妻の“不倫”を暴く親友(恒松祐里)の嫉妬。DNA鑑定が告げる悲しい真実 『わたしの宝物』5話
前に進もうとする冬月だが……
再会し、給水塔の前で抱き合った美羽と冬月だが、冬月に言わせればそれは「ありがとうのハグ」だった。結婚している夏野のことを愛しちゃいけなかった、とハッキリ口にしていた冬月だから、これから先、倫理に反する恋を貫き通そうとするつもりはないのだろう。
美羽の心境も一致している。彼女自身、しっかり冬月に別れを告げ、ケジメをつけるためにこの場に来た。
しかし、当人同士の心持ちと、外側からの認識は異なるのかもしれない。実際のところ、二人が抱き合っているのを目撃した真琴は、現在進行形で美羽と冬月が不倫しており、今後も宏樹に内緒で関係を持続させようとしているのだろうか、と疑念を抱いているようだ。
状況はより複雑になり、錯綜(さくそう)していく。美羽との関係に区切りをつけ、前を向こうとする冬月だが、疑惑に駆られた真琴によって美羽と引き合わせられる。「忘れるって決めたのに、いろんなことがあって」「心の中ってさ、自分の思い通りにならないな」と、同僚の水木莉紗(さとうほなみ)に苦しげな表情を見せる冬月は、やはり美羽のことを忘れられていない。
そんな冬月に好意を寄せる莉紗は「私がいるじゃん」「私、冬月が好き」と、ついに彼に想いを伝える。しかし、そんな莉紗こそが、仕事を通じて冬月と宏樹を繋げてしまった。結婚指輪をしている宏樹の名刺に「神崎」と記されていること、そして、1年ほど前に図書館で開催したフリーマーケットの話題から、冬月はひっそりと、宏樹が美羽の夫であると悟ってしまう。
美羽が、そっと図書館の本に差し入れた冬月との思い出の栞(しおり)。それに隣り合わせるように、冬月も自身の栞を滑り込ませ、本を閉じた。二人しか知らない、二人だけの思い出の場所と栞。冬月との子どもにつけられた名前が「栞」で、名付け親は宏樹だという偶然が、じわじわと美羽を苦しめているようだ。
真琴の“正義”は果たして善?
美羽と冬月が不倫している、と信じ込んだ真琴は、少々執念深くも思える言動を繰り返す。まるで、誰にも何も言い逃れなどさせないよう、前もって外堀を埋めていくかのような緻密(ちみつ)さ。やはり、ずっと宏樹を想っていたからこそ、彼女のなかに溜まっていた嫉妬や悔しさ、やるせなさが“暴走”させてしまったのだろうか。
夫と別れ、シングルマザーとして雑貨店を経営する真琴。彼女の目から見たら、美羽には宏樹という夫がいて、立派なマンションに住んでいて、夫の稼ぎで生活の心配がなく、恵まれているように見える妻なのだろう。「私の元夫なんて、オムツひとつ取り替えてくれませんでした」と口にした真琴。無意識にも、自分と美羽が置かれる状況を比べていたのではないか。
真琴はまず、宏樹を揺さぶりにかける。「いままで夫婦の危機なんてないでしょ?」と問いかけ、宏樹がまったく美羽を疑っておらず、なんなら「今がいちばん幸せかな」なんて言葉まで引き出してしまった。
続けて、真琴は美羽に対し「私、美羽さんのこと信じてますから。ちゃんと話してくれるって」と、宣戦布告ともとれる発言。あまつさえ、仕事の打ち合わせと称して呼び出した冬月にも「私、浮気されて離婚したんで、不倫とか死ぬほど嫌いなんですよ。冬月さんは誠実そうだから、そんなことしませんよね」「もしかして冬月さんって、不倫とかしたことあります?」と畳み掛ける。
視聴者の目線から俯瞰(ふかん)すると、ここまで周到な真琴の真意はどこにあるのか、と思えてならない。元後輩として、年齢差なんて関係ない親友として、美羽のことを慕っていたのではないのか。いや、慕っていたからこそ、倫理に反する美羽の行動に裏切られた気がして暴走を止められないのか。
はたまた、宏樹に想いを告げていたが、それほどまでに彼のことを好きなのか。すでに恵まれている美羽が、いまの状況に飽き足らず、冬月とも関係していることが許せないのか。
どう考えても、状況を悪くする最初のドミノを倒したのは、美羽だ。宏樹に対し「あなたの子よ」と偽って産み育てている“罪”は消えない。同様に冬月も、不倫だと糾弾されても仕方のない立場にいる。
しかし、宏樹に美羽の不倫を暴いただけでなく、栞の父親が宏樹ではないかもしれない可能性まで示唆する真琴の“正義”は、果たして善なのか。人を裁いてジャッジを下す、ある種の快感にとらわれているのではないか。
すれ違うそれぞれの “幸せのかたち”
美羽が立ち戻るべき場所は、気持ちを推しはかるべき相手は、冬月でも宏樹でも、真琴でもない。自分でもない。たった一人、大人たちのしがらみなど関係なく純粋な目をして笑う、娘の栞だろう。
「おやすみ」と言いながら、ベッドで寝ている栞をいとおしそうに見つめる美羽の表情が、すべてを物語っている気がしてならない。美羽のよりどころは、子どもを産んだ瞬間から、栞以外にありえないのだろう。
「娘が元気な顔してるのが一番だから」と言ったのは、美羽の母である夏野かずみ(多岐川裕美)だ。彼女は「美羽、いまが幸せね」「宏樹さんと栞と、幸せになってね」と言葉を重ねていた。美羽にとっての幸せ、宏樹にとっての幸せ、冬月にとって、真琴にとって、莉紗にとって……。それぞれの理想とする“幸せのかたち”は、すれ違う。それでも、大人の都合で簡単に子どもの未来がねじ曲げられるのを、良しとしてはいけない。
栞のハーフバースデーを祝いながら「栞、大きくなったよね」と泣く宏樹。当初は子どもを持つことを避け、美羽の妊娠がわかっても育児をするつもりはない、と告げていた彼だが、そんな片鱗(へんりん)はもうどこにもない。
ひそかにDNA親子鑑定を行い、栞の実父が自分ではないとわかっても、すぐに美羽を責めなかったのは、悲しさが先立っていたからか。それとも、自身が美羽に対し向けてきたモラハラ言動を思い返し、さもありなんと思い至ったからか。悲嘆に暮れた宏樹がとった行動は、栞と二人、海へ向かうことだった。
このままでは、誰も幸せにならない。そんな焦燥感ばかりが募る。ハッピーエンドが想像できないドラマだけれど、誰か一人が幸せになったら、片方で誰かが不幸に陥る、そんなどうしようもない構造になっているけれど、それでも、どうか全員が幸せになる道を。そんな風に願ってしまう。
フジ系木曜22時~
出演:松本若菜、田中圭、深澤辰哉、さとうほなみ、恒松祐里、多岐川裕美、北村一輝ほか
脚本:市川貴幸
主題歌:野田愛実『明日』
プロデュース:三竿玲子
演出:三橋利行(FILM)、楢木野礼、林徹
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