今夜もえびてん飲み【02六本木】

お料理も極上の気軽なワインバー、でもおすすめは「LS」って?【02六本木】

仕事が終わったら何します?そのまま家に帰るのはもったいない日もありますよね。こんな日は誰かとお酒を飲むのもいいけれど、自分の時間も大切にしたい。頑張った自分へのご褒美に、落ち込んだ気持ちを慰めに、ちょっとした好奇心を満たしに、私だけの空間、私だけの料理、そして私だけのお酒。そんな贅沢な時間、「一人飲み」。自分と向き合う最高のひとときを、ライター蛯原天がサポートします!一人飲みビギナーも、もっとお店を開拓したいあなたも、これを読めばきっと新しい世界が拓けるはず。さあ、今夜もえびてん飲み!

●今夜もえびてん飲み【02六本木】

連載2回目は六本木でひとり飲み。会社員から夜のお仕事の方、多数の外国の方々が集う喧噪の街・六本木での一人飲みは、正直ちょっと勇気が必要かも。今夜は冒険心たっぷりに、どこに飲みにいこうかな……?

オトナの六本木飲みは、お店を「ビル外観」から選ぶのも一興

六本木ヒルズ・東京ミッドタウンなどの大規模複合施設を中心に、昼にはビジネスマンや、タワーマンションの住民で溢れる一方、夜には外国人や若者向けの飲食店で24時間365日賑わうカメレオンタウン六本木。

日中はこの界隈のカフェで読書したり、美術館へ行ったりとアカデミックに自分をトリートすることが、最近の私の密かな楽しみでもあります。

私がまだつけまつげを片目に3枚くらいつけてた頃(敢えて何年前とは言わないが)は、夜通しで遊んだこともありました。汗でぐちゃぐちゃになりながら日比谷線の始発を待っていたのもいい思い出。

「卒業」。そう、言葉にするとそんな感じ。一度は離れたはずの、夜の街六本木。今夜は新たな体験を求め、ドキドキしながら舞い戻りました!

たどり着いたのは六本木通りに面したこのビル。鏡面の壁、飾りガラスのライト。これぞ日本の「ソシアルビル」です。エレベーターをあがり、やってきたのはこちらのお店。

ダイニングバー「Andante」。しっとりと仄暗いカウンターに腰掛け、隠れ家的なバーに出会えた喜びを噛み締めます。

オススメを聞いてみると、むむ?「レモンサワー?」。ワインバーですが最初の一杯にどうぞ、とのこと。しかも、この界隈ではレモンサワー略して「LS」って言うのだとか。知らなかったよ!ということで、早速注文。

▲LS 800円(税込)

広島県産の瀬戸田レモンを使ったレモンサワーは、やわらかな酸味。かつてこれほどに優しいレモンサワーがあったかというくらい落ち着く味です。何よりも嬉しいのが、このグラスの大きさ!後ろのボトルと比べてもわかるように、バーとは思えないグラスサイズに驚いていると、マスターの新井達也さんが声をかけてくれました。

達也さん:「グラス大きいでしょ?レモンサワーはごくごく飲むものだからね。あ、たくさん飲んで大丈夫だよ!無農薬の瀬戸田レモンと、ウォッカとソーダじゃ、太りようがないから(笑)」

屈託なく笑う姿は、まるで近所のお兄さんのよう。初対面とは思えないほどなごんでしまいます。

料理がとにかくおいしい! マスターに全てを委ねる

落ち着いたバーの雰囲気ながら、料理のメニューが充実しています。

「このお店のいいとこ取りが出来るものが食べたい」
とわがままなオーダーをすると、マスターは一刻考えて「OK、まかせて」と厨房へ。次々に料理が運ばれてきます。

▲生ハムと苺のサラダ仕立て 1000円(税込)

ホワイトセロリの爽やかさ、ルッコラの甘さ、フレッシュな苺と生ハムの塩味。全味覚を満足させるたっぷりのサラダ。こんな新鮮なサラダがバーで食べられるとは!

