『わたしの宝物』4話

モラハラ夫の変貌で逆転する善悪? 美羽(松本若菜)の“不倫”を目撃した親友は…… 『わたしの宝物』4話

ドラマ『わたしの宝物』(フジ系)は、夫以外の男性との間にできた子どもを、夫の子と偽り、産み育てる「托卵」を題材に描く。神崎美羽(松本若菜)と夫の宏樹(田中圭)は仲の良い夫婦だったが、結婚から5年が過ぎ、美羽は宏樹のモラハラに悩まされている。だが、幼なじみの冬月稜(深澤辰哉)と再会したことで、美羽の人生は大きく動くことになる。4話、冬月と思い出の場所で再会した美羽の表情が揺れる。
帰ってきた子どもの父親。美羽(松本若菜)の心に巣くう夫への罪悪感 『わたしの宝物』3話 【イラストで見る】ドラマ『わたしの宝物』

冬月の生存を知った美羽の葛藤

人間の心はときに複雑に揺れ動き、説明のつかないあいまいな言動に直結してしまう。海外で自爆テロに巻き込まれ、亡くなったと思っていた冬月が生きていたと知り、「彼が生きててくれてうれしい。だけど……」と葛藤する美羽の心情もまた、一言では説明のつかない色に塗りつぶされてしまっているようだ。

冬月が生きていてくれてうれしい気持ちと、再び彼と関係を紡ぎ直していきたいと望むかどうかは、美羽にとって別の話になってしまったからだ。

栞という子どもを産んだことで、美羽の生活は様変わりした。もっとも驚くべきは、夫・宏樹(田中)の態度の軟化だろう。金銭的援助はするが父親としての役割は放棄する、と堂々と言っていた彼。しかし、我が子を抱くや否や号泣し、育児にも積極的になり、美羽の体調をおもんぱかるようにさえなった。

宏樹への罪悪感も手伝い、冬月に会いたい気持ちを自制しようとする美羽。しかし、対比するように冬月は美羽の携帯番号を知り、連絡を繰り返す。「最後にもう一度だけ会って話したい。明日、あの給水塔の下で待ってる」とショートメッセージを送ってきた冬月に想いを馳せるも、「私はもう子どもを持つ母親だ。あなたの声、あなたの顔を、私は見ることができない」と自戒する美羽が、なんとも苦しい。

こうして冬月からの連絡を避けていた美羽だが、不意に彼に再会してしまう。美羽の会社員時代の元後輩で、現在は雑貨店を経営している小森真琴(恒松祐里)とのつながりから、その瞬間は突然訪れた。美羽の脳裏をよぎったのは、真琴に「なくしたはずの大切なものが突然出てきたらどうする? すでに大切なものがあって、もうそれを手にすることができないとしたら?」と相談した時に、彼女から受け取った言葉「新しく大切なものができたんだから、一度なくしたものにもちゃんと意味があるんですよ。だから、感謝を込めてサヨナラしちゃいます」だったかもしれない。

美羽は冬月に連絡し、給水塔の下であらためて対面する。「夏野が幸せならいいんだ」「結婚してる夏野のことを、愛しちゃいけなかったんだ」と自身に言い聞かせるように言う冬月。美羽はきっと、彼と会うのはこれが最後、とけじめをつけるつもりだったはず。しかし、冬月に身体を抱き寄せられ、拒むことができない。

美羽の左手薬指に光る指輪を大写しにするカメラワークが、なんとも意地悪だ。あろうことか、美羽と冬月が抱き合っているのを真琴が目撃してしまうシーンで4話は終わる。

モラハラ夫の変貌から見えるものは

1話の宏樹と比べると、3話から4話にかけての宏樹はまさに別人のようだ。

自宅にある書類を美羽に会社まで持ってこさせたり、妻の服装にまで嫌味を言ったりしていたモラハラ夫が、子どもが生まれるや否や美羽の体調を気遣い、「今日は早く帰ろう」と提案したり、ハーブティーを淹(い)れたり、産後うつについて調べたり、慣れない料理の作り置きをしたり、自らベビーシッターを買って出たりと、その変貌(へんぼう)ぶりがすさまじい。

