【ふかわりょう】the sweetest day of May
●ふかわりょうの連載エッセイ「プリズム」30
「これ欲しい人!!」
少年は、教室の後ろのロッカーによじ登り、みんなに向かって声を張ります。
「なにそれ?採ってきたの?」
「そうだよ、昨日採ってきた!ほんとはもっとあったんだけどね!」
まるで狩猟民族のリーダーが村人たちに分け前を与えるよう。彼を取り囲む男子たち。冷めた目で見る女子たち。
「ほら、早く降りなさい!」
チャイムが鳴り、先生が入ってきます。
「先生にもひとつあげるよ!」
土のついたタケノコたちも授業を聞いていました。
今年は召し上がりましたでしょうか。スーパーや食卓に現れ、新聞紙に包まれて段ボールで送られてきたり。もはや避けて通ることはできません。子供の頃はあまり好きではなかったけれど、大人になるにつれ、欠かせない存在になりました。
「ここにもある!」
近所の裏山。秘密基地に向かう途中の竹やぶで、地面からたくさんのタケノコが顔を出しています。いたるところで発見すると、スコップとビニール袋を手に、タケノコ堀が始まりました。上手く周りからえぐらないと、本体に傷をつけてしまいます。下の方までスコップを入れて、柄の部分を足でグイッっと。タケノコが根っこからごりごりっと離れる感触がとても気持ちいい。
「すごい採れたね」
すっかり泥まみれになって収穫したタケノコたちを満足げに眺めるひと時。
「じゃぁ、俺はこの一番大きいやつ!」
下の方が硬くなってしまうので、むしろ小ぶりの方が柔らかくて美味しいことに気づいていません。
「そうやって食べるの?」
家に持って帰ると、兄が妙な動きを始めました。剥いだタケノコの皮を水洗いすると、その内側に大きな梅干しを入れ、クレープの様に折りたたみます。
そして、亀裂の入った部分にしゃぶりつき、ちゅうちゅうと吸っています。
「それ、美味しいの?」
筍の香りに包まれた梅肉。とても上品とは言えませんが、小学生の頃よくやったものです。最後は開いて、潰れてとろとろになった梅干しをいただく。誰が考案したのか、どの地域でもあるわけではなさそうです。皮の棘を上手く取り除かないと、口の周りがヒリヒリと痛くなって。戦時中のおやつにも見えるし、むしろ粋な食べ方とも言えるこの食べ方。経験ありますでしょうか。
「さぁ、煮えたかな」
竹やぶで収穫したばかりのタケノコたちは、母の魔法で、甘みのある美味しい筍になりました。筍ご飯に天ぷら、煮物。お刺身もいいでしょう。大きな鍋で、たっぷり茹でて。季節を味わう悦び。久しぶりに、梅干しを包んでみたくなりました。
タイトル写真:坂脇卓也