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XXしない女たち #28

パーソナル診断にとらわれない女たち 「自ら考える余白」が欲しい

私たちはさまざまな「HAVE TO:やらなければならないこと」に囲まれている。でもそれって本当にやらなきゃいけないこと? 働く女性たちを研究している博報堂キャリジョ研プラスによる連載「XXしない女たち」。今回は「パーソナル診断にとらわれない女たち」。一人ひとりの体型や顔のつくり、肌の色、性格などを分類するパーソナル診断が若い世代を中心に大流行するなかで、診断結果から距離を置く女性たちに話を聞きました。
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好きな色を楽しむ表情が一番すてき

今、骨格診断やパーソナルカラー診断、性格診断などのパーソナル診断が大流行した結果、服やメイク、人間関係まで、診断結果によって選択する女性も少なくないと聞く。かくいう筆者も、パーソナルカラー診断を受け、薦められたコスメをそのまま購入し、薦められたメイク方法を疑わずに行っている。店頭でも当然のように、パーソナルカラーをベースに選ぶための宣伝文句が並ぶ。そんななか、こうしたパーソナル診断を指標としてファッションやメイクなどを選択する潮流に違和感を抱く女性たちがいる。

PeopleImages/iStock/Getty Images Plus
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現在25歳、コピーライターとして広告会社で働くOさんは、骨格診断やパーソナルカラー診断をはじめとするパーソナル診断を信じていない。店頭やSNSで行う簡易的な診断で結果は知っており、たとえばパーソナルカラー診断結果は「ブルベ・夏」。オススメされたのは「淡く柔らかい」色。でも、自分が欲しいと思う服やメイクの色合いはもっとハッキリとした色。この日の取材も、ショッキングピンク色のセーターを着ていたOさんは「たぶんこれも本当は合わない色なんだけど」と笑う。

ファッションが大好きなOさんは、服やネイルはもちろん、髪の色も「気分」で変える。ある時はピンク、ある時はブルーなど、頻繁に色を変えているのだが、Oさんが服やメイク、髪色などを決める基準は「自分のテンションがあがるかどうか」。パーソナルカラーの診断に従って「肌の色が綺麗に見える」とされることより、そのときそのときで自分の好きな服や色を楽しんでいる女性の表情が何よりステキだと信じている。

Antonio_Diaz/iStock/Getty Images Plus
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“攻めすぎ”くらいが、ファッションの醍醐味

気分で自由にファッションを楽しむOさんは、時々「派手すぎる」こともある。彼氏にも「ちょっと派手すぎるから違う色にしたら」なんて言われたこともあるくらいだ。でも、ちょっと「頑張り過ぎたかな」くらいの“攻め”を続けていくと、段々とそのファッションが自分に馴染んでいき、自信に繋がり、ファッションが楽しくなる。もちろんOさんも、「ちょっと似合わないかな」「派手すぎたかな」と自分で心配になることもあると言うが、そんな心配も、ちょっと背伸びしたファッションが自分に馴染むための、いわば「筋肉痛」みたいなものなのだとOさんは言った。

「もし本当はもっと自由にファッションを楽しみたいけど、世の中の“診断”によって選択肢が狭まってしまっている人がいたら、似合わないことを恐れずに、少しずつでも挑戦することを応援したい。そうすれば、なりたい自分に近づけるはずだからーー」。Oさんはこう言って微笑んだ。

Deagreez/iStock/Getty Images Plus
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診断を信じていたら、挑戦できない……

次に話を聞いたのは、IT企業のSEとして働くAさん(26歳・独身)。パーソナル診断は、「こういう色は着ない方がいい」「こういう人とは関わらないほうがいい」などの「決めつけ」が嫌で信じていない。

Aさん自身、なんとなく自分が「苦手」な服の形やメイクの色は分かっている。それでも、診断によって「似合わない」と決めつけられてしまうと、未知の領域に挑戦できなくなってしまうから、あえて診断結果をもとに選ぶことはしないと言う。パリっとした生地のシャツは似合わないなと分かってはいても、実際に手に取ることで、柔らかい生地だったら似合うのかも、と気付けたり、手持ちのコスメはピンク系が多いが、オレンジ系のコスメを買ってみたら、手持ちのピンク系のものと混ぜて新しいメイクの幅を楽しめたりと、パーソナル診断を信じていないからこそ、「意外と悪くない」チャレンジに踏み出せることに満足している。

「決めつけ感」がイヤ

パーソナル診断は信じないAさんだが、占いは好きで、毎年上期・下期に発表されるものを欠かさずチェックしている。その占いは、星座をベースにしたもので、「いつ産まれたか」なんて結果に大きく左右するものじゃないと思っているからこそ、気楽な気持ちで見られるのがいいのだと言う。また、その占いのアドバイスは、「決めつけ」感が無いことも気に入っている。よく見かける「○色のモノを持ち歩きなさい」などの具体的な指示は一切無く、良くも悪くも曖昧なアドバイスには必ずポジティブなメッセージが込められていて、「自分のモチベーションを上げてくれるもの」と割り切って見ている。Aさんにとっては、占いも診断も、「正確である」ことより「受け取り手が自由に考えられる余白」があることが重要なのだ。

Nuttawan Jayawan/iStock/Getty Images Plus
Nuttawan Jayawan/iStock/Getty Images Plus

