選ばない自由02

選ぶのが煩わしい日もある。日替わり1食限定の定食屋にみる生き方のヒント

日々仕事や人間関係の「選択」に悩むtelling,世代。自分らしい選択をしたいと思いながらも友人の目が気になって、ランチの注文で食べたかった「トンカツ」ではなく「サラダプレート」を選んでしまう……なんてこと、ないですか? 心当たりのある方は、あえて「選ばない」ことで自由になってみてはいかがでしょうか。今回はメニューは日替わりで1種類のみという、究極の「選ばない」が体験できる定食屋さんをご紹介します。

●選ばない自由02

北参道にある定食屋「asatte」のメニューは日替わり限定1種類のみ。毎朝10時過ぎに当日の定食をインスタグラムで告知します。飲食店では数あるメニューからオーダーするスタイルが多い中、なぜ1食限定なのか。そもそも選択肢が1つしかないと、どんな影響があるのでしょうか。代表の田中一央さんにお話を聞きました。

「はい、今日はこれ食べな!」とお母さんが作るような定食

――メニューを日替わり1食のみにした経緯は何でしょうか?

田中さん(以下、田中): 元々本業が建築関係の仕事で、業務が終わるのがいつも深夜2、3時だったんです。そこからご飯に行きたくても、周りはお酒メインか牛丼、ラーメン店ばかり。私はお酒をほぼ飲みませんし、牛丼、ラーメンは美味しいけれど毎日となると正直辛い。それなら社食代わりになるような、かつ実家のお母さんが作るようなご飯屋さんを作ろうと思ったのがきっかけです。

お母さんが作るご飯は1回の食事で1種類ですよね。「はい、今日はこれ食べな!」ってこちらが選ぶより出されたものを食べる。ハンバーグが食べたいなって思っても、出された焼き魚を食べる。食べ始めたらまぁ美味しいよねって感じることってありますよね。

――毎朝10時過ぎにインスタグラムで当日の定食を告知されるとのこと。お客さんの反応はいかがですか?

田中: インスタグラムの告知に加えて、店頭にもその日のメニューを貼っています。それを見てお客さんが入ってきたり、今日は違うなって思ってスルーしたり(笑)、そもそもメニューを確認しないで来る方も多いですね。毎日何を食べようか選ぶのが煩わしいと思っている方って案外多いと思うんです。もちろん、自分で考えて選びたい日もありますよ。でも選びたくない日もあるじゃないですか。選びたくないときに、選ばないといけない店しかないのが現状ですよね。ランチは特に時間が限られているでしょうから。

マニュアル通りにはいかないアドリブ力

――選ばなくていい自由もありますね。ただ、1種類とは言え毎日日替わりとなると、メニューはいつ考えたり、練習したりするのでしょうか。

田中: メニューは前の週に1週間分まとめて考えています。朝と夜は別メニューにしますし、来週の天候や気温、その日のスタッフ個々の技量に合わせてメニューを作っていきますね。

「お母さんの料理」と違うのは、毎回100人分の発注をかけるので、当日の気分でメニューを変えられないこと。基本はいつも定食ですが、変わり種で冷やし中華にすることも稀にあります。この夏に出してみたら意外と好評で、8月中に第2弾もやろうと計画したら、当日は寒くなってしまって……。そんなハプニングもたまにはありますが、決まりきった動きをするのではなく、今日は暑いから少し塩分を足してみようとか、日々スタッフが気を配りながら取り組んでいますね。

毎回味が変わってもいいじゃない

――メニューがたくさんあるより、その1食にかける思いが強くなったりするのでしょうか。

田中: そうなんですよ。その1食に集中できるのは大きい。あれもこれもと複数のメニューを考えながら調理するより、その1点だけに向き合える。当日の定食にかける思いも必然的に強くなりますね。さらに毎日違うものを作るので調理する側も飽きないですし。

また、味もその日によって変わっていいと思っています。そもそもお母さんって毎回きっちり同じ味にはならないですよね。私がイメージするのはアメ横や新橋。あのあたりで店を出しているおっちゃん達って、「昨日と味違うんですけど?」と言われても、「うるせーバカやろ!」ってなりますよね(笑)昔の日本ってそんな感じだったと思うんですよ。もし、味が違うと言われても「作っている人が違いますから~」で終わりです(笑)。食材も特別なものを取り寄せるより、基本的にはみんなが買えるものをいかに美味しく作るかが腕の見せ所です。

お客さんのイメージに合わせて器を選ぶ

――器や茶わんが1枚1枚違いますよね。お米もすごく美味しいです!こちらはこだわりがあるのでしょうか?

田中: 器は20~30枚あって1枚1枚違います。益子まで買い付けに行っていたり、身近なところで探したり柄も色もマチマチです。あまりに店内が混んでいるときは別ですが、普段はそのお客さんのイメージに合わせて器を選んでいますよ。

お米も実は岩手の農家から直接買っています。ただ、表向きには何に対しても拘っていないというのがコンセプト。お皿もお米もそうですが、確かにこだわりはあるにはあるんです。ただ、こだわりを前面に出すのも違和感があって。それよりも、明日だとプレッシャーなので「また明後日来てね!」と言えるような店でありたいと思っています。

●お食事処asatte
東京都渋谷区千駄ヶ谷3-2-8 第12宮廷マンション102
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東京生まれ。千葉育ち。理学療法士として医療現場で10数年以上働いたのち、フリーライターとして活動。WEBメディアを中心に、医療、ライフスタイル、恋愛婚活、エンタメ記事を執筆。