女子アナの立ち位置。

【古谷有美】東京オリンピックまで1年。リポーターの舞台裏と、生でこそ揺さぶられる五感

TBSの朝の顔、古谷有美アナ。またの名を「みんみん画伯」。インスタグラムに投稿される、繊細でスタイリッシュなイラストが人気です。テレビとはひと味違う、本音トークが聞けるかも。

●女子アナの立ち位置。

  • 前回はこちら
  • 古谷有美さんの新著『you & me 女子アナの私、普段のワタシ』をプレゼントします。応募はこちらから!

アナウンサーなら、絶対にオリンピックを担当したい

「東京2020」まで、およそ1年を切りましたね。
新人時代はずっとスポーツを担当していたけれど、他国で開催されるオリンピックが話題になるのは、ほんの1週間前。だから、自国で開催されるオリンピックには、やっぱり特別な熱気を感じています。

私は、昔からスポーツ好き。たしかTBSの入社試験を受けるときにも「将来はオリンピックに関わりたいです!」と言いました。世界で活躍する選手たちに、インタビューできるかもしれない。世界新記録を出した人の第一声を、自分が聞ける可能性だってある。それは、アナウンサーならではの特権です。

せっかくこの業界で働くなら、絶対に経験したい。そんな思いを抱えていたので、社会人3年目の終わり、ソチオリンピックの担当になれたときは本当にうれしかったのを覚えています。
開催数日前から現地に入って、まるっと1ヶ月くらい滞在。「こちら、ソチの古谷です! 昨日も○○選手はすごかったですね~! 現地の新聞でもこんなふうに報じられています」などと中継をしました。

分刻みのスケジュールをこなす“フェス”

オリンピック期間は、同時進行でさまざまな競技が行われています。見たい試合や選手が同じ時間帯にいっぱいあって、どう動くか頭を悩ませる様子は、さながら“夏フェス”。

メダル決定戦に関しては、なるべく時間がかぶらないように予定が組まれています。だけど、カメラを切り替えればいい放送と違って、現地にいる私たちは、急いで会場間を移動しなければなりません。「この競技を最後まで見ると、100mの決勝に間に合わない! 100mの決勝なんて10秒もないから、いますぐ向かわないとまずいよ!」なんて、分刻みのスケジュールになることも……。

そういう大きな試合のほかは、基本的に一人で動き回ります。
番組側から「この選手には古谷さんがインタビューしてきて」と発注されることもあれば「この競技を見て、この方にコメントをいただいてきますね!」などと自主的に行くことも。そんなふうに毎日取材を続けているから、撮影しても、放送されないシーンのほうが多いくらいなんです。

猛アピールで選手の足をとめ、コメントをもらう

さらに大変なのは、メダリストが決まってから。世界各地の放送局が集まるブロードキャストセンターでは、テレビ局ごとに撮影ブースが割り振られています。そして、メダリスト側から提供される取材対応時間を各局で分け合い、インタビューを収録していくんです。選手は分刻みでブースを回っていくため、与えられた時間は、1分1秒たりともオーバーできません。

世界中から注目を集めるウサイン・ボルト氏のような選手の場合は、さらに過酷な闘いです。ブロードキャストセンターを飛び出して、自由にコメントがキャッチできる「ミックスゾーン」にスタンバイ。何十ヶ国、何十社ものリポーターやカメラマンが、選手に話しかけやすい“いい場所”を確保し、ひたすら待機します。

だけど、どれだけ良さそうな場所でカメラをかまえていようと、どんな通路をどんな速度で通るかは選手次第。大きな声で「HEY!!」と微笑み、その選手の国のユニフォームを掲げたりして、なんとか注意をひきつけます。選手の袖をつかんだり、報道陣同士で押しのけあったりするのは、もちろんNG。でも目を見開いて、手のひらでなんとなく相手の動きを制しつつ「1問でいいですから!」と頼み込んだことはあります(笑)。

もし、なんとかボルト選手をひきとめたのが、日本の別メディアだったら。「1問だけどうぞ」「この位置からなら撮っていいですよ」なんて、譲り合うときもあります。自分たちの局が一番いい映像を撮りたいのはもちろんだけど、不思議な連帯感も生まれるのが、素敵なところです。

生で観て、五感を揺さぶる経験を、ぜひ

どの選手も心・技・体を研ぎ澄まして、懸命に競技と向き合っています。涙もろい私は、毎日のように感涙して「もっと私も頑張ろう」「同じ歳なのに本当にすごい」などと思うばかり。自然と、勇気や元気がもらえるんです。

テレビの中継で観るほうが、ルールや技も丁寧に解説してもらえるし、わかりやすいのは確かです。だけど、会場を揺らすような声援や、球技場に立つ砂ぼこりの煙たさ、フィールドを滑りやすくする雨のにおい……そういった臨場感は、生でしか伝わりません。選手がゴールする瞬間は見られても、その直後に笑い泣きする家族の顔や天を仰ぐ2位の選手、そしてすべての選手に拍手を送る観客席は、きっと放送されない。目の前で起こっていることを、五感のすべてで受け止めてこそ、心がより強く震えるんです。

もちろん私たちは、そういう生の感動を最大限伝えるために、一生懸命働いています。だけど、せっかくの自国開催で、普段よりは生で観られるチャンスが多いのなら、ぜひあの空気を体感してほしい。結果がすべてのスポーツでも、勝ち負けだけじゃないものがたくさんあります。

軽い気持ちでいいんです。それこそ、夏フェスに行くようなテンションで。ルールだって完璧に知らなくてもいい。選手にとっても、足を運んで観てくれる人の存在が、きっと何よりの応援になるんじゃないかと思います。

古谷 有美さんの著書、好評発売中です。

you & me 女子アナの私、普段のワタシ

you & me 女子アナの私、普段のワタシ

著:古谷 有美
発行:双葉社 

1988年3月23日生まれ。北海道出身。上智大学卒業後、2011年にTBSテレビ入社。報道や情報など多岐にわたる番組に出演中。特技は絵を描くことと、子どもと仲良くなること。両親の遺伝子からかビールとファッションをこよなく愛す。みんみん画伯として、イラストレーターとしての活動も行う。
フォトグラファー。北海道中標津出身。自身の作品を制作しながら映画スチール、雑誌、書籍、ブランドルックブック、オウンドメディア、広告など幅広く活動中。
ライター・編集者 1987年の早生まれ。雑誌『走るひと』副編集長など。パーソナルなインタビューが得意。紙やWeb、媒体やクライアントワークを問わず、取材記事やコピーを執筆しています。趣味はバカンス。好きなバンドはBUMP OF CHICKENです。