なるほど。“ぶす”は、克服するものにあらず、とな
●本という贅沢55『きりこについて』(西加奈子/角川文庫)
今月のテーマは「美」。というわけで、今月ラストは
きりこは、ぶすである。
という破壊的一行で始まるこの本をご紹介したい。
私は15年ほどファッション誌で美容ページの編集・ライターをしてきたのだけれど、美容ライターという職業を通じて得た一番大切な知見を読者に伝えなさい、と言われたらこう答えます。
あなたが美しいかどうかを決めるのは、あなた自身である
私は、プロモデルでも読者モデルでもない、一般の読者が登場するページばかり担当してきた。
そんなページに参加してくれるふつうの女の子たちはいつも、髪を切ったり、メイクをしてもらったり、プロに衣装をスタイリングしてもらったりするうちに、あからさまに表情が変わっていく。「私の人生史上、今日が一番可愛いかもしれない」と思った瞬間、どんなプロのモデルにも負けない、内側から輝く美しい表情を撮影することができる。
その瞬間はまさに、蛹が蝶になって飛び立つ一瞬のようで、何度見ても鳥肌が立つ奇跡の瞬間だ。(女の子と書いてきたけれど、70歳でも蝶になるし、10歳でも羽ばたく)。彼女たちを生んだ親御さんに見せてあげたいと思うくらい。
そして、自分は可愛い(部分がある/時もある)と気づいた女の子たちは、そこからみるみる磨きがかかってくる。これはなぜかというと、「自分は捨てたものじゃない」「自分の扱い方を変えるだけで、自分はこんなにも変わる」と気づくから。
で、ここからが驚くところなんだけれど、
自分を好きになり(もしくは好きな部分を見つけ)、自分を大切に扱うようになると、美しくなるばかりではなく、メンタルが驚くほど安定するのですよ。
なぜかというと、理由は2つある。
①(外見の変化がきっかけではあるけれど)外見だけではないあらゆることが、自分が自分をどう扱うかによって変わるということがわかるから。
②ということは、人と自分を比較しても意味がないことがわかるから。
これって、すごいことだと思うんです。
だって、多くの人の苦しみは「人と自分を比較するところ」から生まれるから。
この2つを、撮影現場にくる女の子たちだけではなく、それ以外の人たちにも「体験」してもらえないかなあ、どんな方法があるかなあ、と考えていたのだけど……。
そんな「体験」を、全国津々浦々老若男女にさせてくれる機会があったではないか。
この本だっ!!!!!
先に紹介した「きりこは、ぶすである」から始まる、この物語。100人中100人が「ぶす」だと評するきりこが、自分の中身と容れ物(外見)、そして他人の中身と容れ物について、いくつかの発見をする過程が描かれています。
この物語で、きりこが達した結論こそが多分、たくさんの女性を「美醜の問題」や「人と自分を比較することの苦しさ」から救ってくれる結論なんじゃないかなと私は思っています。
物語を「体験」して、きりこと一緒に「発見」してほしいので、内容については書かないけれど、1人と1匹の主人公、きりこと猫のラムセス2世のレンズを通して世界を見ると、まあるい世界でフラットに生きるすべが見えてくる。
多分、多くの女性の目の前にかかっている霧がぱっと晴れて、歪みのない綺麗なレンズで、世の中をすんなりありのままに見られるようになるのではないかと思う。
そんな人生は、多分もっと楽しい。
どかんときて、じわっと広がる1冊です。
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ちなみにこの本は女性たちが「容姿的評価」にとわられず、再生していく物語でもあるけれど、一方で、男性が「社会的評価」にとらわれず、再生していく物語でもある。そこが、二重、三重にすごいなと思います。
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それではまた来週水曜日に。