「マドモワゼル」と呼ばれて嬉しかったのは昔の話―マンホールという名詞廃止に思うこと
●Ruru Ruriko「ピンク」31
若い女の子は「マドモワゼル」と呼ばれる
先日、アメリカ・カリフォルニア州バークレー市で「マンホール(manhole)」などに代表されるような“特定の性別を指す名詞”を廃止し、ジェンダーレスな表現(たとえば「マンホール」は「メンテナンスホール」へ、といったかたち)に改称する条例が可決しました。
https://www.afpbb.com/articles/-/3235870
このニュースを受け、フランスでの出来事を思い出しました。
「マドモワゼル、50セントです。」
初のフランス渡航で、着いてすぐ入ったトイレで受付のおじさんに言われた一言です。
ヨーロッパでは公共トイレは有料のところが大半。私が入ったのは大して綺麗でもない駅のトイレでしたが、自分が「マドモワゼル」と呼ばれたことに、「マドモワゼルなんて映画みたい!フランスってこんなトイレですらお洒落なの!」と自分がパリジェンヌでなったかのように1人心の中で盛り上がったのでした。
フランス語では若い女の子、未婚の女性を「マドモワゼル」大人の女性を「マダム」、英語では女の子は「ガール」女性は「レディー」と言います。
私は18歳から23歳までイギリス、24歳で半年ほどフランスへ留学経験があります。
留学当初の10代の時はイギリスでも旅行で訪れたフランスでも「女の子」の意味になる「ガール」「マドモワゼル」と呼ばれることが多かったのですが、23歳頃、気づいたら「レディー」「マダム」と周囲から呼ばれ始めました。
最初に気づいた時は、私ももう周りから大人の女性として見られているんだ、というちょっとした優越感と共に、まだ大人じゃない!私はまだマドモワゼル!といきなり大人として扱われることに違和感を抱いたことを覚えています。
そんな「マドモワゼル」ですが、近年フランスでは使用禁止になりました。
理由はマドモワゼルは若い女性、未婚の女性、それ以外にも一人前でないという意味合いも含まれており性差別的である、最近では結婚をしない女性も増えているため不適切という理由です。
フランスなど欧米では日本ほど女性の若さや年齢を重視しておらず、大人として扱われることを好む人が多いことも影響しているのかもしれません。私のフランス語は超初心者レベルですので、「この言葉は性差別になる」と言われても正直そこまでピンとはきません。ただ、留学生活も長く自分にとってより馴染みのある英語文化に置き換えて考えると、状況や相手にもよりますが「レディー」と呼ばれた方が、相手に対等に見てもらえていると感じます。
呼称の変化
英語圏では自分を男性とも女性とも認識しない人たちのことをノンバイナリージェンダー / ジェンダークイアと呼びます。彼らのなかには自分たちを称する時He(彼)でもShe(彼女)でもなく本来は彼ら/彼女らの意味であるThey/Themという人もいます。他にも恋人をさす時に彼氏、彼女ではなく「私のパートナー」と恋人の性別を他人の前ではっきりさせない人も増えてきています。これは性別を明確にしないだけでなく、彼氏彼女と呼ぶより大人びた言い方で好む人もいます。
日本語ではフランス語のマドモワゼルのように日常的に使われる言葉はありませんし、人をさすとき「彼、彼女」より「あの人」という方が多いですが、日本語にも以前に
「フランスは女性?日本は男性?「言葉に性別」に困惑」
の記事で書いたように日常的に使われていますが性差別に当たる言葉はあります。
「性差別をしているつもりはない」「今まで普通に使ってきたのに変えるのは面倒だ」
という意見もあると思います。確かに気にしない人からしたら些細なことでそんなことまで気を使わなくていけないのか?と思うかもしれません。しかし、言語はその国の文化や歴史を知る上でとても大切ですし、日本では流行語大賞が毎年発表されるように、言葉はその時の時代を反映していると思います。
時代は変わる、言葉も変わる
現在、フランスでマドモワゼルが使用禁止になったり、英語圏でthey/themと名乗る人が出てきたということも今の時代が変わってきたという証ではないでしょうか?性差別的な意味はないと言っても、今回のマドモワゼルのように若い女性=未婚、未熟という意味があり、今その意味がなくても歴史上女性がそう見られてきたということを表しています。
言葉はドンドン変わっていくものですから、今後もっとみんながそれぞれに生きやすい時代がやってきて、言葉も変わっていくのかなと思います。普段私たちが何気なく使っている言葉も、本来どんな意味が含まれているのか調べてみるのも面白いのではないでしょうか?