『いちばんすきな花』1話

「男女の友情」より恋愛が上? 異性の友人と二人で会ってはいけない問題 『いちばんすきな花』1話

ドラマ『いちばんすきな花』(フジ系)は、『silent』脚本の生方美久とプロデューサーの村瀬健がふたたびタッグを組む作品。多部未華子、松下洸平、今田美桜、神尾楓珠が主演を務めるクアトロスタイルで描かれる。テーマは「男女の間に友情は成立するのか?」。第1話では、主人公の4人が春木椿(松下)の自宅に集い、友情や恋愛における違和感を少しだけ共有する様子がみられた。
恋愛でも友情でもない“4人”の関係。恵まれた人間の理解されない孤独 『いちばんすきな花』2話

パートナーが異性の友人と会うのは許せない?

第1話の冒頭は潮ゆくえ(多部)の回想から始まった。小学校の教室で、先生はクラスの子どもたちにこう呼びかける。「二人組をつくってください」。おそらく多くの人が、先生からこのような指示を受けた経験があるだろう。そのたびに、心臓がイヤな動き方をして、じわじわと手汗が滲んでくる。どうか、この時間が早く終わりますように、と願った人もいるのではないか――。

『いちばんすきな花』の主人公は4人。全員「二人組が苦手」な男女だ。

ゆくえと赤田鼓太郎(仲野太賀)は高校時代からの友人同士で、よく二人きりでカラオケに行く仲である。しかし、ゆくえは赤田から、結婚するのを機にもう二人では会えない、と告げられてしまう。赤田の妻となる人が、異性の友人と二人、密室で会うのを嫌がったからだ。

ゆくえは「しょうもな」と繰り返す。彼女にとって赤田は、性別を超えた友人だ。それでも、赤田の妻にとっては違う。限りなく“友達じゃない関係になる可能性”が高い相手で、できるだけ夫から遠ざけておきたい相手なのだ。

赤田は「しょうもないけど、好きだから。価値観が違うのは、どっちかが寄り添うしかない」と言い、妻の立場を尊重する。夫としては理想的な態度なのだろう。

しかし、ゆくえ側からみると、明らかに恋愛よりも友情が軽んじられている。友人よりも、夫婦や恋人関係を重視すべきとする価値観を、当たり前のものとして押し付けられている。

男女の間に友情は成立するのか。このドラマのテーマに向けて、早くも大きな議題が挙げられた。異性の友人にパートナーができたら、二度と二人きりでは会えなくなるのだろうか?

男女の友情は恋愛よりも“格下”?

ゆくえ以外の主人公も、それぞれ友情や恋愛における人間関係に、少しずつ違和感を覚えている。

美容院に勤める深雪夜々(今田)は、散髪にやってきた椿に対し、名前を名字と勘違いして接客していた。先輩に男性への「媚び」と捉えられた彼女は、軽く叱られてしまう。それは明らかに、業務の範囲を超えた「いびり」だった。

その件を、同僚である相良大貴(泉澤祐希)は気にかけていた。「勘違いされるのも、決めつけられるのも慣れた」という夜々に、「傷つけられるのに慣れても、傷つかなくなることってないでしょ」と返す。そして、「悩みや不満を話しても、嫌みや自慢に変換されちゃう。女の子には、特にね」と漏らす夜々に、大貴は「じゃあ聞くよ。俺、女の子じゃないし」と手を差し伸べた。

夜々は子どものころから、意に沿わない扱いを受けてきた。一番仲良しだと思っていた女の子に「ペアを組もう」と声をかければ「もう引き立て役はやりたくない」と断られる。自分のことを好きだと分かっている男の子と組むと、女子たちにコソコソ言われる。何を言っているかは聞こえないけれど、なんと言っているかは分かる陰口を。

そんな夜々にとって、異性の友人と分け隔てなく、日頃の鬱憤(うっぷん)を晴らせる機会は貴重だ。さっそく大貴と二人で会った夜々だが、帰りに“事件”が起こる。大貴自身は、夜々と恋愛関係になることを前提に会っていたのだ。

電車で帰ろうとする夜々を引き止め、まるでそれが当たり前の流れであるかのように、自宅に連れていこうとする大貴。拒む夜々に「じゃあなんで二人で会ってくれたの?」と問う大貴の表情からは、本気でそれを怪訝(けげん)に思っているのが伝わる。

前述したゆくえと赤田のように、ここでも「友情<恋愛」の構図が成り立ってしまっている。この世にはいつの間にか、友情よりも恋愛のほうがランクが上で、重視すべきで、格上だという見方が当然のように浸透しているかのようだ。

椿の自宅に4人が集まった理由

椿は驚く形で、パートナー・小岩井純恋(臼田あさみ)から婚約破棄を突きつけられる。ずっと友人同士だと聞かされていた男性と「友達じゃなくなっちゃった」という理由らしい。二人の結婚まではまさに秒読み段階にあった。しかし椿は夫婦で過ごすはずだった新居に、一人取り残されてしまう。

その衝撃が冷めやらぬうち、たまたま、ゆくえが椿の自宅を訪ねる。椿の実家が営んでいる花屋に偶然ゆくえが来店し、椿の母・春木鈴子(美保純)から息子に花束を届けてほしいと頼まれたのだ。タイミングを同じくして、忘れ物を届けにきた夜々、そして、ゆくえの幼馴染である佐藤紅葉(神尾楓珠)も前の住人を探してやってくる。こうして、4人が集った。

彼らが集まる場所が、椿の自宅だった理由は何か。腰を落ち着けて話をする「自宅」のモチーフとしては、脚本家・坂元裕二によるドラマの系譜を感じる。『初恋の悪魔』(2022)では、事件の推理をするのにたびたび鹿浜鈴之介(林遣都)の自宅が使われた。『大豆田とわ子と三人の元夫』(2021)でも、三人の元夫が集まるのは、とわ子(松たか子)の自宅だった。

友情や恋愛、それらにまつわる人間関係について違和感があることを、ゆくえたちは共有する必要があったのだ。椿の自宅で、おのおのが抱える“荷物”の中身を少しだけ見せ合ったということは、今後も彼女らが集まるのはここだろう。椿が「初対面は得意」「もう会わないって分かっているからしゃべれるんです」と話していたのも、ある種の前振りに思える。

男友達の結婚で友情を失ったゆくえ。恋人の男友達に対する友情が愛情になり一人になった椿。男性への友情をむりやり愛情に変換される夜々。そして紅葉は、友情や愛情を問わず、深い人間関係から距離が遠く、やはり二人組に縁がないようだ。彼らがそれぞれの悩みを分け合い、おのおのの答えを見つけるとき、果たしてそれは「男女の間の友情」に光を当ててくれるのだろうか。

恋愛でも友情でもない“4人”の関係。恵まれた人間の理解されない孤独 『いちばんすきな花』2話

『いちばんすきな花』

フジ系木曜22時~
出演:多部未華子、松下洸平、今田美桜、神尾楓珠、齋藤飛鳥、白鳥玉季、黒川想矢、田辺桃子、泉澤祐希、臼田あさ美、仲野太賀ほか
脚本:生方美久
音楽:得田真裕
主題歌:藤井風 『花』
プロデュース:村瀬健
演出:髙野舞

ライター。映画、ドラマのレビュー記事を中心に、役者や監督インタビューなども手がける。休日は映画館かお笑いライブ鑑賞に費やす。
イラストレーター。ドラマ、俳優さんのファンアートを中心に描いています。 ふだんは商業イラストレーターとして雑誌、web媒体等の仕事をしています。
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