感染症のプロに聞いてみた「隠れインフルの正体は?紅茶が効くって本当?」

インフルエンザについて、高熱が出ない「隠れインフル」の流行や、感染者が紅茶を飲むと菌が死滅する、など諸説が流れています。果たして、これらは正しいの?まだまだ猛威を振るうインフルに、私たちはどう対処すればいいの?感染症のエキスパート、神戸大学医学部感染症内科の岩田健太郎先生にお話をうかがいました。

「隠れインフル」って何?

――「隠れインフル」という言葉をよく聞きますが、何なのでしょうか。

岩田健太郎先生(以下、岩田): 「隠れインフル』などという概念はありません。インフルエンザウイルスに感染して、あとは発症しない人と、発症しても軽症の人、そうでない人といろいろな人がいるというだけの話です。軽めの症状でインフルエンザに診断される人はいますが、「隠れインフル」と呼ぶ必要もないし、特別扱いする根拠もありません。

――症状がない、もしくは軽症であれば、病院に行かないのでは?

岩田: 軽めの症状でも病院に行く人はいます。インフルエンザには、迅速検査といって鼻の奥に長い綿棒を入れて粘膜を採って検査する方法があるのですが、病院によっては、激しい咳や高熱が出ていなくても検査することがあるんです。しかも、この迅速検査をしても、(インフル感染があったとしても)5割~6割の確率でしか分からないんです。

――軽症の人と重症の人では、治療法は変わるのでしょうか。

岩田: 症状が軽ければ、治療薬の効果は相対的に下がり、副作用リスクは相対的に上がります。重症ならば逆になります。一般に、インフル薬を飲んでも、薬を飲まない人に比べて症状が出る期間が1日ほど短くなるだけなんです。やみくもに薬を飲むのではなく、効果と副作用について考えたほうがいい。症状が軽いのに、わざわざ副作用のりスクを取る必要はないでしょう。家で寝ていたらいいんです。

症状が軽ければ、外出してもいいのか

――インフルエンザでも症状がひどくなければ、通勤や通学をしてもいいのでしょうか。

岩田: それほど症状がひどくなければ通勤や通学をしても構いませんが、周りに配慮してマスクや手洗いは必要です。中等度以上の症状がある場合は、家でゆっくり休んだほうがいいでしょう。もちろん、感染のリスクをゼロにしたいなら、通勤も通学もしてはいけません。

――外出する場合、マスクはしたほうがいいのでしょうか。

岩田: たとえ軽症でも、咳やくしゃみをすると飛沫(しぶき)が飛んで感染することがあります。インフルエンザウイルスに感染している人は、マスクをしましょう。ただ、健康な人が予防のためにマスクをしても、効果は期待できません。

かかりやすい人とかかりにくい人がいる?

――感染しやすい人としにくい人がいるのでしょうか。

岩田: 非常に太っている人の場合、感染しやすいというデータはありますが、理由は分かっていません。かかりにくい人がいるわけではありませんが、持病がある人や免疫抑制剤を使用している人、幼児や高齢者、妊婦、ぜんそくなどの呼吸器疾患を持っている人は、重症化しやすいのです。

――ワクチンの予防効果はあるのでしょうか。

岩田: ワクチンには、その年に流行すると予測された4つの型が入っています。その予測が外れることはあまりありません。10月から12月にかけて接種するのが望ましいです。流行してから慌てて打っても、火が燃え広がってから消火器を持って、火消しに行くようなものです。

諸説は本当なのか

――紅茶を飲むとウイルスが死ぬという説があるのですが。

岩田: それは根も葉もないデタラメです。紅茶でインフルエンザが治るなら、医者はみんな使っています。

――予防にはマイタケがいいという説はいかがでしょうか。

岩田: 紅茶もマイタケも、そうした民間の俗説は、あまり信用しないほうがいい。まともな情報はあまり面白くないので誰も飛びつきませんが、そうした物語は魅力的に思えるんです。簡単に金持ちになれる方法とか、信用しないほうがいい。

――正しい情報をみつける方法はありますか。

岩田: 雑誌やテレビ、ネットの情報に影響されないこと。情報は自分で管理するという意識も持つことが大事です。ガセネタに飛びついてだまされても、それは自己責任です。情報の取捨選択は自分でやものであって、簡単に手に入ると思わないほうがいいんです。相対的に英語の情報は、信用度の高いものが多い。「PubMed(パブメド)」で検索したり、CDC(アメリカ疾病予防管理センター)のホームページを見たりするといいでしょう。

※PubMed:医学、ライフサイエンスに関する文献のデータベース

●岩田健太郎(いわた・けんたろう)先生 プロフィール
島根県生まれ。1997年島根医科大学卒業。2004~09年亀田総合病院(千葉県)。08年から神戸大学大学院医学系研究科・医学部微生物感染症学講座感染治療学分野教授、神戸大学都市安全研究センター感染症リスクコミュニケーション分野教授。米国内科専門医など。著書に『もやしもんと感染症屋の気になる菌辞典』(朝日新聞出版)ほか

「難しいことを分かりやすく」伝えるをモットーに医療から気軽に行けるグルメ、美容、ライフスタイルまで幅広く執筆。医学ジャーナリスト協会会員