知念美加子の「MY LIFE, MY CLOSET」09

1回しか着ない洋服を買ってしまった。これって失敗だったの?

女性誌「ViVi」などで活躍中のスタイリスト知念美加子さんにとって、ファッションは「自分自身を高めてくれる日常」。その日、見た・感じた・聞いたことから感じたインスピレーションをファッションに反映するそうです。知念さんのファッションのルーツを知るべく、頭の中をのぞいてみました。

●知念美加子の「MY LIFE, MY CLOSET」09 ファッション×失敗

私のクローゼット、つまらない。

本当は着たいけど、似合わないから避けているデザインや色・柄の服、みなさんにはありませんか?もちろん私にもあります。でも、そこを超えてみるおもしろさにチャレンジしています。

20代の頃は骨盤が大きいことがコンプレックスで、カバーするような洋服を選びがちでした。タイトなスカートやスキニージーンズは避け、クローゼットの中は同じような形のボトムスばかり。全体のシルエットがいつも同じ。
ある時、それを「つまらない」と感じて、この「つまらない」という気持ちを大事にしてみることにしたんです。
「服が似合う、似合わない」ではなく「服を楽しく着ているか、そうでないか」。30代からはそれをテーマに洋服を選ぶことにしました。

「1回しか着なかった服」というと、当たり前だけど「買って失敗した服」というイメージになりますよね。
でも私、アリだと思っているんです。
例えばちょっとリッチなお店でディナーを食べる、数千円払って夢の国で一日過ごす。後には何も残らないけど、人はその特別な空間や体験にお金を払います。
食べ物やテーマパークにはそんな風にお金を使えるのに、洋服となると、途端に「何回着て元を取る!」と回数で割ったお勘定を始めます。
洋服だけが、何回も、何年も共にすることを前提に選ばなきゃいけないって窮屈じゃないですか?

H&Mで999円だった、ハーフスパッツ。10代20代の子のトレンドアイテムもこの金額ならチャレンジできる

着るという体験にお金を払う

ファッションにも「着るという体験にお金を払う」という感覚があってもいいと思います。
普段行かない場所に行く時、久しぶりの友達に会う時。プチプラなファストファッションのお店でいいんです。いつもなら手に取らないようなデザインの服を、体型も、家にある他の服との着回しも、全部無視して買ってみる。数千円で、洋服の冒険をしてみる。
出掛けた先で写真を撮って、インスタに1枚、その服を着て写った思い出が残る。それで全然いいと思います。

このたび、妊娠しました。あえてこの体型でピタピタファッションを楽しむのも、この時期だけしかできないこと。

失敗しないように洋服を選ぶんじゃなくて、今までの自分とは違う自分を発見するための1着を探す。機能性や正解を追求しない、はじめから一度しか着ないことを前提とした洋服選び。これって、すごくワクワクしますよ。
その出会いが、一回きりにならなかったなんてことも、もちろんあるかもしれない。自分のことがだんだんわかってきた30代だからこそ、この予想外の出会いは嬉しい。
たまにはそんな風に洋服を買ってみるのはどうでしょうか。

一度しか着なかった服を捨てるのは気が引けるという方もいるかもしれません。私も基本的には同意見。モノはなかなか捨てられない方です。なので、洋服を洋服じゃなくしちゃいます(笑)
最近だと、柄は気に入っているけれどもう着ないだろうなっていう服を細く裂いて、ドライフラワーを巻くリボン代わりにしました。洋服を洋服として扱わず、次の役割を与えてあげる。切って縫っての大リメイクなんて、そんな大事じゃなくて大丈夫。もう服として着ることはないけど、自分が好きだと思った柄を、部屋のどこかに少しだけ思い出として残しています。

365日完璧である必要はない

そうは言っても失敗したくない!という方へ。
「色、シルエット、素材」どれか一つだけをいつも着慣れているものから変えてみるのはいかがでしょうか。
例えばスカートの、丈や色で冒険するのは勇気がいるけど、素材を定番からハズしてみる。
そうやって変化することを楽しめるようになったら、次は色。今までは手に取らなかったようなカラーにチャレンジ。そして、シルエット。体型を隠す意識を思い切って捨てて、着ていて楽しそうな服に手を伸ばしてみてください。
「今日の私はコスプレ!」と割り切って、とにかく着てみちゃうのもオススメです。

洋服を選ぶことや、服を着ることって、人によっては億劫だと感じるかもしれません。
億劫だからこそ、正解を見つけようと考えすぎないで。365日いつでも、完璧な服装である必要はないって思います。完璧、とか、正しい、とか誰かが決めたその服、脱いでみませんか?

1987年、那覇市生まれ。スタイリストのアシスタントを2年経験し、2011年に独立。雑誌「ViVi」を中心に活動する人気スタイリスト。
大学卒業後、芸能事務所のマネージャーとして俳優・アイドル・漫画家や作家などのマネージメントを行う。その後、未経験からフリーライターの道へ。