鈴木亮平さん、映画「エゴイスト」でゲイ役 「偏見を助長させてしまうかも」と迷ったオファー
きちんとした座組みでなければ…
――映画『エゴイスト』のオファーを受けたときのお気持ちをお聞かせください。
鈴木亮平さん(以下、鈴木): 2019年の東京国際映画祭で、松永大司監督からお声がけいただいたのが最初でした。そこからエッセイストの高山真さんの原作小説を読んで、テーマがすごく素晴らしいな、と。自伝的小説ですが、高山さんがご自身をすごく客観的に見られていた。その文章の書き方みたいなところにすごく惹かれましたね。
――すぐに引き受けようと決めた?
鈴木: いえ。自分がこの浩輔という役を演じることが果たして適正なんだろうか、と悩みました。彼のゲイというセクシュアリティに関して、自分が演じると、想像で補うことになる。そうすると、ステレオタイプなものになったり、あるいは逆に異性愛に寄せすぎて考えて、社会の偏見を助長させてしまう危険性もあると思ったんです。「よほどきちんとした座組みでなければ演じられない」と慎重になりました。
それを製作側にお伝えしたところ、監修にLGBTQ+inclusive directorとしてミヤタ廉さんが入ってくださり、台本から役の感情や口調、仕種までチェックしていただいた。浩輔の友人役にも当事者の方を揃えてくださり、アドバイスをしてくださるということで、「自分にもやれるかもしれない」と思って、お引き受けすることにしました。
セクシュアリティ自体がグラデーション
――役作りはどのようにされたのでしょうか。
鈴木: お亡くなりになった高山さんとは、僕は生前お会いしたことがなく、お写真もあまり残っていなかった。その中でも、自分の中の高山さんのイメージと自分自身とをミックスさせながら作り上げていきました。ミヤタさんをはじめ、当事者の方にも逐一確認しながら、今の時代に日本という国でこのような作品を作るときに、どういう人物像で伝えれば適切なのかを考えながら演じました。
――外見より内面から作り上げていかれた?
鈴木: そうですね。どの役を演じるときも、まず内面があってそれが外に出てくる。ゲイの方といっても千差万別です。もちろん共通する部分もあるけれども、ほとんどが違う。そもそもセクシュアリティ自体がグラデーションであり、人によって違いますからね。
求め合う、という意味では違いはないが…
――恋人のパーソナルトレーナー・龍太を演じる宮沢氷魚さんとの濃厚なラブシーンがありました。
鈴木: 愛し合う、求め合う、という意味では男女のラブシーンと大きな違いはないと考えました。ただ、リアリティという面では、男女のセックスと男同士のセックスでは確実に違うものはある。そのリアリティをインティマシー・コレオグラファーの方やミヤタさんに細かくチェックしていただき、具体的な動きや流れを決めました。例えば、最初に2人がセックスするシーンでは、そのままベッドに行くのではなく、どちらがどちらのポジションなのかを確認する一瞬の間がある。浩輔の方が龍太よりも年上だし、体も大きいから、浩輔がリードするかと思いきや、実際には龍太がリードする。そこで、浩輔は一瞬、驚いたほうがいいかもしれない……などなど。事前に細かく決めて演じられたのはありがたかったですね。
演じた浩輔の繊細さに惹かれた
――恋人間や家族間における「愛」と「エゴ」がテーマの作品です。演じるにあたって考えたことは?
鈴木: 愛とエゴの境目については、考えました。僕はエゴの中に愛が含まれていると思っているタイプなんですが。原作の浩輔は、自分がこの人を愛しているのは、こういうエゴイスティックな理由からだ、というように常に分析しているんです。普通はそこまで自分の感情を分析しないと思いますが、そんな彼の繊細さに僕は惹かれました。
ただ、愛とエゴの境目についての正解はなくて、人それぞれの受け取り方があっていい。この作品を見て、考える人もいるだろうし、何も考えない人がいてもいいと思っています。映画を観てくださった方には、それぞれなりの受け取り方をしていただきたいです。
●鈴木亮平(すずき・りょうへい)さんのプロフィール
1983年、兵庫県西宮市生まれ。2006年俳優デビュー。映画やドラマで活躍し、18年のNHK大河ドラマ「西郷どん」では主人公の西郷隆盛を演じた。4月28日に映画「TOKYO MER~走る緊急救命室~」が公開予定。
出演:鈴木亮平、宮沢氷魚、中村優子、和田庵、ドリアン・ロロブリジーダ/柄本明、阿川佐和子
監督・脚本:松永大司
脚本:狗飼恭子
原作:高山真『エゴイスト』(小学館刊)
LGBTQ+inclusive director:ミヤタ廉
© 2023 高山真・小学館/「エゴイスト」製作委員会