原みすずさん・ダンサー(35歳)

大好きなNYでの生活に満足しているので、結婚を焦る気持ちはありません

原みすずさん・ダンサー(35歳) ニューヨークに来て10年。「こんなに長くニューヨークにいるとは思わなかった」という原みすずさん。結婚は考えるけど一人で生きていくのもあり。英語はうまくないけど、まわりの人が助けてくれるのでニューヨークに来て大変だったことはないという。体が柔軟だと考え方や生き方も柔軟になるのだろうか、そんな印象を受けた。

3歳でクラシックバレエ、高校生になってからジャズダンスやコンテンポラリーダンスも始めました。ジャズダンスはバレエより動きが自由で、自分の中の何かを発散しながら踊っている感じがかっこいいなと思ったんです。

子どもの頃から夢はずっと保育士になることでした。保育科のある高校に進学して保育を勉強し、短大のバレエ科で子どもにバレエを教える教授法を学んだあと、バレエスタジオで子どもたちに教えるようになりました。私に向いた仕事だったし、自分で稼いだお金で年金保険料や税金が払えるようになったことにも、とても満足していました。

今の環境を変えたい。外の世界も見てみたい。

ところが、さあ、ここからだぞって思ったとき、ふと「私はこれをずっと続けていくのかなあ。これでいいのかなあ」っていう気持ちが湧いてきたんです。23歳ぐらいのときでした。ストイックにダンスに打ち込んできましたが、ダンスに関してまだまだ知らないことがあるんじゃないかと思ったら、踊ることが息苦しくなってしまって……。外の世界を見てみたい。どこかに行ってみよう、ここを出てみようって。

撮影:Chris Nicodemo


それで1カ月休みをもらって、友だちを訪ねてふらっとニューヨークへ。すぐにこの街が好きになりました。人が人らしいというか、人間味を感じるんです。電車の窓から見る景色や日常的に目にする光景も好きです。おじいちゃんやおばあちゃんがうれしそうにアイスクリームトラックに並んでいるところとか。なんでもないところが私にとってはツボで……。

もっとここで踊っていたい!と思いました。友だち夫婦の普段の生活を見ていて、どうやってニューヨークで生活していけばいいかもわかったので、いったん日本に戻り、1年間ウエイトレスのバイトで無我夢中で働いてダンスの授業料と当面の生活費を貯め、ニューヨークに戻ってきました。

結婚は考えます。でも、一人で生きていくのもあり。

「これと決めたらまっしぐら」な性格なんです。結婚のこととか、先のこととか全く考えてなかった。そのときはとにかくニューヨークに戻りたい一心でした。子どもも欲しいし、結婚は考えます。二人の妹たちは結婚して子どもがいるし、そういうのを見てると、いいもんだなあと思う。でも、今の大好きなニューヨークでの生活と家族を持つということが、私の中でいっしょにならないんです。今の生活に満足しているので、何歳までに結婚とか、焦る気持ちはないです。ずっと一人で生きていくかもしれないし。妹たちからは、「お姉ちゃん、少しはホームシックになりなよって言われます(笑)。

撮影:Chris Nicodemo

ダンスは私にとって特別なものです。自分の中にあるやもやしていて言葉にできないものや、すごくうれしい気持ちや過去の思い出などをフレッシュに感じながら踊る。ある意味で自己満足だと思うんですけど。

今がダンサーとしてのベストだと思います。30代に入ってから、踊っているときに体と感情のバランスがとれて安定するようになりました。自分を客観的に見られるようになり、本番でも精神的に落ち着いていられる。そこに面白みを感じられるようになりました。


もちろん、技術的には限界があって、もっと脚を高く上げたいけど、脚の付け根が痛くて上がらないことがあったりします。でも、私はすごく速く回転できるとか、そういうテクニックで表現するダンサーではないので……。また、テクニックだけじゃなく、筋肉を支えるコアの部分のトレーニングが大切なんだということも、年齢を経て理解できるようになりました。

私のつたない英語にまわりの人が慣れてくれた。

ダンサーとしてショーやリハーサルに出るとお金が入るので、それを生活費にしています。でも、それだけでは足りないこともあるので、プレスクールやデイケアでムーブメント(子どもたちが想像力をはたらかせて体を動かし、体の感覚と可動範囲を広げていくクラス)を教えたり、ベビーシッターの仕事をしたりしています。ダンスの練習は場所の確保が大変ですが、友人がスタジオの掃除をするかわりに無料で練習に使わせてもらっていて、ときどき、私も彼女の代わりに掃除を手伝って、スペースを使わせてもらうことがあります。ニューヨークにはアーティストが多いので、そういうアーティストをサポートする仕組みが充実していてとても助かります。

ニューヨークに来て大変だったこと? ないんですよねえ。英語は下手ですが、つたない英語でなんとか伝えています。最近気がついたんですが、まわりの人たちが私の英語に慣れて、私が何を言いたいのか想像してくれるようになったので、コミュニケーションがとれているんですね。そういう関わりの中でできた関係がありがたくて。だから、初めての人だとコミュニケーションが難しい。いっしょに踊るときはなんとも言えない距離感があったりします。でも、こういう臆しない性格だから、ニューヨークでやっていけるんでしょうね。

最近、ミュージシャンや画家、パソコンで映像を作る人とか、そういう人たちとコラボレーションする機会が増えてきました。自分でもアイデアを出すし、ほかのアーティストといっしょにやることで自分の引き出しも増える。こういうことができるのもニューヨークならでは。積極的にこうしたコラボレーションをやっていきたいです。

いずれは日本に帰るだろうと思っています。そうなったら、こっちで会った人たちを日本に呼んで、日本での活動を手伝ってあげたい。ニューヨークと日本の距離を縮めたい。そうすれば、日本に戻ってからも、ニューヨークが遠い場所じゃなくなりますね。

ライター。東京での雑誌などの取材・インタビュー・原稿執筆などの仕事を経て、2000年に仕事と生活の場をニューヨークに移す。
好きを仕事に

Pick Up

ピックアップ
【パントビスコ】私35歳、8歳年下との結婚ってどう思いますか?
テリやきテリ世の甘辛LINE相談室
【パントビスコ】私35歳、8歳年下との結婚ってどう思いますか?
ヒント 恋愛
不妊治療を始める前に知っておきたい「特別養子縁組制度」 産むとは、育てるとは
産婦人科医・高尾美穂さん×アクロスジャパン・小川多鶴さん
不妊治療を始める前に知っておきたい「特別養子縁組制度」 産むとは、育てる
家族のかたち 妊活 子育て