麻生久美子さん、映画『高野豆腐店の春』で「大好きな広島に帰れた」
「演じるべき作品に出会えた」
――映画『高野豆腐店の春』のお話を聞いたときの心境を教えてください。
麻生久美子さん(以下、麻生): 最初に脚本を読んだときに、「なんてシンプルでストレートなお話なんだろう」と思いました。すごくいいお話で、ストーリーがすっと体に入ってくる感覚がありました。
この映画は特に奇をてらったところがなく、父と娘を中心に、広島県の尾道で暮らす人々の日常を描いています。まさに、丁寧にじっくり作られる豆腐のようなお話だと思いました。映画の出演自体が久しぶりでしたし、このようなシンプルな映像作品に出演できることがとても嬉しかったですね。
あと、「広島弁だ!」と思ったんです。広島弁の響きが、かわいくてすごく好きなんですよ。私自身は関東出身で広島にゆかりはないのですが、2007年に『夕凪の街 桜の国』という広島が舞台の映画で、皆実という役を演じさせていただきました。そのときよりは標準語に近い方言ではありましたが、今回久しぶりに広島弁で演技ができたのが嬉しかったです。
――映画の中では広島の原爆についてのお話もありました。
麻生: そうですね。台本で原爆について描かれている部分を読んだときに、『夕凪の街 桜の国』とつながったなという感覚があったんです。私にとって、あの映画はすごく大事な作品で、演じた皆実は、他人ではない、自分自身のような感覚になった役だったんです。だから、そことつながったときに、「演じるべき作品に出会えた」「また広島に帰ってこられた」と思いました。
――豆腐作りには挑戦されましたか。
麻生: 教えていただきました。力仕事ですし、すごく難しかったです。お豆腐を切る水の中に手を入れた瞬間の冷たさは忘れられません。経験したことのない、しびれるような冷たさで、本当に驚きました。豆腐作りとはこんなに大変なお仕事なんだな、と実感しました。
――映画の中では大人の恋愛も描かれています。麻生さんがイメージする大人の恋愛とは?
麻生: 大人の恋愛……ですか。難しいですね。激しく燃え上がる恋も素敵ですが、大人になってからは長く一緒にいられる人、一緒にいて安心する人を求めるような気がします。
藤竜也さんとの親子の空気感を大切に
――高野春役を演じるにあたり、大切にされたことは?
麻生: 春さんは少し頑固だけれど、一生懸命でチャーミング。みんなに愛される可愛らしいキャラクターです。父と子の関係性が大きなテーマになっている作品なので、父親の高野辰雄役を演じる藤竜也さんと2人で作り出す空気感が親子に見えるように意識しました。
藤さんとは適度にコミュニケーションを取るように心がけて、休憩中も藤さんが最近興味を持っているものなどを聞いていました。そうやってコミュニケーションを重ねていくうちに、藤さんがどんな方なのかが見えてきて、少しずつ距離が縮まりました。
――藤竜也さんと親子を演じられた感想は?
麻生: 藤さんは本当に「お父さん」として存在してくれていました。藤さんのアイデアでアドリブを入れながら芝居を作っていくことが多くて。例えば、酔っ払って商店街を歩くシーンで、「歌を歌おうかなと思って」と相談してくださったり。そうやってどんどん素敵なお父さんになっていきました。
私自身も、一緒に生活している娘ならではの雰囲気がうまく出せればいいなと考えながら演じました。
――藤さんとご共演は初めてですか?
麻生: 20年くらい前に一度、映画で共演したことがあるのですが、その時は一緒のシーンはなかったので、今回がほぼ初共演でした。藤竜也さんと言えば大先輩の名俳優なので、最初は「怖い人だったらどうしよう……」とすごく緊張したんですよ。でも、全然怖くなかったです(笑)。優しくてチャーミングで、すごく素敵な方です。
そのほかの共演者の中村久美さんや、商店街のお友達を演じる皆さんとは、私は共演シーンは少なかったので、なかなかご一緒できませんでしたが、現場はすごくゆっくりしたいい時間が流れていて、とても居心地が良かったです。そんな温かい雰囲気が、見てくださる方にも伝わればいいなと思っています。
ヘアメイク:ナライユミ
スタイリスト:井阪恵(dynamic)
●麻生久美子(あそう・くみこ)さんのプロフィール
1978年、千葉県出身。1994年に三菱電機のテレビCMでデビュー。1998年に映画『カンゾー先生』のヒロインに抜擢され、日本アカデミー賞優秀助演女優賞を受賞。その後、『時効警察』『MIU404』『unknown』など、多くのドラマ・映画に出演。2児の母でもある。