これまでの物語を俯瞰(ふかん)してみる。1話で徹底的に宏樹のモラハラっぷりを際立たせ、子どもが産まれた途端に優しくなるギャップを見せることで、本来の宏樹は美羽に対する思いやりを持ち合わせていることを表現している。

宏樹はもともとモラハラ気質を持っているのではなく、職場環境のストレスが原因で、精神が不安定になっていた。そのことを示すのに、1話から4話にかけての構成が上手く機能している。そのおかげで、美羽が募らせる罪悪感との対比もより強くなっている。

美羽と宏樹の立ち位置を、「善」と「悪」に当てはめるとしたら、それが見事に入れ替わってしまったとも言える。

美羽は、生まれた子どもが宏樹の実子ではないことを未だ誰にも打ち明けられていない。その真実を宏樹と冬月の双方が知ったとき、一番に悪者になってしまうのは美羽なのではないか。美羽が、かつて大切にしていた“宝物”であろう冬月を前に、いつまでも逡巡(しゅんじゅん)し続けているのも、いずれ糾弾される自身の孤独を予感しているからかもしれない。

トライアングルに影響する二人の女性

冬月との子どもを「あなたの子よ」と宏樹に偽っている美羽。このトライアングル関係に、それぞれ別の方向から影響を与える二人の女性がいる。冬月が経営するフェアトレードの会社の同僚・水木莉紗(さとうほなみ)、そして、美羽や宏樹と面識のある真琴だ。

莉紗は冬月に好意を寄せており、彼が海外でテロに巻き込まれたときもそばにいた。だが莉紗に冬月はまったく思いが至っておらず、再会した幼なじみ・美羽のことしか見えていない。そんな冬月にじれったさを感じつつも、面と向かって、夢の実現に向けて「私ひとりじゃ無理。冬月が必要なんだよ」と伝える芯の強さもある莉紗は、じゅうぶんに視聴者の応援を勝ち取れる存在だろう。

そして、真琴が特別な存在に感じている相手は宏樹のようだ。彼女自身は「推し」と呼称しているが、会社への出勤中に外でつらそうに休んでいる宏樹を心配する目線には、れっきとした恋愛感情が含まれているように思える。

真琴が、給水塔の下で抱き合う美羽と冬月を目撃してしまったことで、次回から物語が様変わりしそうだ。美羽と冬月、当人同士の見解とは別のところで、はたから見れば彼らがやっていることは不倫である。倫理に反する行いだと非難されてもおかしくはないだろう。真琴は宏樹を思いやるがあまり、美羽を攻撃する側にまわるだろう。

莉紗はどう出るだろうか? 冬月の人間性を「人と人とのつながりを大切にする、それが冬月の考え方なんです」と宏樹の前でプレゼンする彼女も、彼の味方になるのが自然だ。

美羽の孤独は、より深く、暗くなっていくだろう。そこに光を当ててくれるのは宏樹か、冬月か? 大人たちの複雑な人間関係なんてどこ吹く風で、きらめいた眼で世界を見やる栞の存在だけが、この物語の唯一の癒やしだ。

帰ってきた子どもの父親。美羽(松本若菜)の心に巣くう夫への罪悪感 『わたしの宝物』3話 【イラストで見る】ドラマ『わたしの宝物』

『わたしの宝物』

フジ系木曜22時~
出演:松本若菜、田中圭、深澤辰哉、さとうほなみ、恒松祐里、多岐川裕美、北村一輝ほか
脚本:市川貴幸
主題歌:野田愛実『明日』
プロデュース:三竿玲子
演出:三橋利行(FILM)、楢木野礼、林徹

ライター。映画、ドラマのレビュー記事を中心に、役者や監督インタビューなども手がける。休日は映画館かお笑いライブ鑑賞に費やす。
イラストレーター。ドラマ、俳優さんのファンアートを中心に描いています。 ふだんは商業イラストレーターとして雑誌、web媒体等の仕事をしています。
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