「自分はどう思われている?」考え始めると止まらない真のミステリィ
●本という贅沢50『春にして君を離れ』(アガサ・クリスティー 中村妙子訳/クリスティー文庫〈早川書房〉)
___高校時代からの友人に絶交された。私は彼女のためと思っていろいろ相談にのってきたけれど、彼女はそんな私を「あなたはいつも私を見下している。縁を切りたい」と言ってきた。何が悪かったの?
ちょうど一週間前、そんな相談が、「AERA dot.」の名物コラム、鴻上尚史さんの「ほがらか人生相談」に寄せられた。
相談主さやかさん(28歳)に対する鴻上さんの回答が、今回も素晴らしすぎると話題になっていたのだけれど、皆さん、このコラム、読まれました?
私、これね、読んだあとしばらく立てないくらい、ずーーーーんとなった。
というのも、5年ほど前、
さとゆみさん(37歳/当時)も、さやかさんと同じような経験をして、友人に「二度と会いたくない」と言われたことがあったから。
その友人から言われたのは、こんなことだった。
・頼んでもいないのにアドバイスしたがるな。余計なお世話
・こっちが落ち込んでいる時に、説教なんか聞きたくない
・正論を言うのが友情ではない。あなたの正論は人を傷つける
箇条書きにしたのは、当時の臨場感ある彼女のセリフで書き出すと、もう一度私自身が落ち込んでしまいそうなくらい、切れ味するどい言葉だったからです。
当時私は、突然キレた友人に(私には「突然」キレたように見えた)、「は? 何言っちゃってんの? あんたのために言ってやったのに」と、逆切れした。しばらく連絡もとらなかった。自分に非はまったくないと思っていた。
だから、鴻上さんの「かわいそうなあなたの話を私が聞いてあげるという、無意識の優越感を持っていませんでしたか?」という回答は、その当時の自分に向かって言われたようで、ぐさぐさきた。
そんな鴻上さんが、相談者のさやかさんに一読を勧めていたのが、このアガサ・クリスティの『春にして君を離れ』だ。秒でポチしてkindleで読んだ。
一気読みだよ。
もう、トイレに行くにもkindle手離さず、一気読み。
そして、再び、ずーーーーんってなったよ。
自分の皮膚をナイフでうすーく剥がされていくような恐ろしさがあったし、呼吸をとめて読んでいたから読み終わった時ものすごい頭痛だったし、深夜にもかかわらず、いろんな人に電話しまくって「あの時はごめんよーーー」って懺悔したい気持ちにもなったよ。
だけど、鴻上さんの回答も、この本も、ずーーーーんってなったけど、ほんと読んでよかったと思う。
もし時間を巻き戻して、これ読まずに生きていく人生と、読んで生きていく人生と、どっちか選べと言われたら、絶対後者を選ぶ、私。
この本は、アガサ・クリスティーの本だけど、“いわゆる”ミステリィ小説ではない。殺人事件は起きないし、犯人もいない。
優しい夫と優秀な子どもに恵まれ、理想の家庭を築いてきたと思っていた40代の女性が、ふと自分の人生を振り返り、家族や友人たちが自分をどう思っているかについて、考えるだけの本だ。
だけど、読み終わった時に感じるのは「これほどまでに、完全なるミステリィがあるだろうか!」ということ。
「自分の身近な人が自分をどう思っているか」そして「実際のところ自分はどんな人間なのか」ほど、重大かつ残酷なミステリィはない。
そこには目を背けたいようなこともあるし、これまでの自分の人生を否定するようなこともあるかもしれない。
というか、ある。
けど、やっぱり、読んでよかった(二回め)。
いまごろ、さやかさん(28歳)も読み終わっただろうか。
さやかさんと語りたいなあ。
この本を読んだ人たちとも話をしてみたいなあ。
鴻上さん、ありがとうございました。
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kindleで読み終わったあと、書店で文庫本を手に入れました。これ、文庫本にしか収録されていない栗本薫さんの解説がすんばらしいので、これから読む人には、文庫本をおすすめです。
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それではまた来週水曜日に。