芳根京子さん「強さを持つ女性は魅力的」 映画「雪の花 -ともに在りて-」で松坂桃李さんと夫婦役
心の底から信じられる関係性とは
――本作で演じた千穂は、町医者の夫・良策をかげで支えながらも、自分の芯を持った女性です。芳根さんはそんな千穂の生き方についてどう思われますか。
芳根京子さん(以下、芳根): 千穂は「夫の良策さんを信じている自分」を信じぬける強い意志を持った女性です。人を信じるとは、場合によっては人任せにしているところもある気がするんですけど、「あなたを信じているよ」というよりも、「あなたを信じる自分を信じている」となったら自分事になりますよね。それは簡単にできることではないなと思います。
私はこれまで「人を信じる」という言葉を割と簡単に使ってしまっていたなと思うんです。千穂のようにそこまでの強さを持つ女性は美しくてかっこいいですし、あの時代にその強さを持って生きた女性はとても魅力的だなと思いました。
――そこまで良策のことを信じ続けられた理由を、演じていてどのように感じましたか。
芳根: 「こういう理由があるからあなたを信じます」ということよりも、これまで2人が歩んできた時間やコミュニケーションの中で、一緒にいることがお互いの強みなんだと思いました。2人そろうからそれぞれが成り立つのであって、どちらかが欠けたらどちらも成立しない。それがこの夫婦の愛の強さではないでしょうか。色々と知ったうえで、心の底から信じることができているのだと思います。
本番までの一歩一歩を踏みしめたい
――小泉堯史監督作品は、映画『峠 最後のサムライ』以来、5年ぶりの出演です。
芳根: 前回、小泉さんとご一緒した時は、あまりの緊張で記憶が薄くなってしまったので、今回は「しっかりと記憶に残して帰るぞ!」という思いで臨みました。今回は出演させていただいたシーンが多かった分、小泉さんと一緒に過ごせる時間も長かったので、たくさんお話しさせていただきました。小泉組のプロフェッショナルなものづくりの姿勢を体感することができましたし、役者ファーストで現場を動かしてくださったので、貴重な現場に参加させてもらえているんだなということを日々実感していました。
――今回の現場で得たものは、どんなことでしたか?
芳根: 今作はデジタル撮影でなく全編フィルムでの撮影なのですが、この経験があるかないかで今後が違う気がしていて、これからの自分にとって本当にいい経験になったと思っています。撮り直ししたいと思えば「もう1回やろう」と何度でもできるのが当たり前の時代になりましたが、今回のように1回にかける思いや本番の重みというものが、言葉だけでなく、体感としてあることは自分の強みになるなと感じました。
今もドラマの撮影中ですが、そこでも自分の最大のパフォーマンスを本番で出すために「一旦やってみよう」ではなく、本番までの一歩一歩をしっかり踏もうと心がけています。ほかにも小泉組で学んだことはたくさんあるのですが、撮影を終えて離れてみて、より一層改めて感じるものがあるのは、本当にありがたいことだなと思います。
「この役を任せてよかった」と思ってもらえたら
――千穂の強さが垣間見えるのが、和太鼓と殺陣のシーンです。実際に和太鼓を演奏してみて、いかがでしたか?
芳根: 今までいろいろな楽器を経験してきましたが、和太鼓は初めてだったんです。クランクインの約3ヶ月前から練習の時間を取って、週に1回はレッスンに通いました。最初はバチの持ち方も分からないし、どう叩けばいい音が鳴るのかも分からなくて。不慣れだったので、体にダメージが出るような叩き方をしてしまっていたんです。先生方と相談しながら「大会」という本番に向けてベストなパフォーマンスをするために、練習を重ねました。
練習の場に小泉さんが何度もいらして、その度に声かけてくださったので、最終的には小泉さんに「芳根にこの役を任せてよかった」と思ってもらうことが、自分の目標のひとつになっていた気がします。本番でカットがかかった後の小泉さんの笑顔を見た時はホッとしたし、嬉しかったですね。
――和太鼓の先生からはどのようなアドバイスがあったのでしょう。
芳根: 前に鏡を立てて「ほら、こっちの方がかっこよく見えるよ」と教えていただいたり、「今のかっこいいよ」と褒めてくださったり。私がうまくできたことを自分のことのように喜んでくださるのが嬉しくて! 自分がうまくできれば周りの人がすごくニコニコしてくれるのが喜びだったし「もっと頑張ろう」という原動力になっていました。
――さらに今作では、殺陣のシーンにも初挑戦されたとか。
芳根: そうなんです。2023年の下半期は殺陣と和太鼓のことでてんやわんやしている時間が長かったです。本番の日は緊張していたのですが、小泉さんが「芳根京子はこんなもんじゃない。できる!」と言ってくださったので、私も「私ならできる!」と自己暗示をかけて(笑)。そうやって周りの方に鼓舞していただき、支えてもらった半年間でした。
殺陣はワンカットで撮るということだったので、どういう構えにしたらかっこよく、美しく見えるのかが難しかったですね。太鼓も殺陣も得るまでは大変だけど、それが体に染み込めばとても楽しいなと思いました。
コロナ禍を経験したからこそ見えた光
――江戸時代、天然痘から人々を救うために戦った町医者・笠原良策さんの活躍があったことを本作で初めて知りました。医療従事者の方々の奮闘は今の時代にも通ずるものがありますが、作品全体からどんなこと感じられましたか。
芳根: もしこの作品が5年前に公開されていたら、きっと見方が全然違うと思うんです。 良策さんをはじめ、流行り病を治すためにみんなで頑張って治療薬を作っているけど、それが本当にできるのか、未来がどうなるのかわからないという不安は、コロナ禍を経験した私たち全員が同じタイミングで感じたと思うんですよね。そこからまた時が経った今、このタイミングで本作を公開することにすごく運命を感じています。
時代が違うだけでやっぱり地面は続いているなと思いました。この作品で起きていることは、私たちにとってかけ離れたことではないし、どの時代にも病と戦ってくださっている医療従事者の方々がたくさんいるので、決して他人ごとではないなと思っています。過去があったから「今」があるので、今起きていることを乗り越えられたら、また次の未来がある。そういう希望の光をこの作品から感じてもらえたら嬉しいです。
●芳根京子(よしね・きょうこ)さんのプロフィール
1997年、東京都生まれ。2013年にテレビドラマ「ラスト♡シンデレラ」でデビュー。翌年、映画「物置のピアノ」で映画初出演・初主演を飾る。同年、NHKの朝ドラ「花子とアン」に出演。近年の主な出演作に、映画「Arc アーク」、「累-かさね-」、「散り椿」ドラマ「オールドルーキー」、テレビ東京開局60周年特別企画ドラマ「晴れたらいいね」(Prime Video 配信)、などがある。1月14日スタートのドラマ「まどか26歳、研修医やってます!」(TBS系)では主演を務める。
監督:小泉堯史
脚本:齋藤雄仁、小泉堯史
原作:『雪の花』(吉村昭著、新潮文庫刊)
出演:松坂桃李、芳根京子、三浦貴大、宇野祥平、沖原一生、坂東龍汰/吉岡秀隆/役所広司ほか
1月24日(金) より全国公開