シェアハウスの本棚を前にほほえむ『結婚してもシェアハウス』の著者・阿部珠恵さん

シェアハウスで寂しさを感じなかった私が、結婚・出産に至るまで

「シェアハウスに住んでいたら、結婚しなくてもいいかも?」そんなことをブログに書いたら、大炎上した過去があるという阿部珠恵さん(34)。 前半ではシェアハウス暮らしを始めたきっかけや苦労についてお話を伺いました。後半の今回は、「結婚しなくていいかも」と思っていた彼女がどうやって結婚・出産に至ったのか、お話を伺いました。

子宮頸がんをきっかけに出産を意識

結婚・出産の意識した一番大きなきっかけは、30代に差し掛かったタイミングで、子宮頸がんの前段階であることがわかったことです。そこで医師に「子どもを産むなら早いほうがいいよ」と言われ、出産のタイミングを初めて真剣に考えました。

新卒で人材サービスの会社に入社しキャリアパスを常に意識させられる環境だったので、ライフプランは常に考えているつもりだったんですが、いざ問題に直面してようやく「産みたい」と強く感じたんですね。

「子どもを産みたい」と思った時に、じゃあ結婚相手を探さなくてはと思いました。
シングルマザーとしてシェアハウスで育てることも想像したのですが、子どもに対する全責任を一人で負うのは、プレッシャーもありました。
今の日本だと、結局、法律婚が子育てをするにはスムーズ。私は形式に大きなこだわりはなかったので、産むなら信頼できるパートナーを見つけ、結婚するのが良いだろうなと考えたんです。

すでに短所を知っている相手と付き合うメリット

『結婚してもシェアハウス』の著者・阿部珠恵さん

「出産や子育ても考えてくれる結婚相手を見つけなきゃ」と考えていたタイミングで、今の夫と付き合いはじめました。
彼とは同じシェアハウスに2年ほど一緒に住んでいたのですが、サッカーのワールドカップの試合を観るために夜更ししながら飲んでいたことがきっかけで、いろいろ深い話をするようになり、交際に発展したんです。

シェアメイトと付き合うことのメリットは、すでにお互いの短所を理解しあっていること。例えば、私は酒癖が悪かったり、彼は料理が苦手だったり......。
そういうお互いの短所を知ったうえで交際がスタートすると、知れば知るほど相手のいい面をどんどん発見していけるんです。「ズボラなところばかり見てたけど、パートナーに対してはこんな優しさを発揮するんだ!」という気付きが増えるごとに、好意が積み重なっていきました。

恋愛感情を起点にせず結婚相手を選ぶ

シェアハウスの屋上に立つ『結婚してもシェアハウス』の著者・阿部珠恵さん

結婚相手を探す時に「恋愛する相手を探さなくては!」という感情にはなりませんでした。今のパートナーとの関係も、もちろん好きという感情はありますが、いわゆる純粋な「恋愛関係」とは違うかなと捉えています。
「昔から仲の良い男友達と結婚しちゃえば、お互いよく分かっていて気楽かも……」という話を30歳前後の女性としたこともありますが、その感覚に近いような気がします。

そもそも、私は恋愛感情をあまり信じていません。
恋愛感情に任せて好きになった相手がものすごくダメな人だったということって、ありますよね(笑)。

だから、一緒に子育てや人生を作っていくパートナー選びという意味では、恋愛感情を起点にしなくていいなと考えていたんです。私にとって一番の優先事項は、信頼関係を築けるかどうか。もちろん恋愛って楽しいし素敵なんですけど「すごく恋した相手の子どもを作るべきだ」と思っていた時期は通り過ぎてしまっていたんです。

それに、人生100年も生きていかなきゃならないなら、昔のトレンディドラマみたいな一瞬のトキメキだけで人間関係を継続していくのは難しいと思うんです。

お互いいろんなことを相談し合いながら一生付き合っていける、そう思った人と子育てをしたいという結論になりました。そういう点で今の夫のことはとても信頼しています。

「ゆるく繋がる」子育てを目指して

『結婚してもシェアハウス』の著者・阿部珠恵さん
夫婦で生活している部屋にて。

実は、子どもが生まれる前にシェアハウスから引っ越そうと思っているんです。今住んでいる部屋は8畳ほど。そこに夫婦2人で生活しているのですが、リビングやキッチンが別にあるとはいえ、少し狭いなと感じています。あと、建物の構造上、階段がすごく急なんですよ。赤ちゃんを抱いて上り下りするのはリスクがあるかもと考えて、近くに引っ越すことにしました。

「結婚してもシェアハウス」という本を出しましたが、もはやシェアハウス生活にこだわる必要はないと考えるようになりました。一つ屋根の下に住んでいなくてもお互いに助け合える環境は作れるということも分かってきたからです。その時々で自分にとって快適な住処を探っていくことの方が大事。

例えば、私と子ども2人だけで公園デビューするのはハードルが高く感じますが、近所に友達が住んでいたら、彼女の子どもと一緒に公園に行ける。シェアハウスじゃなく知り合いと近くに住むだけでも、新しいコミュニティに参加する敷居も下がりますよね。

「こう暮らすべき」という思い込みにとらわれずに、昔のご近所付き合いみたいな、ゆるい繋がりを地域で作っていけたらいいなぁとぼんやり思っています。

●阿部珠恵さんのプロフィール
1985年生まれ。人材サービス会社に新卒入社し経営企画・広報などの業務に従事したのち、スタートアップの広報部門立ち上げ経て、PR会社でコンサルタントとして働く
社会人2年目からシェアハウス生活を開始。「新しい暮らし方」の可能性を発信し続けている。

著書シェアハウス わたしたちが他人と住む理由」(辰巳出版)
  「結婚してもシェアハウス!」(幻冬舎)。

1983年生まれ。社会人13年で転職4回。バツイチ。恋愛・結婚・女性性・人間関係・生き辛さなどの話題に興味があります。お笑い・現代アート・バームロールが好きです。
写真家。1982年東京生まれ。東京造形大学卒業後、新聞社などでのアシスタントを経て2009年よりフリーランス。 コマーシャルフォトグラファーとしての仕事のかたわら、都市を主題とした写真作品の制作を続けている。