▲本日のお料理盛り合わせ 時価。右上から時計回りに、サワラのタタキでカルパッチョ、蛸と夏野菜のマリネ・ディルの香り、ガーリックトースト、カポナータ

お酒に合わせやすい鮮魚や野菜のタパスたち。

共通して言えるのは、「優しい味」だということ。カルパッチョにはミョウガの風味、マリネにはオリーブとディルの香り、カポナータはフレッシュトマトの甘みと、それぞれ素材の味が際立ち、外食にありがちな塩辛さやきつい酸味は感じません。アテをつまんでいるというよりは、夕食を食べている。そんな感覚になります。

▲帆立のスープ ??円

お酒がふわふわと気持ちよくなってきた頃、
達也さん:「はいよ〜、スープね」
と、ぐい呑みに入れられた熱々のスープが置かれます。帆立の旨味がぎゅーっと詰まったスープにはネギがたっぷり入り、和とも洋とも言えない癒やされる味。お酒を飲んだ身体にしみます。

何も言わなくても、私に必要な食べ物が出てくるってなんて幸せなんだろう。「ここはいつでもできたての料理が食べられるお店でありたいんですよ」と微笑むマスターに、実家の食卓を思い出し、センチメンタルな気持ちになります。

▲太刀魚のソテー タイムと味噌バターソース 1400円(税込)

メインはこちら。繊細な太刀魚の身は極限までふわふわにふくらみ、特有の若草のような香りが広がります。

達也さんの人柄と、お料理の優しい味わいにすっかり寛いでいましたが、きっちり本格的なコースを平らげていることに気づきます。合わせて、オーダーはワインへ移行。

丸みのある香りに、控えめな酸味。お料理からワインに至るまで、マスターの人柄を写したような優しさに感心しきりです。

▲ LOVE 赤・白 900円(税込)

バランスの良いこのワインは、お店のオススメ「LOVE」。世界的プレミアムワインを手掛ける醸造家パスカル・マーティ氏がチリで新たに立ち上げた今注目のワイナリー。赤もとてもバランスがよく、飲みやすくも満足感のあるワインです。

「行ってきます」と「行ってらっしゃい」の底知れぬパワー

カウンターの隣には20代前半の女性がふたり。

「パスタ食べたい!」と慣れた様子で注文すると、達也マスターからそれぞれ違う味のパスタを受け取り、一瞬で平らげます。私も〆にパスタを注文。

▲本日もパスタ お野菜たっぷりボンゴレビアンコ 1400円(税込)

本日「も」と付くだけあって、彼女たち曰くパスタはお店の看板メニューだそう。貝だけでなく野菜のお出汁もきいたボリューム満点のボンゴレ。 うん、おいしい!

えびてん流・一人飲みの極意:ほかのお客さんを敬遠しないで、自然に話してみる

それにしても、こういったバーに若い子も来るんだなーと思っていると、
「普段は渋谷の一休とかで飲んでますよー(笑)。でもここのパスタが美味しくて、たっちゃんさんがいい人だから、たっちゃんさんに会いに来てるんです」と答える彼女たち。

「六本木の人たちはいい人たちばかりだよね。情に厚いと思う」
と嬉しそうに私に語るやいなや、
「行ってきまーす!」
と夜の六本木へ飛び出していきました。

「はいよー。行ってらっしゃい!」と見送るマスターは、もう母親にしか見えません。

「行ってきます」も「行ってらっしゃい」も、暫く聞いてなかったな。これって物凄いパワーワードだなぁと思うと同時に、
六本木はそんな挨拶を自然と交わし合う、実は下町のような情緒が生きている街なのだと知りました。

20代前半までは、六本木といえばクラブへ直行していた私。

20代後半は、とにかくラウンジへ足を運んでいた私。

六本木の夜といえば、賑やかさと華やかさしか知らなかった私は、意外にも後輩から「安らぎ」という、新たな一面を教えてもらったのです。

一軒目で利用したときは「行ってらっしゃい」と出発し、はしご酒の終わりに訪れるときには「ただいま」と帰りたい、そんなマスターが待っている素敵なお店でした。

【おわりに】
ダイニングバーAndanteでは、「安談亭」という落語会を定期的に開催しているそうです!
六本木で落語会とは…、これまたますます下町感。
詳しくは店舗へお問い合わせください!

タレント・フリーアナウンサー / 八丈島うまれ、伊豆大島出身。生放送や式典のMCをはじめ、ナレーション、WEBメディアの執筆までを一手に請け負うマルチプレイヤー。