25歳社長の仕事観と結婚観「20代後半を仕事に費やす決心をしました」
保健室登校をしていた中学時代
――社会問題にはいつから興味を持ち始めたのですか。
酒向: 中学生の時です。最も衝撃だったのは、家庭の経済的な事情で教育格差が生まれることでした。
中学時代の友達は高校受験で私立が第一志望だったのですが、経済的な理由で公立しか通えず、実際の実力よりも偏差値を下げた学校を受験していました。境遇によって与えられる機会が違うことを目の当たりにした時、「自分は環境に恵まれてラッキー」とは思えなくて。そういう状況を変えていきたいと思い、何ができるかずっと考えてきました。
元々、勉強は好きでしたが、「女の子なのにすごく勉強するよね」と言われこともありました。幼い頃から性別と関係ないはずのことを言われたり、人が言われているのを見たりするのも嫌でしたね。
学級委員長は男の子と決まっていたことにも疑問を持ちました。私も委員長したいと思って先生に理由を聞いたのですが明確な答えが返ってこなくて。「理由がないなら、合理的ではないのでやめた方がいいんじゃないですか」と意見を伝えました。そうやって、おかしいと思ったことを単刀直入に言ったり、反抗したりした結果、先生と上手くいかなくなりました。
そのうち授業にも行きたくなくなり、保健室で過ごすようになりました。あの時、保健室が居場所としてあったのはありがたかった。保健室の先生と話す以外は、ずっと本を読んでいました。
本気で課題を解決したいと思う人と仕事ができて面白い
――「社会を変えていかないといけない」という思いは、常に胸の中にあったのですか。
酒向: 漠然とですが、社会課題を解決するための力を身に着け、実際に解決したいと思ってきました。
大学卒業後はアパレル企業で販売員になったのですが、その時の経験は役立っていると感じます。
お客様の中に赤ちゃん連れのお母さんがいたのですが、赤ちゃんを抱っこしていると試着ができません。そこで、全てのお客様が試着をできるよう、私が代わりに赤ちゃんを抱っこすることにしました。
その間は他の方の接客ができないので、経営面から考えるとその時間はコストになります。でも、赤ちゃんの面倒を見ることでその方は喜んでくれて、リピーターとなってくれると考えました。実際その通りとなり、自分についてくれるお客様が増えて売り上げを伸ばすことができました。
服が好きなのでアパレル販売員になりましたが、全ての人が平等に買い物できないという課題に直面して、その解決法を考えている時に強いやりがいを感じた。自分は怒っている時のほうが、パワーが出るタイプだと気づいたんです。そういう経緯もあって、CAMPFIREに転職しました。でも、社会的需要と経営のバランスについて学べたのは、前職にいたからこそ。もし最初から今の仕事に就いていたら、そのことに気づくのはもっと遅かったかもしれません。
――振り返ってみて、昔したかったことを今実現できているという感覚はありますか。
酒向: ありますね。ラッキーな仕事に出会えたと思っています。本気で社会課題を解決したいと思っている人と一緒に仕事ができるのはすごく面白いし、心強い気持ちになります。
直近では『沖縄で「県民投票音楽祭」を無料開催したい!』というプロジェクトがありました。
今年2月に、沖縄・辺野古の米軍新基地建設に必要な埋め立ての賛否を問う県民投票がありましたよね。県民投票は沖縄に住民票がある人しか投票できないので、沖縄県民以外の人は直接関わりを持ちづらいのが現状でした。
そのタイミングで、音楽祭を企画した人がいました。投票日の1週間前に開催されたのですが、その費用をクラウドファンディングで集めたんですよ。
政治は住んでいる地域や国籍によって、自分が意思決定に参加できたり、意見を発信できたりする範囲は限定されてしまう。でも、クラウドファンディングを使うことによって、支援を通じて自分の意思表示ができる。そういう窓口を作れたのはよかったと思います。
「GoodMorningが人格を持った感じ」
――今年4月に社長に就任されたのは、どのような経緯だったのですか。
酒向: 社内で分社化の話が出た時、「社長をやってみたい?」と、代表の家入一真さんらに聞かれました。
正直、心の中を3層くらい掘ると「やるなら代表がいい」と思っていました。事業責任者を1年ほど務め、立ち上げから見てきたサービスでしたから。でも、社会人3年目だし、経営などしたことがないし、失敗したらどうするのかなどの思いが押し寄せてきて……。「1日だけ時間をください」と答えました。
考えれば考えるほど「できない理由」が出てきました。でも、本心ではやってみたいと思っているのなら、そうした方がいいと思うようになりました。最終的にそう思えたのは、GoodMorningはこの後何をしたいか、そもそもどんな社会を目指しているかを考えた時、絶対自分が一番理解しているし、語れると思ったからなんですね。誰かが社長になるなら、それは私でありたいということを経営陣に伝えて、「やってみたいからやらせもらえませんか」と言いました。
4月に社長となり、私たちの会社としてどんな意志をもって社会を変えていきたいかと考えるようになって、GoodMorningが親から独立をして人格を持ったように感じています。
子どもを産みたいと思った時は「産む」と決心した方がいい
――結婚観についても聞かせていただけますか。
酒向: 2年前は結婚して子どもを産みたい気持ちがすごく強かった。でも、徐々に仕事をしながら出産して子育てをするイメージがわかなくなり、今はそこまで願望がなくなりました。
社長になると決断するタイミングも一つの区切りとなりました。社長となると数年間は仕事がメインの生活になるのではないかと感じました。もちろん、社長をしながら結婚や出産をしてはいけないことはないんですが、自分のライフプランとして、20代後半を仕事に費やす決心をしました。
今は仕事ばっかりしています。今は仕事が一番面白いし、何よりも楽しい。でも、これから作っていく会社は、チームの男性も女性も欲しいと思った時に子どもを持てる環境を作っていきたいと強く思っています。
今回、社長をやってみたいと思った時も「でも…」と否定の言葉が出てきました。おそらく、子どもを産みたいと思った時も、同じように産めない理由を考えてしまうと思います。なので、その時は「産む」と決心した方がいいなと思っています。
●酒向萌実(さこう・もみ)さんのプロフィール
1994年、東京生まれ。国際基督教大学卒業後、アパレル企業のTOKYO BASEに就職。2017年1月にCAMPFIREに転職し、ソーシャルグッド特化型クラウドファンディングサービス"GoodMorning by CAMPFIRE"の立ち上げメンバーに。2018年1月より事業責任者に就任。2019年4月に分社化したGoodMorningの代表取締役社長に就任。
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