『いちばんすきな花』8話

4人にとっての「美鳥」はそれぞれ違う。一面的ではない、人柄の“判断軸” 『いちばんすきな花』8話

ドラマ『いちばんすきな花』(フジ系)は、『silent』脚本の生方美久とプロデューサーの村瀬健がふたたびタッグを組む作品。多部未華子、松下洸平、今田美桜、神尾楓珠が主演を務めるクアトロスタイルで描かれる。テーマは「男女の間に友情は成立するのか?」。第8話では、ついに登場した志木美鳥(田中麗奈)がゆくえ(多部)、椿(松下)、夜々(今田)と再会する。
美鳥の存在が意味するものは? 人間関係は“ままならなさ”に満ちている 『いちばんすきな花』7話 「ぜんぶに意味があったと思える」。美鳥の生き方を肯定する4人の出会い 『いちばんすきな花』9話

将棋が交流のきっかけに

ゆくえ・椿・夜々・紅葉(神尾)が口にしていた「美鳥」(田中)は、同一人物だった。

おそらく、親から一方的な暴力を振るわれていた美鳥は、しょっちゅう怪我(けが)をしたまま中学校に来ていた。椿とはクラスメートで、たまたま彼の家が営む花屋を美鳥が訪れ、話すようになった。2人は将棋をきっかけに交流を深める。

ときには腕に包帯を巻き、ときには眼帯をつけてあらわれる美鳥に、椿は深い事情をきこうとはしなかった。ケンカして怪我をしているのだ、とうわさを立てられていた美鳥に対し「見た人はたぶんいないし、志木さんから直接聞いた人もたぶんいないし、ただのうわさ話だと思ってたから」と淡々と告げる椿は、美鳥にとって宿り木のような、ホッと安らげる場所だったことだろう。

そんな美鳥は、夜々と従姉妹同士だった。夜々が言っていた「将棋を教えてくれた従姉妹のおねえちゃん」は、美鳥のことだったのだ。

高校生だった美鳥が、夏休みの間、夜々の家に世話になっていた時、夜々と2人だけでコソコソと将棋をするかわいらしい影が浮かぶよう。夜々がお人形のように、母をはじめ周りの人間が押し付けてくる「常識」に迎合せずに済んだのは、美鳥と過ごした日々のおかげだったのかもしれない。

美鳥にとっての「給水ポイント」

対面する人間が変わることで、その人への印象も変わることがある。ゆくえ、椿、夜々、紅葉にとっての「美鳥」は、それぞれ違う。この人はこういう人だ、とたった1つの言葉で一面的に語れる人なんて、いない。

ゆくえのセリフに「自分が知ってる頃の美鳥ちゃんだけで、こういう人って決めつけてた」とある。椿の知る美鳥にはトゲトゲしさがある反面、夜々の知る美鳥はやわらかな雰囲気で、優しいお姉さんだった。

ゆくえや紅葉にも、それぞれが知る「美鳥」がいる。どの美鳥も、こういう人だ、と思っていたい美鳥だ。しかし、それぞれが接していた時期で切り取ると、美鳥の人柄はまるで他人かと見まがうほどに違いがある。どれも美鳥だけれど、もしかしたら、どれも美鳥じゃない可能性だって残っている。

美鳥は、1羽の鳥が休む場所を探すように転々と、居心地の良い場所を探していたのかもしれない。マラソンを人生に例えるなら、美鳥にとっての給水ポイントに立っていたのが、きっと椿・夜々・紅葉・ゆくえの4人だったのだ。

多数派にならなかった朔也

人を一面的に解釈すること、勝手な臆測で判断することの怖さは、大人に限ったことではない。

ゆくえが講師として勤めている「おのでら塾」に通う望月希子(白鳥玉季)は、どうやら学校のクラスでは浮いている存在のよう。保健室に登校し、給食もそこで食べている。最近、クラスメートの穂積朔也(黒川想矢)も、おのでら塾に通うようになった。

最近引っ越してきた朔也は、希子がクラスでどのような扱いを受けているかを、ゆくえに話す。「はっきりさせないようにしてる。はっきり、言い切れないように」と彼は言う。他のクラスメートは、これはイジメだ、と確定させないギリギリのところを狙って、陰口をたたいたり、嫌がらせをしたりしているようだ。

同じ塾に通うよしみもあってか、朔也も希子と一緒に、保健室で給食を食べている。彼の側から距離を縮めようとしているようだが、希子はこれ以上、意識的に「仲良くならないように」している。おそらく朔也にも、余計な「被害」が及ばないように配慮した結果だろう。不器用だけど優しい、希子らしい振るまいだ。

他のクラスメートとは違って、希子のことを「浮いている子」として扱わない朔也に対し、ゆくえは言う。「みんながあの子のこと嫌いだからって理由で、みんなにならなかったのは、すごいよ」と。

声の大小、または多数派か少数派かという判断軸だけで、簡単に答えを決めつける人も存在するだろう。あの人が、こう言っているから。こう言っている人のほうが、多いから。

朔也は、他のクラスメートが希子のことを嫌っているからといって、安易に決めつけることをしなかった。簡単でラクな道を選ばなかった。多少、クラスのなかで距離を置かれたとしても、保健室では、目の前にいる希子を見た。それは、中学生のころの椿が、自分と接する美鳥を見ていたのと同じ視線だ。

多数派にあらがうことは、ときには怖い。大人しく長いものに巻かれたほうが、効率的でもある。それでも、椿や朔也は険しい道を選んだ。勝手なものさしに嵌(は)められて、都合の良い解釈をされるつらさを、彼らは知っている。それがどれだけ、人を人じゃなくさせるかを、彼らは身をもって知っているからかもしれない。

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『いちばんすきな花』

フジ系木曜22時~
出演:多部未華子、松下洸平、今田美桜、神尾楓珠、齋藤飛鳥、白鳥玉季、黒川想矢、田辺桃子、泉澤祐希、臼田あさ美、仲野太賀ほか
脚本:生方美久
音楽:得田真裕
主題歌:藤井風 『花』
プロデュース:村瀬健
演出:髙野舞

ライター。映画、ドラマのレビュー記事を中心に、役者や監督インタビューなども手がける。休日は映画館かお笑いライブ鑑賞に費やす。
イラストレーター。ドラマ、俳優さんのファンアートを中心に描いています。 ふだんは商業イラストレーターとして雑誌、web媒体等の仕事をしています。
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