は恐怖でもあったんです。

SNSを通じて日本の友だちが会社で昇進したり結婚したり、真っ当な人生を幸せそうに歩んでいる様子をみると、余計に焦りました。自由の中では正解がないから、自分の選択が間違っているように見えるんです。エネルギーはあるのに、どこに走ればいいか分からず、時間を持て余していた時期もありました。

学校での教えもあって、次第に「悩むことは、何かを変えたいということだから行動しよう」と切り替えることができました。興味のアンテナがひっかかる活動に応募してみたり、手当たり次第に動いてみたんです。結果、縁あって今の職場を見つけることができました。

どこにいても、すべては自分次第

今も結局、デンマーク人の基準よりは働いていると思います。休日もあまりのんびりはできなくて、仕事のことを考えたりデンマークを発信する記事を考えたり(笑)。 でも「仕事しなきゃ」みたいな義務感はないんです。休日に買い物を楽しむのと同じ感覚。

正直デンマークっぽさはないんですが(笑)、今すごく幸せです。自由の恐怖感を味わったことで、忙しい仕事も楽しめているんだと思います。私にとっては何をしてもいい自由すぎる環境より、会社の枠組みの中で役割をまっとうできる方が幸せなのかも。デンマークに来る前は「自由」がキラキラして見えていたけれど、いざ味わってみると苦しい面もあるんだと実感しました。自分にとって幸せな生き方が明確になったのは、フォルケホイスコーレの経験のおかげです。

結局どこにいても、どうやって生きるのかを決めるのは自分次第。ゆったりとしたデンマークで、がっつり働いたっていい。これからも私が納得する方法で、生き方を選んでいきたいと思います。

フリーライター/コミュニティマネージャー。慶應義塾大学卒業後、IT企業の広告営業、スタートアップのWebマーケティング・コミュニティ運営を経て、フリーランスのライター・コミュニティマネージャーとして活動中。2019年はデンマークを拠点に「誰もが自分らしさを取り戻せるコミュニティデザイン」を模索しています。