39歳は「恋愛市場」で相手にされない? 離婚を切り出された六月(木南晴夏)が選ぶ道 『9ボーダー』3話
39歳に“次”の出会いはない?
夫・邦夫(山中)から離婚を切り出されるも、籍は入れたまま別居状態を維持することで、のらりくらりと避けていた六月(木南)。そろそろ復縁に向けて動き出さなければ……と腰を上げかけたタイミングで、邦夫の浮気相手・柚木萌香(さとうほなみ)が、三姉妹の守る「おおば湯」に直談判しに来た。
六月に対して「別れてください」と直球勝負な萌香。コウタロウ(松下洸平)が「離婚って確か、すっごい大変だって聞きました」「すっごいお金取られたって」などと、働くバルの客からの話を伝え、いったんは帰っていった萌香だが、戦況は六月の劣勢。
大庭家のしっかり者・次女の七苗(川口春奈)が「そんな紙切れ一枚くれてやんなよ。そのほうが、むっちゃんも次の出会いがあるんじゃない。まだ39だし」と、切り替えて前を向くよう促すも、六月は「もう39。次の出会いなんてないよ」とかたくなな姿勢を崩さない。
六月の言うように「39歳は、恋愛市場に放り出されたらほぼ次はない」のだろうか。
4月期のドラマ『ミス・ターゲット』(ABCテレビ、テレ朝系)では、松本まりか演じる結婚詐欺師・朝倉すみれが婚活をする。物語では、マッチングアプリを使う場合にぶつかりがちといわれる“35歳の壁”について触れるシーンがある。
実際のところ、20代と30代では、マッチングアプリで“いいね”をもらう回数や頻度が圧倒的に変わってくるように思う。登録した瞬間に、黙っていても次々と“いいね”が飛んでくる20代とは違い、30歳を超え、40代に近づくごとに減っていく“いいね”の数。もはや、相手からのアプローチを待っていたら、永遠にマッチングできないのでは――。明らかなる35歳の壁だ。
大庭家の三女・八海(畑芽育)は、さりげなく「もうそういう時代じゃない」と六月に伝えようとしていたが、果たして本当だろうか?
お金か、容姿か、強運か。同世代、はたまた自分より若い世代よりも突出した何かを持っていることで、やっと“次”の相手と出会える。それも、「10人のうち1人ぐらい」いれば良いほう。この感覚は、この空虚は、時代の移り変わりで拭えるものではないと、六月は腹の底で知ってしまっているように思える。
29歳が“荷物”を下ろすとき
六月が激動の最中、七苗の状況にも大きな変化が。とりわけ、仕事で抱えていた大きな“荷物”を下ろすときが、やっときたのだ。
2話において、子持ちの同僚・八木千尋(奥村佳恵)に対するモヤモヤを吐露していた七苗。どれだけ頑張っても報われない、ましてや自分は独身だから「やって当たり前感」があることを、ギリギリまで上手く吐き出せずにいた。それは、決して誰も悪くないがゆえに。
後輩・西尾双葉(箭内夢菜)の言動に対するモヤモヤも、七苗は人知れず積もらせていた。「イマドキ」「Z世代」といったワードがぴったり似合う双葉。かねてより、経費精算や休日出勤の手続きといったことで、七苗に苦言を呈されて不満を漏らすシーンがあった。
そんな彼女が今回、七苗が苦戦していた仕事をあっさり解決してしまう。
双葉のミスによって、七苗の会社は、有名パティシエからメニューの監修を断られてしまった。七苗は、監修を頼めるのはそのパティシエしかいないと、謝罪のため福岡に足を運ぶなど労力を使う。
しかし、七苗の努力は実を結ばない。まさに万事休す、といったところで、双葉があっさりと、SNSのフォロワー数が多く知名度の高い、料理研究家の監修を取り付けてきた。事務所経由ではなく、SNSのダイレクトメッセージ機能から直接、本人に連絡をとったという。
双葉のように大胆なことができるのは若さゆえのことだと、安易に片付けたくはない。それでも、千尋が七苗に「私たちなんてもう29になっちゃったしさ」とひっそり言うように、もう若いころとは違う……と嘆きたくなる気持ちもわかる。
29歳、世間から見ればまだまだ若いかもしれないが、ある程度の社会経験が想定以上の重りとなって両手・両足に絡みついているのではないか。自分自身も、まだまだ仕事で経験を積み、成長したい。それと同時並行で後輩も育てながら、上司の顔色も観察しなきゃならない。
ましてやプライベートでは趣味や恋愛も楽しまなきゃならないなんて、どれだけ器用でいなくちゃならないんだろう。七苗のように、ある日いきなり爆発し、会社を辞めると宣言してしまっても不思議じゃない。
19歳の激励で動き出す、姉たちの人生
紙切れ一枚で繋がっている邦夫との縁を切りたくない、諦めたくないと意固地になっている六月。自身が経営する会計事務所の新入り・松嶋朔(井之脇海)とバッティングセンターに行き、彼からのアドバイスでボールを打てたことを、無邪気に喜ぶ。
このとき、朔が六月に教えた、とある登山家の言葉「征服すべきは山の頂上ではなく、自分自身だ」は、きっとさまざまな立場で足止めを食らい、動けずにいる人の“荷物”を軽くするのだろう。
六月は、七苗・八海と一緒に、邦夫が勤める写真スタジオに直接出向く勇気を得た。子ども相手に、見たことのない楽しげな表情で働く彼の姿を見て「本当の彼を知らなかったのは、私のほうだ」と、必死に両手で握りしめていた糸を手放すかのように、ポツリと口にした六月。きっと彼女も、重たい“荷物”を下ろしたのだ。
そして、離婚を決意した六月。時を同じくして、七苗もコウタロウと一時、音信不通になっていた。必死に自分で自分を鼓舞する二人に、八海は「(実家に)戻ってくればいいじゃん」「この家でぎゃあぎゃあやりながら、『まだよ』って思えばいい。まだ39、まだ29、まだ19」と激励する。
19歳だって、29歳だって、39歳だって、まだまだこれからだ。身内や友人にそう励まされても、心の底から納得して自分の人生を歩めるようになるには、時間がかかるかもしれない。いったんは元気になれても、また何度だって落ち込むのだろう。
それでもいい。不要な“荷物”とは適度におさらばしながら、いつか人生のホームランをかっ飛ばすために。彼女たちが一つひとつ、迷いながらも手にしていく選択肢は、きっと私たちの道標にもなってくれる。
TBS系金曜22時~
出演:川口春奈、木南晴夏、畑芽育、松下洸平、井之脇海、木戸大聖、山中聡、伊藤俊介、内田慈、兵頭功海、YOUほか
脚本:金子ありさ
音楽:jizue
主題歌:SEKAI NO OWARI「Romantic」
プロデュース:新井順子
協力プロデュース:阿部愛沙美
演出:ふくだももこ、坂上卓哉
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