診断で人を評価するのは怖い

最後に話を聞いたのは、PR会社で働くMさん(25歳・独身)。メイクが好きで日頃から「美容垢」などで情報収集している。パーソナルカラー診断が流行し始めた頃に「色白ブルベになりたいあなたに!」などの投稿や書き込みを見て、「ブルベ至上主義」らしいものを感じ、パーソナル診断が苦手になった。

中学の3年間をインターナショナルスクールで過ごしたMさんは、自身がアジア人としてマイノリティになった経験があり、一人ひとりの個人ではなく、「だれかをまとめてガガッと括る」恐ろしさを身をもって経験した。人を評価する「記号」に使われる診断は、Mさんにはすごく曖昧なものに感じたし、それが権威を持ったり、盲目的に信じたりすることはとても怖いと率直に思った。

コンプレックスが、やがて褒め言葉に

Mさんは身長が168cmと女性の平均身長より高く、肩幅も広め。骨格診断で見たら、おそらく自分は「ナチュラル」タイプで、「貧相に見えるから、骨感を隠したほうがいい」などとアドバイスされることが多いと言う。その他の骨格タイプでも、例えば「ストレート」タイプは、「胸板が厚いから太って見える」などコンプレックスを刺激するような表現が多く、そういった所もMさんがパーソナル診断を苦手とする理由だ。

Deagreez/iStock/Getty Images Plus
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そんなMさんだが、高校時代はコンプレックスを自らネタにするほど、気にしていた時期もあった。「私はエラが張っているから」「肩幅すごいからさ~」……自らネタにすることで周囲も乗っかってきて、人知れず傷ついた。ただ、大学に入って自分で言わなくなったら、一切ネタにされることは無くなった。むしろ「モデルみたいな体型だね」「スタイル良いね」など褒めてもらえることが増え、生まれ持った自分の体や顔を世の中の基準に合わせるのではなく、周りの見方を変えていこうと思うようになった。誰かの基準に振り回されて生きるより、自分がよければそれで十分じゃないか――。そう思うからこそ、Mさんは「自分の基準」を大事にファッションやメイクを楽しんでいる。

信じる・信じない、年代でばらつき

博報堂キャリジョ研プラスは今年2月、20-60代の女性を対象に「パーソナル診断に関する意識アンケート調査」を実施した。回答者は100人。若年層中心にパーソナル診断が大流行中とされるなか、今調査では、全年代で見るとパーソナル診断を「あまり信じていない」女性は46%、「信じていない」女性が17%と、全体では6割以上の女性たちがパーソナル診断を信じないと答えた。しかし、年代による差異が大きく、60代で80%、50代で70%、40代で75%が「あまり信じていない」「信じていない」としたが、20代、30代の若年層では「信じている」と答えた人が過半数を超えていた。

【グラフ1】

博報堂キャリジョ研プラス「パーソナル診断に関する意識アンケート調査」グラフ1
博報堂キャリジョ研プラス「パーソナル診断に関する意識アンケート調査」グラフ1

パーソナル診断を「信じている」「少し信じている」と答えた女性たちに、「信じている理由」を聞いてみると、「失敗したくない」が42%とトップで、失敗を恐れる女性たちの心情も見て取れる。次点では「判断の参考にしたい」「選択肢を広げたい」など。

【グラフ2】

博報堂キャリジョ研プラス「パーソナル診断に関する意識アンケート調査」グラフ2
博報堂キャリジョ研プラス「パーソナル診断に関する意識アンケート調査」グラフ2

一方、「パーソナル診断を信じない」「あまり信じていない」と回答した人に、その理由を聞いてみると、「自分の好みで選択したい」が4割弱ともっとも多く、次点で「ファッションやメイクなどの選択肢を狭めなくない」「自分の気分やモチベーションを優先したい」などが続いた。

【グラフ3】

博報堂キャリジョ研プラス「パーソナル診断に関する意識アンケート調査」グラフ1
博報堂キャリジョ研プラス「パーソナル診断に関する意識アンケート調査」グラフ3

自由回答では、「信じている」女性は、「店員の褒め言葉と自分の感覚が合わず、パーソナル診断をしてみると、カラーチャートで自分の感覚としっくりきた色味を見つけて、高い口紅を失敗せずに済んだ」「自分が選ばないような色も選べて面白かった」など、パーソナル診断のメリットを実感している声があがった。

一方で、そうした診断をベースとしたサービスなどが増えるなかで、「パーソナル診断で薦められた商品を使ってみたが、自分に合わない色味だったことが何回かあった」「周りから似合うと言われるカラーと違った」など、診断結果に対する懐疑心から診断を信じなくなったという声もあがった。

取材やアンケートを通して、パーソナル診断は便利さもある一方、振り回されたり決めつけられたりすることに抵抗感を抱く女性たちも少なくないことが分かった。診断はあくまで一般的なひとつの指標。「上手く利用してやる」くらいの気概で、自由にファッションやメイクを楽しめる女性たちが増えると、世の中がもっと生き生きとカラフルに彩られるのではないかと思う。

子どもファーストで生きない女たち まずは自分の意思が優先 義実家に帰らない女たち 両家とのちょうどいいバランスは?
「博報堂キャリジョ研プラス」所属。1995年生まれ。雑誌・新聞の広告メディア領域を経験したのち、PRプラナーとしてクライアントの情報戦略、企画に携わる。だれもがハッピーに生きる社会を目指して、キャリジョ研での活動や日々のプランニングに邁進。大好きなのは高知県、もんじゃ、夏。