私たちの人生はいつも誰かに「編集」されている。だとしたら……
●本という贅沢45『一切なりゆき 樹木希林のことば』(樹木希林/文春新書)
昔から、気に入ったものに関しては、短期間ですぽっと沼にハマる性癖がある。
たとえば、息子にせがまれて「名探偵コナン ゼロの執行人」を観にいった時のこと。これがヤバイ面白かったとなると、その週のうちにコミック94巻買って読み、過去の映画を全部観て、黒の組織についてのまとめサイトを何時間も読み漁り、もう一度映画を観にいって、やっと落ち着くまでが、私の映画鑑賞です。
で、今回の樹木希林さんの本なんだけど、やはりすぽっと沼にハマりました。
この本、既に読まれた方はご存知だと思うのですが、生前のインタビュー記事からの引用で成立してるんですよ。
女優として、人として、女として、妻として、母として……。樹木希林さんならではのスパッと切れるような語り口で、次々と人生を斬ってくれる言葉の数々。
と、なると、やっぱり、元記事も気になるじゃないですか。前後にどんな文脈があるのか、知りたいと思うじゃないですか。この潔さは、何歳くらいに生まれて、どう変容して、死を穏やかに受け止める人生を歩んだのかと気になるじゃないですか。
なので、国会図書館で、読んできました。元の雑誌の記事を年代順に。
で、ここで私、世紀の大発見をしたんです!!!
それは
「そうか、人の人生って、誰かに編集された結果、他人に伝わっていくものなんだ!!!!」ってこと。
まず気づいたのは、元記事を読むと、書籍で引用された言葉の前後にも、樹木希林さんの言葉はあるということ。
だから、この本には、「その中でも、このメッセージを届けたい」という誰か(この場合は多分編集者さん)の意志が働いている。
これ、当たり前といえば当たり前すぎるのだけど、元記事を読んでいると、その意志の存在を強く感じたんですよね。
そして、さらに気づくわけです。
そもそも、この本の元ネタとなっている雑誌の記事自体も、インタビューのほんの一部。テープ起こしした膨大な言葉の中から、誰かの意志で選ばれた「伝えたい言葉」が並んでいるんだよなあと。ここでも、やはり、樹木希林さんの言葉は、誰かの視点で「編集」されている。
で、そこまで考えると、さらにさらに気づくことがあります。
これが私にとっては発見だったのだけれど。
あっ、これ、樹木希林さんだけじゃないっ!!ってことです。
樹木希林さんのような、名言が本にされるような有名人だけじゃない。
私たちの人生だって、すべて、他人の「編集」によって誰かに伝えられていくものなんだなって。
「Aちゃんが、こんなこと言っていたよ」と私が言う時、私はAちゃんを編集している。
「さとゆみって、こんな人だよね」とAちゃんが言う時、私はAちゃんに編集されている。
世の中には、そうやって編集された言葉が、たくさん散らばっている。
私たちはその点を結んで、さらに誰かの人生を編集して解釈していく。
だとしたら、自分がどう編集(解釈)されるかに一喜一憂する人生よりも、それを「おお、そう編集されましたか。そういう見方もオツですね」とおおらかに感じとることができる方が、ひょっとしたら楽しいかもしれない。
そして私が、編集された誰かの人生に触れた時も、それだけがすべてだと思い込まないで「この時どんな相手にどんな気持ちで話したのかな」って想いを馳せる時間があると、ひょっとしたら豊かかもしれない。
そんなことが、頭にぱーっと広がりました。
それから、もう一度、この本を読みました。
人に求めすぎない。
人に依存しない。
自分で立つ。
でも、
こだわりすぎない。
人にゆだねる。
あとは、一切なりゆき。
本を読んで受け取ったメッセージと、
本を読んで樹木希林さんの人生を知りたいと思って私が気づいたことは、
一周まわって、結局、同じでした。
人がどう編集しても、動じない、自分の人生を生きよう。
- この本を読んで、なぜ樹木希林さんが、この境地に至ったのか、その人生に興味を持たれた方は、3月8日に発売になったばかりの『心底惚れた-樹木希林の異性懇談』(中央公論新社)をどうぞ。
当時33歳だった彼女が、若手スターから大御所にまで、ズバズバ切り込んだ連載対談です。テープ起こしをそのまま取ってだしという印象で、放送事故じゃないかというくらいの赤裸々感。 今の時代でいうと、たとえばゲスの極みの川谷絵音さんに女の魅力やセックスについて聞いたり、ハリウッドでも活躍する渡辺謙さんに、ずばり「今は、どれくらい遊んでいるんですか」と聞いてログミーしたりするくらいの、センセーショナルな対談です。
人は、「何を答えるか」よりも、「何を問うか」に、その人の本質が現れる気がします。 「夫(内田裕也)よりも、私のほうがよっぽど問題を起こしている」と言ってらしたのも、なるほどな、と頷ける内容です。
それではまた来週水曜日に。