クラウドファンディングで社会課題に挑む25歳「意外と社会は前進している」

プロジェクトを企画し、それに賛同した人が寄付をするクラウドファンディング。そのプラットフォームを提供するCAMPFIREから、今年4月にソーシャルグッドに特化した「GoodMorning」が分社化しました。代表取締役社長の酒向萌実さんは25歳。「支援をして終わりではなく、その社会課題の本質を可視化していきたい」と話します。

「線」ではなく「面」でサポートしていきたい

――酒向さんは17年1月にアパレル業界から転職でCAMPFIREに入社されていますよね。なぜクラウドファンディングの会社を選んだのですか。

酒向: 社会課題などを直接解決できる仕事はないかと転職先を探していた時、クラウドファンディングを思いつきました。

2011年に日本でクラウドファンディングが始まってから、周りがプロジェクトを通してものづくりをしたり、私自身も寄付したりしたことがあったので、面白いツールだという認識はあったんです。

当時はちょうど、CAMPFIRE内のプラットフォームとしてソーシャルグッドに特化したGoodMorningが立ち上がったタイミングでした。新しく立ち上がったところで働いてみたいという思いもあったので、CAMPFIREではなく、GoodMorningで働きたいという思いを面接で伝えました。

前職ではビジネスメールや名刺交換したことがなかったため、入社後に必死で覚えたという酒向さん。

――それから2年間、GoodMorningの事業にかかわってこられたとのことですが、なぜ今、分社化したのですか。

酒向: クラウドファンディングのプロジェクト内容は多種多様です。中でも、ものづくり系やイベント系の企画はクリエイティブで目を引きますし、寄付したらリターンがあることも多いので資金調達が比較的しやすい。

一方、ソーシャルグッド系のプロジェクトはその対極です。ともすれば地味に見えますし、リターンもそれほど期待できない。入社した当初から、その点をサポートしたいという思いをもって挑んできました。

スタートして2年半が経ち、これまで1400件のプロジェクトを掲載してきました。現在は常時50件ほどを掲載していて、社会的ニーズがとてもあると感じています。

ただ、本当に社会を良くしていくために何が出来るかを考えた時、意思決定のスピードを上げていった方がいいという結論になり、分社化に至りました。

――社長として今、取り組んでいるテーマは何ですか。

酒向: 現在の課題の一つが、「プロジェクトごとにお金を集めて終わり」となっている現状です。一度の資金調達だけで課題が解決することはほぼありません。継続的に取り組む必要があるのに、何度も資金集めをするのは難しい。根本的な原因である社会の制度を変える必要があっても、そこまで到達しない。

この現状を乗り越えるために、私たちは「線」ではなく「面」の支援をしていきたいと思っています。

現在のチームは7人。取締役を除くと、チームの平均年齢は約24歳。

――「面」の支援とは?

酒向: たとえば、子どもの貧困に対しては多くの人が様々なアプローチで取り組んでいます。でも、一つひとつのプロジェクトを見ているだけでは、その背景にどんな社会課題があり、どこまで解決されたのかという全体像が見えてきません。

プロジェクトにお金を払うだけではなくて、GoodMorningに関わる全ての人がその社会課題の本質を知り、解決に取り組んでいける仕組みに変えていきたい。そのために今取り組んでいるのは、単なるプラットフォームになるのではなく、メディア的な機能も備えることです。意外と社会は変わってきているということをしっかり発信していきたい。今年の夏をめどにサービスを始める予定です。

支援者数の可視化が、社会の希望になる

――社会制度の変革には、どうやってつなげていくのですか。

酒向: ソーシャルグッドのための費用は、本来は税金でまかなうべきものもあると思っています。クラウンドファンディングは、あくまでも社会制度を変えるきっかけとなるアクションとして使うという考え方が大事だと思っています。

2年前、経済的な理由で塾に通えない中学生たちに、学習塾に通える「スタディクーポン」という券を寄付するプロジェクトがありました。渋谷区と提携したプロジェクトでしたが、クラウンドファンディングで実績をつくることで、全国の自治体への展開や政策への反映を目指して継続して支援していく方向になりました。このような事例をどんどん作っていきたいと思っています。

調達資金の目標は当初1000万円。最終的には1400万円超の寄付が集まった。

一番困窮している状況にある方がクラウドファンディングをすぐに使うのは難しいかもしれない。でも、その状況を変えたいと思った人たちがオープンな場でお金を集めることで、支援者の人数がどんどん増えていくのがパブリックに見えるところに意味があります。実際、支援を受ける側で「こんなにたくさんの人が知って、応援しようと思ってくれるだけでうれしかった」と言う同年代の女性にも会いました。

「その社会課題は解決した方がいい」と思っている人数が可視化できる。それが結果的に、最もパワーになり、希望になると思っています。

――社会課題の中にはまだまだ女性の課題も多いと思うのですが、そういった目線で取り組まれているプロジェクトもありますか。

酒向: 色々ある中で、一昨年に東京・世田谷でシングルマザーの家庭向けのシェアハウスを作るプロジェクトがありました。面白いのが、「おばあちゃんと同居する形」ということ。

結果的に500万円近くの寄付が集まった。現在も世田谷で運営されている。

1階に管理人であるシニアの保育士の方が在宅し、2階にシングルマザー家庭が住む下宿型です。夕方は1階が地域食堂になるので、お母さんの帰宅時間遅くなっても子どもたちが同居人や近所の人と一緒に食事ができます。

クラウドファンディングの面白いところは、こうした考えもしなかったような新しいソリューションの提案に日々出会えることです。

「世の中は結構変わっていっている」

――GoodMorningのサポーターはどのような人が多いですか。

酒向: 30代の方が多いです。ある支援者の方は「もう少し社会を良くしたいと思っても、仕事や家庭がありお手伝いができない。だから寄付という形で応援している」と話していました。

一人が小さなアクションを起こすだけで誰かの希望になり、何かの事業が進んでいくはずです。「社会なんて変わらない」と思っている人もいると思いますが、私は日々プロジェクトに関わる中で、世の中は結構変わっていると感じています。そういった変化をしっかりと伝えていきたいと思っています。

GoodMorningのカラーは青。取材時の服装は青色を添えるようにしている。

●酒向萌実(さこう・もみ)さんのプロフィール
1994年、東京生まれ。国際基督教大学卒業後、アパレル企業のTOKYO BASEに就職。2017年1月にCAMPFIREに転職し、ソーシャルグッド特化型クラウドファンディングサービス"GoodMorning by CAMPFIRE"の立ち上げメンバーに。2018年1月より事業責任者に就任。2019年4月に分社化したGoodMorningの代表取締役社長に就任。

同志社大学文学部英文学科卒業。自動車メーカで生産管理、アパレルメーカーで店舗マネジメントを経験後、2015年にライターに転身。現在、週刊誌やウェブメディアなどで取材・執筆中。
1990年生まれ、埼玉県出身、東京都在住。 フリーランスフォトグラファー・デザイナーとして雑誌、広告、カタログ、アーティスト写真など幅広く活動。
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